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2022.10.21

【金子稔医師】診療所におけるモチベーションの維持と自己研さん(第8回)

群馬県の長野原町へき地診療所の金子稔医師は着任当初、専門医の資格がないことに引け目を感じていたといいます。そんな金子医師が、医療の質を高めるために行っている自己研さんとモチベーションの維持についてつづっています。

医師になって5年目の、群馬県長野原町で働き始めた当時(2015年)、持っている医療に関する資格は医師免許のみで、救急関連の研修の受講歴がいくつかある程度だった。なんだか武器がないような気がして、診療所でたった一人の医師として働くことに、少し不安があった。総合診療医として、地域に根差した医療を実践するためには自分に何ができるのかと悩んでいた。ある程度の経験を積んだ今となってはこの感情は薄れているが、当時は真剣に考えていた。今も専門医の資格は持っていないのだが、質の高いへき地医療を行うために有用な資格はたくさん取得している。今回は、私が自信を持って診療に当たるために、どのように自己研さんとモチベーションの維持をしているかについて話そうと思う。

文/金子稔

専門医の取得が主流だが……

医師は医師免許だけ持っていればいいという見解もあるが、やはり「専門医」を取るのが主流だ。私は機会がなかったために取っていないけれど、専門医の取得は自信にもつながるし、周囲への説得力にも影響することは間違いない。

医療のベースを問われたとき、私は「プライマリ・ケア認定医」と答える。町の人たちはあまり気にしていないかもしれないが、こういう専門性のある医師なんだということで、「骨折でも、子どもの病気でも、あそこの先生は何でも見てくれるから、とりあえず相談してみよう」と、少しでも思ってもらえるといい。また、認定医があることは、自信を持ってプライマリ・ケアをやり続けていこうという気持ちにもつながっている。

プライマリ・ケア認定医の認定証

資格ではないが、診療報酬を請求する上で必要になる研修というものもある。例えば、国立長寿医療研究センター(愛知県大府市)が実施する「認知症サポート医養成研修」や、日本医師会が行っている「かかりつけ医機能研修」などがそれに当たる。実用的なものをその都度、受講していく形だ。最近は ウェブ講習会も多く、地理的な制約はなくなってきている。

ケアマネージャーの資格取得を通して、思わぬ気づき

取得して良かった資格の一つに、介護支援専門員(ケアマネージャー)がある。今や、医療と介護・福祉分野の連携は、地域包括ケアシステムの運営に不可欠となっている。取得してから実際にケアマネージャーの業務をすることはないが、高齢者が安心して暮らせる地域づくりについて話し合う「地域ケア会議」に出席することや、介護サービスを受けるための要介護度を決める「介護認定審査会」の委員として意見を求められることがあるので役に立っている。

ケアマネージャーの資格を取るに当たって参加した研修会で感じたことがある。医師・看護師と介護士などの職種の間で、イメージにずれのある言葉が存在するということだ。例えば、「まひ」という用語。医療従事者の間では、脳梗塞や心不全などにより、中枢神経から信号が送られず、腕や足が動かない状態を指すことが多い。一方、介護の職場では、主にリウマチなどで指先や手首が動かないことを指すと知った。正確な意思疎通をとることが連携の質を高めると思うので、職種を越えて言葉のイメージを共有することに努めている。

在宅医療では、訪問看護師が医師と介護士の間に入って業務を行うような構図になる。その際、看護師は「通訳」となり、医師が考えていることを介護士に伝えてくれる。でも、できれば私も直接介護士に思っていることを伝えたいと思っている。そのためにも、介護士の仕事や、彼らの持っている感覚を学んでいきたい。

診療所内に掲示している認定証や修了証書

無理なく日々の学習で知識をアップデート

必要に応じて知識のアップデートも行う。読みたい仕事関係の本は診察室の片隅に置いておき、診療の合間や、仕事が終わった後に読むようにしている。また、官舎に帰ってリラックスしながら勉強したり、土日曜日に子どもたちに宿題をさせて自分も机に向かったりして、都心部の医師に後れを取らないように努力を続けている。

