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精神科医 益田の言いたい放題! 第10回「精神科医インフルエンサーから見たYouTube、SNS、AIの今までとこれから」

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YouTubeによる情報発信の可能性と限界

精神科医としてYouTubeを中心に情報発信を始めた当初、僕が目指したのは「無限の心理学習」と「コミュニティーの融合」だった。

 

動画を通じてコンスタントに精神医学の知識を伝えることで、視聴者は視聴習慣の中で人格を成熟させ、自分の力で不安や困難を乗り越えられるようになるのではないか? 自由に書き込むことのできるコメント欄で視聴者同士が交流を持ち、互いに支え合うようなコミュニティーが形成され、孤独感などの問題が解決していくのではないか?――と考えた。結果として、実際、多くの人が動画をきっかけに自身の悩みに気づき、行動変容を起こした。

しかし、その活動を数年続ける中で、「情報発信」の限界性が見えてきた。YouTubeやSNSは多くの人に届くのが良いところだが、一方で、コンテンツに(ネガティブな)違和感を覚えた場合、自身の変容のヒントにするのではなく、コンテンツ制作者を誹謗(ひぼう)中傷する人がいることもよく分かった。

精神医学は複雑難解であり、時に一般常識を超えるような科学や哲学の領域も扱い、そして患者らにとっては、耳が痛い真実も見せられることになる。また動画を通じて、精神科医も一人の弱い人間に過ぎないと伝えたことがある。すると、それを誠実と思う人がいる一方、がっかりしたり、身近に感じられるがゆえに嫉妬や怒りを感じるようになったりする人もいた。

 

AIを活用した「自助」と「互助」

 

それでも、少しでも多くの人に支持されるものを作ろうと奮闘した。こんなふうにジレンマを抱えつつ活動を続けていたが、ある日、この「無理ゲー」に「黒船」が到来した。

「AIセルフケア」と「マッチングコミュニティー」である。AIを活用すれば、個々の利用者それぞれが状況や心理状態に応じて、パーソナライズされたケアや情報を享受することが可能になる。さらに、そのAIを介在させて、似た課題や悩みを抱える人同士をマッチングすれば、より具体的で深いコミュニケーションや相互サポートが期待できる。

動画で学ぶ時代からAIで学ぶ時代へ

AIは未熟だ。でも、日に日に成長している。今はテキストでアドバイスをくれているが、これからは漫画にして教えてくれるかもしれないし、動画にして教えてくれるかもしれない。AIが、文章や音声、動画など多様なデータ様式を扱う「マルチモーダル」化することで、直感的な解説力は格段に成長していくだろう。

YouTubeの動画で学ぶ時代から、AIから学ぶ時代に変わるだろう。何より僕自身、動画はもう見ない。YouTubeの情報はAIで要約したものを読むだけである。

 

SNSによる分断と次の時代の予感

 

誹謗中傷はやり過ぎだとしても、人は、自分の想像の範ちゅうを大きくはみ出たコンテンツを受け入れることができない。認知負荷が強く、不快に感じるからだ。

僕は、AI時代について理解を深めることで、こんなふうに誹謗中傷の本質を解釈するようになった。これがSNSにおける情報発信の限界である。結局、人間は限界があるため、自分の味方に刺さるコンテンツを作り続ける役割しか持てない。しばらく社会の分断は続くだろう。

ただし、希望もある。こんなふうに分断されつつある社会をまとめるには、新しい思想的なイノベーションが必要だ。生物学的な限界を前提にAIを用いてうまく工夫することで、それが生み出される予感もある。

なぜなら、僕自身、情報発信を続けることで多くの味方もでき、異文化交流を通して、さまざまなアイデアを日々もらっているからだ。傷つくことは税金みたいなもので、払う必要はあるものの、それ以上の利益がある。

こんな僕でさえ、そんなふうに思えているのだから、次の時代の新しい思想が、多くの天才のリレーの先に生まれてくる予感がするのだ。

益田裕介プロフィール画像

益田裕介(ますだ・ゆうすけ)

1984年生まれ。岡山らへん出身。精神保健指定医、精神科専門医・指導医。防衛医科大学校卒業、陸上自衛隊勤務後、民間病院を経て、2018年4月より東京都内の早稲田大学横で個人開業医をしている。19年12月からYouTubeもやっている変な人。酒が好きすぎて、心身を壊しそうだったので20年6月から断酒中。そのことを自慢に思っている。週6~7勤務も疲れてきたので、勤務日を減らしたいけれど、貧乏性なので減らせない。こんなに頑張って働いているお父さんなのに、8歳になる娘からは「変態おじさん」なるあだ名を拝命しました。

月曜のマミンカプロフィール画像
イラスト

月曜のマミンカ

神奈川県川崎市在住のイラストレーター、絵本作家、グラフィックデザイナー。 2022年、絵本「カモンダメダメモンスター」を出版後、こどもと楽しめるワークショップを不定期で開催。 4匹の保護猫とヒーロー好きな息子、自由奔放な娘の子育てに奮闘中。

HP: https://mondaymom.official.ec/

Instagram: https://www.instagram.com/mondaymaminka/