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医学生の頃に出会いたかった一冊(『まんが 医学の歴史』)

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著者:茨木保 出版社:医学書院

内容

医学の歴史は、人類の誕生とともにはじまり、いつの世もらせん状に続いてきた泣き笑いの人間ドラマがあった。世界初! 臨床医であり漫画家である著者による、まんがでみるわかりやすい医学の通史。 (医学書院のホームページから引用)

プロフィール画像

紹介者:金沢雄一郎

診療科:形成外科

医学部卒業年:1999年

この作品と出会った時期

2014年。当時、減りゆく人員の中で若手の補充もなく、過重労働と過度な法令順守により、心身ともに疲弊していました。心がすさみ、未来が見えなくなっていた頃です。

どんな影響を受けた?

医療の原点を見つめ直すきっかけになりました。病死が日常だった時代から、試行錯誤を経て現代医学に至るまでの歩みを知ることで、医療に対する見方が変わりました。一方で、政治的な闘争によって、正しい医療が闇に葬られるといった過ちも描かれており、医学の光と影の両面を浮き彫りにしています。

全52話から成るこの作品は、黒くて厚みのある2センチほどの漫画書籍で、内容が非常に濃いため、読み進めるのに時間がかかりました。失意や悲しみで終わる話も多く、漫画でありながら心に重くのしかかります。正直、読むのがつらいと感じることもありました。

それでも読了後に思ったのは、「もっと早く出会いたかった。できれば医学生の頃に……」ということです。記憶偏重の勉強に疲弊し、目的を見失いがちな医学部生活の中でこの本に出会っていれば、自分の意識も大きく変わっていただろうと悔やまれます。だからこそ、これから臨床に出ていく研修医の方々にも、ぜひ読んでほしい一冊です。医療の営みの深さと複雑さを、学問ではなく「物語」として体感できる非常に珍しい作品です。

どんな人にお薦め?

向上心を失いかけている人に。

その他

熱意のあまり、十分な検証を経ずに誤った結果を発表してしまうこともあります(例:コッホや野口英世)。また、当時は「正しい」と信じられていた医学が、現代から見れば誤りだったという例も多くあります。けれども、どれも真剣そのものでした。

今、私たちが置かれている状況も、過去と本質的には大きく変わらないのかもしれません。今の「常識」も、将来否定される可能性があります。それでも歴史を知ることで、私たちは謙虚に医学と向き合うことができるはずです。

医学とは、自然科学であると同時に、人文科学でもある――そのことを再認識させられる一冊でした。

岩本あかりプロフィール画像
イラスト

岩本あかり

東京を中心に、イラストレーター・UIデザイナーとして活動。 シンプルな線に、軽快な色面。 どこにでもありそうな景色に、ひとつまみのユーモアを。 見た人がクスッと楽しくなる絵を描く。

HP: https://akariiwamoto.com

Instagram: https://www.instagram.com/akari.iwamoto