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2026.01.27

ドラキュラの診察室 第2回:収束しないリンゴ病【トカン・ヴラッド】

2025年5月末、佐賀県武雄市に小児科クリニックを開院したトカン・ヴラッド医師。開院とぼぼ同時にリンゴ病(伝染性紅斑)の流行が始まり、12月になっても毎日のようにリンゴ病の患者さんを診断していたといいます。

文・写真:トカン・ヴラッド

新年を迎え、秋から猛威を振るっていたインフルエンザも、ようやく勢いが落ち着いてきました。小児科の一次医療(クリニックや診療所など)では、外来の患者さんの大半が感染症であることは、皆さんもご存知だと思います。

そこで今回は、最近、私自身が気になっている感染症についてお話ししたいと思います。

久しぶりに診た「リンゴ病」

私のクリニックは昨年(2025年)5月末に佐賀県武雄市に開院しました。その数日後、典型的な「赤いほっぺ」(写真1)と、四肢に淡い発赤(写真2)を呈する幼児が受診に訪れました。熱はなく、皮疹以外は元気そのものでした。

(写真1)リンゴ病(伝染性紅斑)の典型的な「赤いほっぺ」=国立健康危機管理研究機構提供

(写真2)四肢や体幹にみられるリンゴ病(伝染性紅斑)に特徴的な「レース状皮疹」=筆者撮影。掲載に同意してくださった患者さんと保護者に感謝します

「ああ、『リンゴ病』だな〜」とすぐに診断はつきました。

「リンゴ病の患者さんを最後に診たのは、いったいいつだろう?」。そんなことを考えながら、インターネットでも典型的な皮疹の画像を検索してみるなどし、その日は「佐賀では今、リンゴ病が流行っているんだなあ」と、軽く受け止める程度でした。

ところが、それからすぐ、週に2~3回、時には連日、リンゴ病を診断する日々が始まったのです。

日本では「かわいい名前」、英語では「物騒な名前」の伝染性紅斑とは?

リンゴ病は、医学的には「伝染性紅斑(erythema infectiosum)」といいます。日本語の「リンゴ病」という響きから、どこかほほえましい印象を受けますが、英語では「slapped cheek(平手打ちされた頬)」となかなか物騒な名前で呼ばれることもあります。

ヒトパルボウイルスB19が原因で起こる感染症で、潜伏期間は比較的長い2~3週間。厄介なことに、特徴的な皮疹が出る前の時期が最も感染力が強く、逆に皮疹が出る頃には感染力はほとんどなくなっています。

保護者から「保育園で登園許可証をもらうように言われたのですが……」と尋ねられることがあります。そんな時、私はこう答えます。

「はい、もう感染力はありませんから、明日から登園して大丈夫ですよ」

あっさり許可が出たことに少し拍子抜けした顔をする保護者もいますが、仕事をしている方には喜ばれます。

なぜ、リンゴ病がこんなに多いのか?

そして、昨年(2025年)7月ごろ、一度は患者数が減ったように感じましたが、8月から再び増え、9~10月にはほぼ毎日2~3人を診る状況になりました。

佐賀県感染情報センターが公表しているデータ(図1)を見ると、25年は県内で大流行していることが分かります。

(図1) 佐賀県における伝染性紅斑感染者の推移(定点報告)=佐賀県感染症情報センターのデータより筆者作成

感染症にはそれぞれ特徴的な流行周期があります。例えば、インフルエンザや手足口病、水痘(水ぼうそう)は毎年(時には1年に数回)、麻疹(はしか)や風疹は5年周期などです。

そして、伝染性紅斑は5~6年周期といわれています。20年初頭に流行の兆しが見られたものの、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行と徹底した感染対策も影響して、それ以降姿を消していました。

ところが、その「空白期間」の反動が昨年一気に表面化し、かなりの勢いで伝染しています。全国平均を見ると落ち着きつつあるようにも見えますが、佐賀県、特に私がいる武雄杵島地区(武雄市を含む1市3町)では、12月に入っても警報レベルを超えたままでした。

なお、伝染性紅斑の教科書的な好発年齢は3〜6歳なのですが、それよりも小学生の患者が目立っています。20〜24年前半に幼児期を過ごした子どもたちがこの期間に感染せず、今初めて罹患(りかん)している可能性が考えられます。

その他の感染症との二重感染は、決して珍しくない

ある日、典型的なリンゴ病の皮疹を呈した患者さんが来ました。冒頭で紹介した患者さんとは違う人です。皮疹に加え、高熱、強い倦怠(けんたい)感、激しいせきと鼻水の症状も出ていました。

