父親にレイプされて妊娠した小学生、妊娠と同時に子宮頸(けい)がんが見つかって命を落とした母親、子宮内膜症で癒着した子宮のために妊娠できなくなった新婚の女性――。産婦人科医として働いていると、日々さまざまな問題に直面します。そういった問題に立ち向かうために僕たち医師ができること、すべきことは何かを考えた時に出た答えが「性教育」です。奄美大島に来たら必ずやろうと思っていたのですが、日々の臨床に追われて4年間ずっとできずにいました。でも先日、ようやく奄美大島の高校生に対して性教育を行うことができたのです。
文・写真提供/小徳羅漢
(性教育を受けてこなかったこととは関係なく)コンドームの間違った使い方をする大学時代の筆者=2016年
皆さんは性教育を受けたことはありますか? 僕は中高生の時に性教育を受けた記憶がありません(男子校だったことも関係があるのでしょうか)。だから、月経のこともセックスの正しい知識も、もちろんHPVワクチンや子宮頸がんのことも全く知らずに大学生になりました。
大学(共学)に入学したての頃は、女性の同級生から子宮頸がん検診に行ったと聞いて、「産婦人科って妊婦さんじゃなくても行くの?」「検診って痛いんじゃないの?」と無知丸出しで質問したこともありました。
高校で性教育の授業を行ったメンバーです!=2024年5月
そんな僕ですが、「おめでとう」と言えるお産が好きで、それに関わりたくて産婦人科医になることを決めました。しかし、いざ産婦人科の専門研修に入ってみると、毎日のように子宮頸がん・子宮体がんの手術や抗がん剤治療、防げたはずの不妊、望まない妊娠などの問題に対応することになったのです。
「こんなのおかしい」と思いました。HPVワクチンの接種率は低いまま放置されている一方で、高価な新しい抗がん剤はどんどん開発されています。他国では薬局で安価に買えるピル(経口避妊薬や月経困難症の治療薬)が、高いお金を出して産婦人科に処方してもらわないといけないのに、性に対するきちんとした知識を得る場が学校にも社会にも全くありません。
正直これらのことは、学校でしっかりとした性教育を行うことで解決ができると思いました。ただ、日本の学校で現在行われている「性教育」は「性行為」については扱わないことになっているなど、正直ためになっているか疑問があります。なので、2020年に奄美大島にやって来た時は、「絶対に、『ためになる』性教育をしてやる!」と心に決めていたのです。
しかし、臨床が忙しすぎて、ずっと性教育を実施できずにいました。時が過ぎ、産婦人科の専門医を取得した後、23年から総合診療専攻医になりました。総合診療医としてさまざまな疾患を診療する中で、24年4月のある日、総合診療外来に10代の患者さんが数名、親に連れられてやってきたのです。
目の充血や全身の皮疹、発熱、のどの腫れを訴えており、当初はウイルス感染なども考えられましたが、検査の結果「梅毒」の診断になりました。梅毒はキスなどの粘膜接触だけでもうつるため、この数名は氷山の一角であり、奄美大島に高校生を含めた10代の梅毒患者が蔓延(まんえん)している可能性が考えられました。疑わしい症状のある人は病院に来てもらい、これ以上感染を広げないためにも、早急に性教育を実施する必要があると思いました。
授業について、地元の「あまみFM」で宣伝!女性ヘルスケアが専門の上村えり医師(オレンジ色のシャツの女性)と一緒に出演しました=2024年5月
高校生が活発に動き出す夏休み前に行わなければいけないと、同じ鹿児島県立大島病院で働く、女性ヘルスケアを専門とする総合診療科の上村えり医師と話し合い、総合診療科部長の森田喜紀医師に相談しました。
すると、森田部長が早速、名瀬保健所の相星荘吾所長に連絡してくれました。そして、保健所から奄美大島の全4高校の養護教員(保健室の先生)に連絡がいき、学校が僕たちの「性教育の授業」を快諾してくれました。余談ですが、医療機関、行政、教育機関との連携がスムーズなことは離島医療、地域医療の魅力かもしれません。
2人1組になってコンドームを装着する練習をする生徒=2024年5月
「自分と大切な人を守るために 県立大島病院カミムラとコトクの『ためになる性教育』」と題して、5月23日の県立大島高校を皮切りに、6月13日は県立古仁屋(こにや)高校、7月4日は県立北高校、そして7月11日は県立奄美高校で性教育を実施しました。
性感染症やコンドームの使い方、デートDV、性の多様性、生理と月経困難症、HPVワクチンについてなど、包括的な性教育を心がけました。
特にコンドームの付け方については、しっかりと教えました。コンドームは安く、性感染症も、望まない妊娠も防げます。一方で、間違った使い方をすると、98%の避妊率が70%くらいにまで下がってしまうからです。コンドームを全校生徒に配り、2人1組で実際に着ける練習をしてもらいました。
終了後に行ったアンケートには、「実際にコンドームを触ったのは初めて。知識だけではなく、触れることができてよかった」「自分や大切な人を守るためにもすごく大事なことなので、知ることができてよかった」などポジティブなコメントが並んでいました。
授業で使った自作のスライド
僕は「愛を持って生きるための教育」が性教育だと考えています。相手のことを大切に思い、相手本位で考えることで、時間をかけて愛は育まれます。その先にセックスがあるのかもしれません。だから、「愛のあるセックス」をしてほしい。高校生にそのことが伝わったのであれば、うれしく思います。
今回の性教育については、地元の「あまみFM」が告知をしてくれ、南海日々新聞や奄美新聞といった地元紙、鹿児島県の南日本新聞など、たくさんのメディアにも報じてもらいました。多くの反響もありました。
性教育の現場には、養護教員はもちろん、助産師も見学にも来てくれました。やはり性教育はみんなが必要だと思っているのですね。これからも続けていきます!
PROFILE
小徳羅漢(ことく・らかん)

鹿児島県立大島病院に勤務。
1991年、茨城県生まれ。小学校高学年の時から神奈川県で暮らす。16年、東京医科歯科大学卒業。鹿児島市医師会病院で初期臨床研修後、18年には長崎県上五島病院で、19年には離島へき地医療の最先端といわれるオーストラリア・クイーンズランド州で研修。20年から現職。街中で医師らに無料相談ができる「暮らしの保健室」を開催している。趣味は温泉巡りと映画鑑賞、そして島巡り。18年に結婚し、20年に夫婦で鹿児島県奄美市に移住。2人の子どもを育てている。
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