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2025.06.10

小徳羅漢医師(10)ひみつ道具がなくても、英語ができなくても、生成AIフル活用で国際学会に出られます!

「海外の学会に参加したいけど英語力が……」。かつてそう思っていた小徳羅漢医師が、韓国で開催された家庭医の国際学会へ。参加を可能にしたのは「生成AI」だといいます。生成AIを駆使して臨んだ学会の様子をたっぷりとお届けします!

「うわ~ん、海外の学会に参加したいよ~!」と泣きつく英語力のないのび太君に、「しょうがないなあ~。ほんやくコンニャク~!」とひみつ道具を出すドラえもん――。一昔前なら、僕はこんなことを想像し、現実に戻ってため息をついていたかもしれません。でも今は、ドラえもんがいなくても、ひみつ道具がなくても、生成AI(人工知能)があります。帰国子女じゃなくても、留学経験がなくても、離島に住んでいても、国際学会で発表できるんです。英語が苦手な僕が、生成AIの助けを借りて、韓国・釜山で4月23~27日に開催された「WONCA(世界家庭医機構) Asia Pacific Region Conference(アジア太平洋地域学会)2025」に、発表者として参加してきました!

文・写真提供/小徳羅漢

RDAQ Conferenceの会場入り口=オーストラリアで2018年
大学生の時、英語の授業は成績別にクラス分けされていました。僕はいつも一番下のクラス。他のクラスは外国人の先生が英語で授業をしている中、僕らのクラスは日本人の先生に日本語で英単語を教わっていました。ですが、僕は「日本の離島で働くから、英語なんて関係ないや」と特に何とも思っていませんでした。

その意識が変わったのは医師3年目の時のこと。へき地に特化した総合診療医を育てる研修プログラムを実施する「ゲネプロ」の当時の代表で、大変お世話になっていた齋藤学先生に連れられてオーストラリアの「RDAQ(Rural Doctor Association of Queensland)Conference:クイーンズランドへき地医師会総会」に初めて参加したのです。世界中で「へき地医療」の研究が盛んに行われていることを知り、自分の視野の狭さに衝撃を受けました。

僕はずっと、離島にいながら、臨床も教育も研究もできる医師になりたいと考えていたのです。それを本当の意味で実現するためには、国際学会で発表することを当たり前のようにやらなくてはならないのだと思い知らされました。

へき地医療の中にも、解決したい「Research Question(研究的疑問)」がたくさんあります。国際学会で発表するネタは十分にあるのです。だけど、僕は英語が苦手ですし、応募の仕方や資料の作り方も分からず、国際学会で発表するためには、いくつもの障壁があると思っていました。ですから、「2027年ごろにWONCA(世界家庭医機構)で発表する」という目標を立てたのです。

しかしそれが、生成AIの急発展で思ったよりも早く実現しました。

Geminiが実際に作ってくれた抄録=2025年4月
憧れのWONCAの国際会議で発表するためには、研究の抄録を送り、審査に通過しなくてはいけません。そのためにやったことは次の通りです。まずは、発表したい研究の概略や症例報告について、抄録を日本語で作成。それをWONCAの規則に従って米グーグルの生成AI「Gemini(ジェミニ)」に整えてもらった上で、英訳してもらいました。そして、そのGemini作の英語の抄録をホームページから登録――するだけでした。

そして、開催の約2カ月前、演題通過を知らせるメールが届きました!

本筋とは離れますが、参加費が4~10万円と、た、高い……。ただ、日本ではどんな人も一律2~3万円程度のことが多いのですが、WONCAの国際会議は立場によって参加費が異なり、研修医や学生は安い(それでも高いですが)という特徴がありました。

僕の勤務先「みんなの診療所」の原純所長や職員の皆さんの前で発表練習!=鹿児島県大島郡で2025年4月
さあ、本番に備えて発表の準備です。ここでも生成AIが大活躍してくれました。

まずは、抄録をそのままGeminiのテキスト入力欄に貼り付けて「7分間の発表をするので、読み上げ用の英語原稿を作ってください」とお願いをします。すると、ものの5秒で英語原稿の出来上がりです。追加で「聴衆からどんな質問が来ると考えられますか?」と聞くと、想定される質問とそれに対する答えを羅列してくれました。

ここまで来たら後は、ひたすら英語でプレゼンテーションの練習をするだけです。生成AI「ChatGPT(チャットGPT)」に備わっている「音声会話機能」を使えば、僕の発表練習の声を聞いた上でアドバイスをくれるなど、練習相手もしてくれます。4月から働いている「みんなの診療所」の原純所長や職員の皆さんの前でも練習をさせてもらいました。

励ましの言葉をもらい、準備は万端! 本番を迎えるだけとなりました。

社会的処方の「先進国」・シンガポールの取り組みについての発表を聞きました=韓国・釜山のWONCA国際会議で2025年4月
僕の発表は、5日間ある日程の最終日だったので、それまでは他国の家庭医の発表を聞いたり、ワークショップに参加したり、参加者と交流したりして過ごしました。ワークショップは、それぞれ個人的に興味のあるトピックだった「社会的処方」と「筋膜リリース」の二つに参加してきました。

「社会的処方」とは社会から孤立している患者や相談者に対し、社会的なつながりを持てるように支援する取り組みのことです。先進的な取り組みをしているシンガポールで、国を挙げたプロジェクトを指揮している医師の発表を聞くことができ、とても勉強になりました。それから、さまざまな国の人で構成する少人数のグループに分かれ、自治体レベルで行う具体策を話し合いました。

僕らのグループは、実際に僕が奄美大島で行っている「暮らしの保健室」――地域住民にコーヒーを配り、健康についての相談に乗る活動を題材に、より効率的かつ効果的に実施するための方策を議論して、その結論を全体に向けて(なんと僕が!)発表しました。

結論としては、不定期で開催している「暮らしの保健室」を定期的に開催するようにし、利用者の記録を取って、データに基づいて計画的に運営していくとより良くなる、ということになりました。これを奄美で実現できるように頑張ります!

