医学に精通している医師であっても、うつ病になり、自殺する人がいる。医師の自殺率は日本人の平均よりも高いか同じくらいなので、僕らも多くの人と同じように、同業者の自死に遭遇する。
多くの医師は幼い頃から、環境や才能に恵まれていることが多く、挫折や失敗、敗北に免疫がないからかもしれない。反対に、恵まれない生い立ちや乏しい才能なのに努力で医師免許を勝ち取った人は、恵まれてきた周囲の医師らに相談したり頼ったりすることが苦手なのかもしれない。
病院のチーム編成がうまくマネジメントされていなくても、医師はリーダーシップを取らなくてはならない。そのプレッシャーから、バーンアウトしてしまうのかもしれない。
医療業界はその構造上、高齢者を相手にしていることから、古い価値観に支配されている。そのために、「共感されない」と思い込んだり、「うつ病は負け犬」というレッテルを貼られることを恐れて診断すら受けようとしなかったりするからかもしれない。
社会経験に不足や偏りがあり、うつ病を抱えて生きることの知識が足りていないのかもしれない。
社会や世界の限界、個人や他者の限界を受け入れがたいのかもしれない。父性的な強要に耐えられないのかもしれない。
無意識があり、陽性転移(治療者に対してポジティブな感情を向けること)や陰性転移(治療者に対してネガティブな感情を向けること)、嫉妬、投影同一視(自分が持っている嫌な感情を他人が持っているものだと思い込み、その人を攻撃することで自分を癒すこと)などをしてしまう側面があるのかもしれない。それ故に、ある種の弱さやトラウマを指摘されると、ただただ困惑してしまい、立ち直れないのかもしれない。
うつは何かの受容の過程である可能性もある。つまり、米国の精神科医エリザベス・キューブラー・ロスが示した「死の受容モデル」のように、「否定、怒り、悲しみ、取引……」などの受容の最中であり、避けられないものなのかもしれない。
医師の自殺を減らす取り組みを、僕らは始めなければならないのだろう。それを看護師ら医療従事者に応用し、さらに社会のあらゆる産業にも――という拡大を図るべきなのだ。
僕らはケアされる側になり、そこから学ぶ必要がある。例えば寿司職人だって、寿司を握るだけで寿司を食べなければ、本当に良いものはできない。それと同じで、僕らもケアされて初めて分かることがあるのだ。
ただ、実際に人に頼ってみたり、相談してみたりすると、嫌な思いもする。意地悪な態度を取られることもあれば、親身になってくれているのだけど真意をくみ取ってもらえないことも多い。自分で調べて、行動した方が正解に近づくというのは事実だろう。
ただ、うつ状態になってしまうと、必ず判断を間違える。普段できていたことができなくなり、人に頼った方が正解に近づくことが増える。嫌な思いも当然するのだが、それでも、うつ状態の時は人に頼る方がいい。だから、人に頼ることに慣れておかなくてはならないのだ。
「慣れ」のシステムを日常に組み込むことが必要だ。
異文化交流などを通じて、コミュニケーションの摩擦を日常的に経験するのだ。他の診療科の医師と交流したり、趣味のサークルに入ってみたり。そして、病院側もそれを支援することが大切だ。
まあ、そういうところを具体的にやってみて、どこに問題があるかを一つずつ検証し、改善していく。そういうことなのだと思う。
――と、今回は思うままに語ってみた。
益田裕介(ますだ・ゆうすけ)
1984年生まれ。岡山らへん出身。精神保健指定医、精神科専門医・指導医。防衛医科大学校卒業、陸上自衛隊勤務後、民間病院を経て、2018年4月より東京都内の早稲田大学横で個人開業医をしている。19年12月からYouTubeもやっている変な人。酒が好きすぎて、心身を壊しそうだったので20年6月から断酒中。そのことを自慢に思っている。週6~7勤務も疲れてきたので、勤務日を減らしたいけれど、貧乏性なので減らせない。こんなに頑張って働いているお父さんなのに、8歳になる娘からは「変態おじさん」なるあだ名を拝命しました。
月曜のマミンカ
神奈川県川崎市在住のイラストレーター、絵本作家、グラフィックデザイナー。 2022年、絵本「カモンダメダメモンスター」を出版後、こどもと楽しめるワークショップを不定期で開催。 4匹の保護猫とヒーロー好きな息子、自由奔放な娘の子育てに奮闘中。
HP: https://mondaymom.official.ec/
Instagram: https://www.instagram.com/mondaymaminka/