勉強のために診察室に置いている本=筆者提供

私は、多趣味というか、広い範囲をつまみ食いして知識を広げることが好きなので、ケアマネージャーなどの資格の勉強は専門外の知識を得るとても良い機会になっている。もちろん、日々の診療に必要なガイドラインを頭に入れておくことも重要である。また、日本医師会では生涯教育の一環としてeラーニングの研修制度もある。これは、かかりつけ医として必要な知識を整理するために有用なので活用している。

また、診療から少し離れた話でいうと、町村単位で行うマラソン大会の救護所の管理をすることもある。数年前は、言ってみれば「何となく」救護所の運営をしていた。日本医師会認定健康スポーツ医の資格を持っていたが、自信を持って救護所運営をするにはどうしたらよいかを模索している中で、日本体育協会(現日本スポーツ協会)公認スポーツドクターという上級資格があることを知り、その研修も受講した。「プロ・アマアスリートの診療について」がメインの内容であったが、マラソン大会の運営方法なども勉強することができた。日々の診療以外でも、こういったところで町の人たちを支えるのも自分の役目だと思っている。

マラソン大会の救護所=筆者提供

医師がたった一人のへき地診療所で、モチベーションを保つ秘訣

目の前のへき地医療を滞らせずに、医療の質をレベルアップさせたいと思っている。そういう意味では、数年間診療所を離れ、大学病院で研修を受けることは難しい。だから、かかりつけ医として必要な知識を、自らしっかりアップデートしていかなければならない。

そのためには、モチベーションを保つことが必要だが、それが難しい状況も多々ある。心身ともに疲弊しているときには「なんで自分だけこんなに忙しい思いをしなければならないのだろう」と落ち込んでしまうことはある(だいたい一晩寝ればリセットされることが多いが)。

気分の浮き沈みがある中で、この連載や町の広報誌「広報ながのはら」でメッセージを発信することは、私にとってのモチベーション維持につながっている。発信することで多くの人に自分の思いや行っていることを伝えることができるし、自分はこういう目的を持って日々の診療に当たり、そのために学び続けているのだということを客観的に見直すこともできるからだ。

月1回のペースで発行される広報ながのはら。診療所からのメッセージを発信している=いずれも筆者提供

医師になって2、3年目の頃に母校である自治医科大学の同窓会で「へき地医療に光が当たるようにできることは何でもやっていこう」と仲間と語り合って以来、発信に力を入れ始めた。メディアなどから頼まれた仕事は積極的に引き受けている。幸いなことに、新聞やテレビに取り上げられる機会が増えた。へき地医療の実情やそこで働く我々の努力に関心を持ってくれる人が少しでも増えているのであれば、うれしいことだ。

そうは言いつつ、一番元気をもらえるのは、患者さんからの感謝の言葉や、他職種の人たちからのねぎらいの言葉だ。それをもらい続けられるように、モチベーションの維持と自己研さんに努めている。

長野原町について

群馬県北西部に位置し、山林・原野が町の80%を占める。5409人、2509世帯(2021年9月)が暮らし、高齢化率は32.8%(15年。全国平均は26.6%)。前橋市まで車で1時間強、東京都心までは3時間弱。温泉や牧場、ゴルフ場やキャンプ場があるほか、町の南部の北軽井沢地区は別荘地で、夏場は蜂に刺された人やレジャーでけがをした人がへき地診療所に訪れることもある。長野原町ホームページ

10月に入り、山歩きをすると足元には無数の栗。9~10月はきのこの季節でもある=つなぐカンパニーながのはら提供

PROFILE

金子稔(かねこ・みのる)医師

1984年、前橋市生まれ。2011年に自治医科大学卒業後、13年に群馬大学医学部付属病院で初期研修を修了。同院救急部を経て15年、長野原町へき地診療所の所長に就任。勤務しながら、17年には群馬大学大学院医学研究科で博士号を取得している。趣味は家庭菜園、野球、ボウリング(ベストスコアは238)、ランニング(月間250㎞走ることも)、ダイエット(96㎏→70㎏)。「汗をかく。人の2、3倍頑張る」がモットー。

金子医師プロフィール写真