当院では、初期研修医が学会発表をすることになった場合、事前に「予演会」を開催します。リハーサルというやつです。広い会議室を確保し、司会を置き、プロジェクターでスライドを投影して、本番と同じように発表を行います。
ローテーション先の指導医はもちろんのこと、たくさんの医師が出席し、だいたい30人前後が参加します。内科、外科、放射線科、病理など、たくさんの科から医師が集まるのが、当院の研修体制のちょっとした自慢です。
外科学会に備えた発表で呼吸器内科医が質問をするとか、病理学会に備えた発表でリウマチ・膠原病内科医が感想を述べるとか、救急症例の報告に化学療法内科医と放射線科医がコメントするといった光景が見られます。当院での研修に興味のある方はお問い合わせください!
予演会では、出席者の質問に発表者が頑張って答えます。発表者の同期の研修医は本人の代わりに「どんな質問が集まったか」をメモしておき、「想定問答集」を作ります。本番の学会で飛んできそうな質問をあらかじめ予測して対応しておくわけです。
そして、みんなでスライドのチェックも行います。通しで発表を終えた後、再び1枚目からスライドを見ていくのです。構成は分かりやすいか、論旨は通っているか、データの解釈に無理はないか、画像はきれいに並べられているか……。けっこうねちっこいですよね。当院での研修に興味のある方はお問い合わせください!(笑)
さて、「研修医が指導医に最もよく直されるポイント」は何だと思いますか。せっかくなのでクイズにしました。次の三つからお選びください。
①データの解釈ミス②仮説の弱さ③書式・デザインのおかしさ
ダララララ、デデドン。答えは、③です。①と②も多いのですが、③は軽く5倍くらい多いですね。
数字と単位との間に半角スペースがないとか、フォントが小さ過ぎるとか、参考文献の提示の仕方が間違っているとか。
細かいですよね。うっとうしいですよね。
修正タイムが始まると、一部の研修医は「面倒くせぇなあ」という顔をします。もっと内容に突っ込んでくれ、内容に言うことがないなら重箱の隅をほじくる指摘はやめてさっさと解放してくれ、と言わんばかりに。
学会発表において、おしゃれなスライドを作り込む必要はありません。フォントが多少見づらかろうが、単位の表記が間違っていようが、内容が優れていれば聴衆は気にしません。伝わればいいんです。
でも。
これは私の持論ですが、デザインに気配りできていない発表者のプレゼンは、内容も穴だらけなんですよ。
なので、一目見て③が目に付くなあと思ったら、そのプレゼンはがっちり手入れしないと、人前に出せません。データは不十分だし、仮説は後付けで弱いし、画像の選定がおかしくて結論が飛躍しているし、考察が単なる感想文になっているのです。
「デザインの傷」があるときはたいてい「内容の傷」も必発です。100%合併すると言ってもいいでしょう。
フォントの不統一とか単位の間違いのような「細かいミス」をスライドにたくさん残している研修医は、たぶん、その発表に向き合う時間が絶対的に足りていないのだと思います。情報を吟味して整理する、仮説をきちんと立てて結論と見比べる、考察する。そういった時間です。
「夜通しのめり込んだ体験」がにじみ出た発表を見たいんですよ。私はね。
とはいえ、初期研修というのはとにかく忙しく、タイムマネジメントには皆さん苦労しています。学会発表一つにそこまでかかりきりになれないのは、無理もないですよね。であれば、指導医たちの細かいチェックも、研修医の皆さんが本来自分でやらなければいけない吟味の総量を少しだけ肩代わりしてくれているんだ、くらいに思っていただけたらいいのかなと思います。
だからそんなに嫌な顔しないでね。
病理医ヤンデル:本名 市原 真(いちはら・しん)
1978年、札幌市生まれ。2003年、北海道大学医学部卒。医学博士、病理専門医。先日、中国の学会に出席したのだがとにかくエネルギーがすごかった。なにより、学術の空間に一粒も「冷笑」がないことが、こんなに快適で幸福だとは。
月曜のマミンカ
神奈川県川崎市在住のイラストレーター、絵本作家、グラフィックデザイナー。 2022年、絵本「カモンダメダメモンスター」を出版後、こどもと楽しめるワークショップを不定期で開催。 4匹の保護猫とヒーロー好きな息子、自由奔放な娘の子育てに奮闘中。
HP: https://mondaymom.official.ec/
Instagram: https://www.instagram.com/mondaymaminka/