アン・カン医師(右)が患部の超音波検査をしながら、「筋膜リリース」を実演・解説中=韓国・釜山のWONCA国際会議で、2025年4月
「筋膜リリース」は疼痛に悩む患者の炎症部分に薬液や生理食塩水を注射し、筋膜の癒着をはがすことで痛みを軽減する治療法です。そのワークショップでは、“神業”を持つといわれている韓国のアン・カン医師が実際の患者さんに対し、持ち運び可能な小さな超音波検査機器を使ってその場で診察と診断をし、局所麻酔を打って治療するまでを目の前で実演してくれました。

患者さんは初め肩も腰も膝も痛いと訴えていましたが、アン医師が手を動かすたびに痛みが消えていくと言っていました。それは魔法のようで、周りの医師たちも食い入るように見ていました。

アン・ムギョン医師が耳鼻科診療用のカメラを実際に使って見せてくれました!=韓国・釜山のアン医師のクリニックで2025年4月
ワークショップに参加した日の午後、数人で集まり、家庭医歴25年のアン・ムギョン医師のクリニックに見学に行かせてもらいました。

エコー(超音波)やレントゲン、心電図の検査機器、耳鼻科用の診察機器、血糖値やコレステロール値をその場ですぐに調べられる検査キットなど、患者の負担を軽減するための設備が充実している印象を受けました。

高血圧や糖尿病の合併症の予防に力を入れていたり、そのために必要な医療機器がそろっていたりと、僕の職場「みんなの診療所」と共通点が多く、プライマリケアはどの国でも同じように、地域の患者のために本当に必要な医療が詰まっているのだと実感しました。

「卓上のPCにスライドのメモが表示されない……!」。パニックです。実はPC脇の小さな機器に表示されていたのに途中までそれに気づかず、しどろもどろ。写真は、立て直した直後です(笑)=韓国・釜山のWONCA国際会議で2025年4月
最終日、いよいよ自分の発表が回ってきて本当に緊張しました。

まだ論文として発表できていないので内容は詳しくお伝えできませんが、「総合診療医が産婦人科スキルを学ぶことで、地域のお産を守ることにつながる」という岐阜県恵那市の取り組みについて、発表しました。

市立恵那病院に、近隣の医療機関で働く総合診療医が産婦人科医療を実践的に学ぶ場を作るという、市を挙げた取り組みです。総合診療医が妊産婦ケアや分娩(ぶんべん)に関わることで、安心して産み育てられる地方の環境を守ることが目的です。

韓国の医師(立っている女性)から質問が!=韓国・釜山のWONCA国際会議で2025年4月
発表後、韓国の医師から、恵那市の取り組みへの称賛の言葉と「実際に分娩施設への妊婦のアクセスは増えたのか」という質問をもらいました。現状では、恵那市の出生数は増えていないそうですが、市立恵那病院の分娩数が増えているそうです。このことから、近隣自治体からのアクセスが増えていると思われること、そして、今後も継続して研究していきたいことを、何とか英語で伝えられました。

国際学会に発表者として参加するのは初めてで、かなりドキドキしましたが、めちゃくちゃ楽しかったです! 学会を通して、世界の家庭医がどんな診療をしているのか、診療と並行してどんな研究をしているのか、トレンドを肌で感じることができました。日本で総合診療医はマイノリティーですが、世界中にはたくさんの総合診療医がいて、活躍していることが分かりました。そのことを心強く感じました。

心配していた英語に関しては、うまく話せなくても、伝えようとする気持ちとくみ取ろうという気持ちがお互いにあるので、実はそこまで困りませんでした。そのことが分かったのも大きな収穫の一つでした!

今回は家族がついて来て、応援をしてくれました。おかげで、リラックスして発表に臨むことができました。そして、父の挑戦している姿を見せた娘からは「お父さんかっこいい」と言ってもらえました! 学会の合間に観光も楽しめました。

国際学会の大舞台で発表することが、僕の大きな目標でした。英語が不得意かつ離島で臨床をしている僕が、国際学会で発表をしたという事実が、一歩が踏み出せずにいる若手を後押しできたとしたら、うれしく思います。いつか、僕にとっての齋藤先生のように、自分が後輩を海外の学会に連れて行ってあげたいとも思っています。

また国際学会で発表ができるように、奄美大島で臨床をしながら、コツコツ研究も続けていきます!

PROFILE

小徳羅漢(ことく・らかん)

小徳羅漢さんのプロフィール

鹿児島県立大島病院に勤務。
1991年、茨城県生まれ。小学校高学年の時から神奈川県で暮らす。16年、東京医科歯科大学卒業。鹿児島市医師会病院で初期臨床研修後、18年には長崎県上五島病院で、19年には離島へき地医療の最先端といわれるオーストラリア・クイーンズランド州で研修。20年から現職。街中で医師らに無料相談ができる「暮らしの保健室」を開催している。趣味は温泉巡りと映画鑑賞、そして島巡り。18年に結婚し、20年に夫婦で鹿児島県奄美市に移住。2人の子どもを育てている。
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