2022.02.22
全国各地で3回目の接種が進む、新型コロナワクチン。金子稔医師が所長を務める診療所がある長野原町は群馬県内で初めて集団接種を開始した自治体です。その中心となって、集団接種を行った金子医師が、計画から実施までを振り返っています。
新型コロナワクチンの集団接種についても、振り返っておこうと思う。
長野原町は群馬県内で最初に新型コロナワクチンの集団接種を開始した自治体だ。また、2回接種完了者は、対象である12歳以上の町民約4500人の9割を超えた。当初は対象者の6割を見込んでおり、それを大幅に超える結果となった。首相官邸のホームページによると、日本全体の2回接種完了者は、2022年1月18日時点で対象者の78.6%。これと比べても長野原町の接種率は高い。大きな混乱もなく、このような結果で終わることがきたのは、部署に関係なく役場の職員が一丸となって協力してくれたおかげだ。
新型コロナワクチンの集団接種の実施には、計画段階から関わった。小児以外の集団接種は私も町役場の職員も未経験のことだ。準備は手探り状態だった。中心となったのは、私と役場の担当課長、2人の保健師の計4人。2021年2月ごろから何度も打ち合わせを繰り返した。
その頃、他県のいくつかの自治体が集団接種に向けたシミュレーションを実施し、それを報告書にまとめて公開していた。これが非常に役に立った。その報告書を参考にしながら、会場、1時間に接種する人数、日程、医療従事者の確保の方法、人員配置などを決め、保健師たちがマニュアルを作成した。
会場は長野原町役場の住民総合センターを使うことにした。音楽・演劇鑑賞会や研修会などに使う280人収容の「大ホール」を接種前後の待機場所にし、廊下を隔てた向かいにある多目的ホールを接種場所にすることを決めた。ここで、午前と午後に分けて、1日に最大約300人の接種を行う。一連の流れを考えると、1回の接種には15~20人ほどの人員が必要だった。


接種までに、受付係が3人、予診票をチェックする保健師が2~3人、誘導係が4人。接種は2列で行い、私と町内の医師が問診をして、看護師が実際に接種する。また、接種後の対応係として、注意事項の紙を渡す担当が1人、パソコン入力者が2人、体調をチェックする看護師が1人。そして、フリーの看護師1人を配置することにした。
ワクチンの注射器への充塡(じゅうてん)は、私と保健師、看護師で、午前と午後の接種前に行う。私が責任医師となって、重いアレルギー反応であるアナフィラキシーの患者が発生した時の対応もまとめた。

約2カ月間の準備を経て、2021年4月20日から県内の自治体で最も早く接種を開始することができた。診療所は普段、火曜日と第1、3土曜日、第2、4土曜日の午後が休診だ。通常の診療に影響が出ないように、集団接種が終了した9月末までの期間は、火曜日と土曜日をワクチン接種に当てた。休みなく働き続けることになり、後半は正直つらかった。役場の職員も慣れない業務に関わり、かつ長時間労働になる人もいたので、大変だったと思う。それでも、1人も休職者を出すことなく、本当に頑張ってくれた。

長野原町のような小さな自治体が、今回のような有事を乗り越えるためには、私のような専門職と役場職員が一丸となって取り組む必要があることを実感した。そのために、平常時からコミュニケーションを取って、信頼関係を築いておくことが重要だ。これが赴任1年目に起きた場合にうまくやれたかと問われると、自信がない。役場の皆さんは、私を信頼できる医師として認めてくれていたから、付いてきてくれたのだと思う。結果として、診療所と役場が密に連携し迅速に対応できた。
町長や副町長、保健師や役場職員からは、「先生がいるからできているんです」と、ありがたい言葉を何度もかけてもらった。心身ともにきつい時期だったが、この言葉に助けられ、乗り越えられた。
文/金子稔
群馬県北西部に位置し、山林・原野が町の80%を占める。5409人、2509世帯(2021年9月)が暮らし、高齢化率は32.8%(15年。全国平均は26.6%)。前橋市まで車で1時間強、東京都心までは3時間弱。温泉や牧場、ゴルフ場やキャンプ場があるほか、町の南部の北軽井沢地区は別荘地で、夏場は蜂に刺された人やレジャーでけがをした人がへき地診療所に訪れることもある。長野原町ホームページ

1984年、前橋市生まれ。2011年に自治医科大学卒業後、13年に群馬大学医学部付属病院で初期研修を修了。同院救急部を経て15年、長野原町へき地診療所の所長に就任。勤務しながら、17年には群馬大学大学院医学研究科で博士号を取得している。趣味は家庭菜園、野球、ボウリング(ベストスコアは238)、ランニング(月間250㎞走ることも)、ダイエット(96㎏→70㎏)。「汗をかく。人の2、3倍頑張る」がモットー。
