2023.12.28
ブタの心臓移植、2人目も失敗▽mRNA研究者にノーベル生理学・医学賞 コロナワクチン開発に貢献▽CRISPR遺伝子治療 世界初承認▽注目集めた肥満症治療薬▽両親がオスの赤ちゃんマウス誕生 卵子は皮膚細胞から作製
世界各国の大手メディアや医療メディアなどが配信しているニュースの中から、皆さんにぜひ知ってほしいものをマイシュー(毎週)選んでお届けしてきました。前回に続き、今回も2023年の重大ニュースを振り返ります。
まとめ:医療ニュース編集部

米メリーランド大学が9月22日、ブタの心臓を58歳の男性に移植したと発表しました。ブタの心臓をヒトに移植するのは世界で2例目です。男性は末期の心臓病患者で、末梢血管疾患や内出血を伴う合併症があるため、通常の心臓移植には不適格だったといいます。心臓は拒絶反応を抑えるための遺伝子操作を加えたブタのもので、手術は9月20日に行ったそうです。
1カ月後、大学は男性が回復に向けて懸命にリハビリに励む様子を撮影し、その映像を公開しました。この際、大学は「男性は立てるようになっており、歩くのに必要な体力の回復に努めている」「拒絶反応の兆候はなく、心臓は自力で機能している」と説明したといいます。
しかし、大学は11月1日、男性が術後6週間で死亡したと発表しました。術後1カ月は順調に回復していたのですが、その後に拒絶反応の兆候が出始め、10月30日に死亡したそうです。大学は
2022年に同様の移植を世界で初めて実施しました。その際は、患者は2カ月後に死亡しています。1例目の患者の心臓からは、死後の調査でブタウイルスの痕跡が見つかったため、2回目は移植前に念入りな検査が行われていたといいます。

2023年のノーベル生理学・医学賞は、ハンガリー出身のカタリン・カリコ氏と米国出身のドリュー・ワイスマン氏が受賞しました。両氏は米ペンシルベニア大学で遺伝物質「メッセンジャーRNA(mRNA)」に関する技術を研究し、新型コロナのmRNAワクチンの実現に大きく貢献しました。
mRNAはタンパク質を作るための情報を含んでいます。免疫細胞に攻撃させたいタンパク質の情報を持ったmRNAを人工的に作り、生体に投与して体内でそのタンパク質を合成させるのがmRNA技術の基本的な考え方です。しかし、mRNAを投与した際に生じる炎症反応がワクチン開発の障壁になっていたそうです。2人はmRNAの一部の化学物質を置き換えることでそれが抑制できることを発見し、05年に研究成果を発表したといいます。
mRNA技術は新型コロナだけでなく、さまざまな感染症のワクチン、がん治療、ピーナッツアレルギーの予防・治療にも利用できる可能性があり、研究が進んでいるそうです。

英医薬品医療製品規制庁(MHRA)は11月16日、ゲノム編集技術「CRISPR(CRISPR/Cas9」を使った治療法を世界で初めて承認したと発表しました。米食品医薬品局(FDA)も12月8日にこの治療法を承認しています。
承認された「Casgevy(キャスジェビー)」(旧exa-cel)は遺伝性血液疾患の「鎌状赤血球症」と「サラセミア」向けの治療法です。両方とも、赤血球が酸素を運ぶ時に使う「ヘモグロビン」というタンパク質の遺伝子変異が原因で起こる病気です。貧血や激しい痛み、臓器損傷などを引き起こします。
Casgevyは12歳以上の患者が対象です。患者本人の骨髄から取り出した幹細胞をゲノム編集した上で、患者の体に戻します。永久的な治療効果が期待できるそうです。ただ、CRISPR/Cas9は狙った遺伝子とは異なる遺伝子を編集してしまう「オフターゲット」を起こす可能性があり、懸念を示す研究者もいるといいます。
ゲノム編集技術CRISPR/Cas9については、開発者の2人が2020年のノーベル化学賞を受賞しています。

今年は、肥満症治療薬(減量薬)に関するニュースが目立ちました。注目されたのはGLP-1受容体作動薬で、2型糖尿病の治療薬として知られています。GLP-1は、血糖値が上がると小腸から分泌されるホルモンです。すい臓のβ細胞にあるGLP-1受容体に結合してインスリンの分泌を促します。また、中枢神経に働きかけて食欲も抑えます。このGLP-1と同じ働きをするのがGLP-1受容体作動薬です。
最近では、米イーライリリー社の肥満症治療薬「ゼップバウンド(一般名・チルゼパチド)」について、減量効果を維持するには薬を使い続ける必要があるというニュースが出ました。米国の研究チームの研究で、ゼップバウンドの使用をやめるとリバウンドしてしまうことが分かったのです。
ゼップバウンドは、11月8日に米食品医薬品局(FDA)が承認したことを発表しました。糖尿病治療薬として承認されている「Mounjaro(マンジャロ)」の新バージョンです。近年はマンジャロが肥満治療に適応外使用される例が増えていたそうです。ゼップバウンドは肥満患者の体重を19~27kg減らす可能性があるといいます。その効果は、ノボノルディスク社の肥満症治療薬ウゴービ(一般名・セマグルチド)を上回るとのことです。
GLP-1受容体作動薬は、その効果の高さから、世界中で使用者が増加しているそうです。しかし、胃腸障害を引き起こす可能性があったり、自傷や自殺念慮のリスクを高めたりする懸念があり、使用には注意が必要です。
現在、GLP-1受容体作動薬は皮下注射で投与するものしかありませんが、ウゴービやイーライリリーの「orforglipron(オルフォルグリプロン)」について経口薬の治験が進んでいます。ファイザーの「danuglipron(ダヌグリプロン)」の1日2回飲むタイプは、副作用で吐き気や嘔吐を訴える参加者が多く、治験を中止しています。

大阪大学の研究チームが今年3月、両親がオスの赤ちゃんマウスを誕生させたという驚くべき研究成果を報告しました。
チームはまず、オスマウスの皮膚からiPS細胞を作成。このiPS細胞はオス由来なのでXY染色体を持ちます。そこで、iPS細胞培養中に起こる細胞分裂のエラーを利用し、卵子(XX染色体)を作り出したといいます。できた卵子と別のオスのマウスの精子を受精させてメスのマウスに移植したところ、赤ちゃんが生まれたのだそうです。ただし、移植した受精卵が赤ちゃんとして誕生する成功率は約1%だったとのことです。この技術がヒトに適用されるまでの道のりは非常に長いといいます。
今年の『マイシュー』は今回が最後です。いつもマイシューを読んでくださっている読者の皆さん、ありがとうございます。よいお年をお迎えください。2024年もホットな世界のニュースをお届けしますので、引き続きよろしくお願いします。
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金子省吾:記者・編集者。2017年から地方紙に勤務し、主に社会部の記者として事件・事故や司法、市政、スポーツ、気象、地域活性化の取り組みなどを取材した。20年にマイナビに移って医療の取材をはじめ、グループ会社が運営するオンライン臨床支援サービス『ヒポクラ×マイナビ』編集部で医療ニュース作成に携わった。現在は『マイナビRESIDENT』や『マイナビDOCTOR』などの各種コンテンツを制作している。
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阿部あすか:翻訳家、ライター。東京外国語大学(英語専攻)を卒業後、大手法律事務所の米国人弁護士などの秘書、英会話学校の講師、専門紙の英語版編集者として勤務した。2019年から編集部の一員として医療ニュースの記事を執筆している。