研修医の皆さん、将来の入局先は決まりましたか? 循環器内科? いいねー! 心臓は「心」の臓器。循環器の先生は熱い人が多いから君にぴったりだよ! 神経内科? 神経診察キットを使って入念な診察をして診断していくシャーロックホームズ! 賢い君にはぴったりだ! 外科? いいねー! かっこいいねー! 体力もあるし、患者さんの話をしっかり聞くし、手先も器用な君なら大丈夫だ!
美容外科……? ……え? なんで君みたいな優秀で、優しくて、患者さんや看護師さんからも信頼されている人が……思いとどまってくれ! 行かないでくれ! 「直美(ちょくび=初期研修を終えてすぐに美容医療の道に進むこと)」だけはやめてくれーー!
というように、どうしても美容外科だけは差別しちゃう指導医の先生はいませんか? 今回は、直美が抱えるさまざまな問題を解決できるかもしれない「直美前離島研修」を紹介します!
文・写真提供/小徳羅漢
「現実」にぶち当たって、美容外科をやろうと思っていた医学部6年生の僕=2016年
実は僕も大学6年生ごろまでは、将来は田舎で医療用レーザーだけで開業して、一生おばあちゃんたちのシミ取りをして生きていこうと思っていました。形成外科専門医を取って、美容外科を専門にやるつもりでいたんです。
というのも、離島で人の役に立ちたいという志を持って医学部に入ったものの、いざ実習で現場に行くと、患者の生き方よりも医療を行う側の方針が優先されるような場面を目にしたからです。自分の理想とはかけ離れていたため、目に見えて成果が出て患者さんを笑顔にできる、美容医療が魅力的に思えました。
美容医療をしている医師たちは「きれいになった患者さんが前向きになることがうれしくて続けています」と、よくSNSで発信しています。美容外科医として働けば「病気」ではなく「人生」に寄り添うことができる――。僕のように夢と現実とのギャップに悩んでいる若手医師から見ると、とても魅力的に感じるんじゃないでしょうか。
「美容外科じゃなくてもいいじゃん」というきっかけをくれたのは、漫画『Dr.コトー診療所』のモデル・瀬戸上健二郎先生でした=鹿児島県下甑島で2017年3月
僕の島への愛が再燃したのは、初期研修で離島を訪れた時。そこに住む人の人生に寄り添うことができ、島ごと自分が診ている感覚を持てる魅力にすっかり取りつかれました。離島での生活も気づけば8年目です。
また、漫画『Dr.コトー診療所』(小学館)のモデルになった瀬戸上健二郎先生が、眼瞼下垂(がんけんかすい)でまぶたが下がって前が見えなかったおばあちゃんを手術したら「笑顔になったんだよ」と、写真を見せてくれました。それで、別に美容外科に行かなくても「患者さんを笑顔にできるじゃん」とも思ったんです。
僕が来年度から働く「みんなの診療所」です! 奄美大島の雰囲気とマッチした素敵な診療所です=奄美大島・龍郷町で、2023年10月
「直美」の問題点は、医師の一般臨床能力が低くなること、「保険医」不足の深刻化を招くことです。それを解決できるのが「直美前離島研修」というわけです。
これは、離島医療仲間(下甑島の室原誉伶先生、東京都・神津島の岩瀬翔先生、沖縄県・南大東島で働いた経験のある菊池徹哉先生)と、離島医療の未来についてオンラインで語っている中で飛び出したアイデアです。直美問題が話題に上がった時に、美容医療と離島医療の問題は表裏一体で、実はそれぞれの足りないところを補完し合える関係なのではないかと気づいたのです。
離島なら、こんなきれいな景色を見ながら仕事ができますよ!=奄美大島、ドクターヘリから2024年1月
美容医療クリニックが「直美」の医師に対して、例えば1年間の離島研修を設ければ、若手の美容外科医の臨床能力の向上につながります。それだけでなく、地域医療の支援にもなるので、クリニック側は美容医療のイメージアップ、島では医師不足の解消になります。
離島は医療を学ぶにはちょっと環境が悪いのでは……?と感じる若手医師がいるかもしれません。そんなことはありません。都会ではありえない程の圧倒的な症例数で経験を積めて、最後まで患者さんの人生に寄り添う「責任感」が育まれます。離島で1年間働ければ、外科技術も救急対応も身に付けることができます。そして、島の診療所で働くと、直接感謝を伝えられることが多く、やりがいも味わえます!
離島では総合診療医が胸腔ドレーン留置などの外科的な処置も行います=救急外来で、2024年8月
逆もまた然りで、離島の医師が美容外科に「留学」できたらいいですよね。それは、離島にも「美容医療」が必要だなと感じさせられる場面があるからです。手術の傷跡に悩む人もいますし、体毛の濃さに悩む子もいます。褥瘡(じょくそう)ができた患者さんがいたら、きれいに治してあげたいと思います。「このシミどうしたらいいかな?」とか「自分の顔が好きじゃないからうつです」という患者さんに対して、“美容外科のプライマリケア”が必要だと思うときもあります。
どうでしょう、こうやって並べてもメリットしか思い浮かびません。「直美前離島研修」「離島医療美容医療の交換留学」が日本の医療業界を救うんじゃないかと、夜中に大盛り上がりでした。このアイデアを実現させようと、対話型AI「ChatGPT」にも手伝ってもらい、2時間かけてメールを作成し、大手美容医療クリニックに送りました。もちろん返信は来ませんでした。この記事を読んで興味が湧いた直美を考えている研修医の方、美容医療業界の方、連絡お待ちしております!
というわけで研修医の皆さん、美容外科? いいじゃないですか! 人を幸せにする仕事! でも、ちょっとその前に島で研修してみませんか?
PROFILE
小徳羅漢(ことく・らかん)

鹿児島県立大島病院に勤務。
1991年、茨城県生まれ。小学校高学年の時から神奈川県で暮らす。16年、東京医科歯科大学卒業。鹿児島市医師会病院で初期臨床研修後、18年には長崎県上五島病院で、19年には離島へき地医療の最先端といわれるオーストラリア・クイーンズランド州で研修。20年から現職。街中で医師らに無料相談ができる「暮らしの保健室」を開催している。趣味は温泉巡りと映画鑑賞、そして島巡り。18年に結婚し、20年に夫婦で鹿児島県奄美市に移住。2人の子どもを育てている。
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