「教科書的には、ここまで強い症状は……?」

違和感を覚えて抗原検査を行うと、インフルエンザ陽性でした。つまり、インフルエンザと伝染性紅斑との二重感染だったのです。おそらく、ヒトパルボウイルスB19に対する免疫反応が表面化したタイミングで、新たにインフルエンザに感染したのでしょう。実は、この原稿を書いている間にも、同様の患者さんを数人経験しました。

リンゴ病は「後になって」注意が必要

伝染性紅斑自体は多くの場合、最小限の対症療法で自然に回復します。しかし、注意すべき人がいることを忘れてはいけません。

妊娠前半期の女性が感染すると、「胎児貧血」や、それが重症化した「胎児水腫(胎児の胸やお腹に水がたまったり、全身にむくみが出たりする状態)」を起こし、流産・死産につながることがあります。また、溶血性貧血の基礎疾患を持つ患者では、赤血球の元となる赤芽球が壊され、重篤な貧血を来すことがあります。

そのため私は、神経質なくらい「周囲に妊婦さんはいませんか?」と確認するようにしています。中には「私が今妊娠しています」とお母さんが答える場合もあり、そのときには慎重に赤ちゃんへの影響の可能性について説明しています。

感染者の母数が増えれば増えるほど、貧血の重症例に遭遇する可能性も高くなるため、常にそのことを意識しながら診療しています。

「特徴的な皮疹」は、なぜ特徴的なのか?

ここから少し、医学的な「なぜ?」の話をします。

麻疹、風疹、溶連菌感染症、そして伝染性紅斑。これらは皆、特徴的な皮疹とその分布を示します。診断する側としてはヒントになるので大変ありがたいのですが、ふと疑問に思いませんか?

「全身に広がる病原体なのに、なぜだいたい決まった部位に毎回同じような皮疹が出るのだろう?」

ヘルペスウイルスのように神経支配領域によって説明できる場合は理解しやすいのですが、全身感染を起こすウイルスではそう単純ではありません。

皮疹を「免疫のドラマ」として見る

麻疹の皮膚症状の経過について、興味深い報告があります。

この研究によると、麻疹ウイルスは真皮に存在する免疫細胞に感染し、続いて「nectin-4」というタンパク質を発現する毛包周囲の「ケラチノサイト(角化細胞:表皮の大部分を占める細胞)」に感染した後、表皮内を横方向に広がっていくのだそうです。

その後、正常な免疫細胞によって感染細胞が排除される過程で、その感染細胞の分布に従って局所的な炎症が生じ、特徴的な皮疹として現れるという流れが判明したとされています。

なお、伝染性紅斑の限られた範囲にしか現れない皮疹および顔面とそれ以外の部位に見られる皮疹の違いについては、まだ十分な説明がなされていません。

しかし、別の研究で、顔と体幹では皮膚構造や免疫細胞の種類、放出されるケモカイン(自身や他の細胞を興奮させるために細胞が放出するタンパク質。「サイトカイン」の一種)が異なることが示されています。私は、これが関連している可能性があると推測します。

機序を考えるという姿勢

忙しい日々の診療の中で、皮疹を見て「リンゴ病だな、次!」と流してしまうこともできます。むしろ、「なぜだろう」ととどまって考えることは、余計なことだと思う人もいるかもしれません。

しかし、クリニックであろうが、大学病院であろうが、医師にとって目の前の現象を機序から理解しようとする姿勢は不可欠だと思うのです。それは知識の広がりにつながるだけでなく、病態を正確に把握し、結果として、時には患者を誤診や誤対応から守ることにも直結するからです。

若手医師の皆さんには、臨床の中で目にする現象について、「こういうもんだろう」で片付けず、ぜひ立ち止まって考える習慣を身に付けてほしいと願っています。
トカン・ヴラッドプロフィール画像

トカン・ヴラッド

ルーマニア出身の小児科医。1995年に来日。京都大学で日本文化を専攻し、卒業後に茶道裏千家に勤めながら茶道の修行を積む。

その後、九州大学医学部に入学し、医師国家試験合格。専門は小児内分泌学、先天代謝異常症、臨床遺伝で、小児科専門医・指導医、内分泌専門医、人間・環境学修士、医学博士の資格を持つ。

九州大学病院をはじめ福岡県内の病院での勤務を経て、2025年に佐賀県武雄市で小児科クリニック「わかば子どもクリニック」を開業。