精神科医をしていると、現代社会において多くの人が生きづらさを抱えていると感じます。生きづらさは、メンタルヘルスの不調に直結します。そのようにして心に支障を来してしまった人たちを治療するために、我々精神科医は存在するのです。では、メンタルヘルスにおける「治癒」とは、一体どのような状態を指すのでしょうか。
「不安やトラウマに支配されない状態」であると、僕は考えています。そのために大事なのが、嫌なことやつらい経験があっても、それを「仕方がない」と自然に受け入れ、うまく気持ちを切り替えて次に進む力を持つこと。そして「生まれてきてよかった」と感じる瞬間を少しずつでも増やしていくことだと思います。それが、心の治療が目指す理想の姿です。
「仕方がない」と捉えることは認知行動療法において大切な考え方です。仏教や禅の思想にも通じます。一方、「生まれてきてよかった」という感覚は、キリスト教や実存主義が大切にする自己肯定の思想に重なります。「仕方がない」と「生まれてきてよかった」という二つの考え方は、それぞれ異なる宗教や思想と結びつきが強いものですが、二つを合わせることで、傷ついた心が回復へと向かうための道筋が見えてきます。
精神科医がこのことを本当の意味で理解するには、膨大な量の学習と、対話や実践が必要になります。患者にとっても心が不調な状態から、「仕方がない」「生まれてきてよかった」を繰り返し、治癒に到達するには相当な時間がかかります。精神科医療が年単位で行われるのはそのためです。
患者の治療に時間がかかる精神科医療の世界でも、生成AI(人工知能)の活用は有用だと考えています。特に「ChatGPT(チャットGPT)」は対話形式で質問やお願いに答えてくれるため、感情を言語化したり、認知の歪みを矯正したり、行動計画を立てたりする際の優れた補助になります。ただ、それだけにとどめておくにはもったいないでしょう。
AIはうまく使えば、膨大な知識をコスパ良く学ぶための、最高の家庭教師になります。先に述べた「禅」「認知行動療法」「キリスト教」「実存主義」がどんなものなのかを尋ねれば、個人レッスンで教えてくれるのです。あらゆる分野について教えられる人間はいないので、やはりAIはすごいと思わずにはいられません。
「仕方がない」という考え方を理解するにもAIは役立ちます。自分はAIよりも賢くないのだから、仕方がない。AIに分からないことだから、人間である私が知らないのも、分からないのも、仕方がない。というように、AIを引き合いに出すことで、「仕方がない」と考えるための「型」になるのです。
AIは、現実世界には限界があることを人間に教え、それを納得させるための役割を持っているように思います。少なくとも、自分にとってはそういう存在です。
ちなみに僕はチャットGPTを使う時、未来の進化したAIの姿を想像しながら、彼らと「会話」しているような気がします。現時点のAIは決して完璧ではないので、将来への期待込みで利用しているということです。だから僕は、少々、彼らのミスや欠点に甘い気がします。
益田裕介(ますだ・ゆうすけ)
1984年生まれ。岡山らへん出身。精神保健指定医、精神科専門医・指導医。防衛医科大学校卒業、陸上自衛隊勤務後、民間病院を経て、2018年4月より東京都内の早稲田大学横で個人開業医をしている。19年12月からYouTubeもやっている変な人。酒が好きすぎて、心身を壊しそうだったので20年6月から断酒中。そのことを自慢に思っている。週6~7勤務も疲れてきたので、勤務日を減らしたいけれど、貧乏性なので減らせない。こんなに頑張って働いているお父さんなのに、8歳になる娘からは「変態おじさん」なるあだ名を拝命しました。
月曜のマミンカ
神奈川県川崎市在住のイラストレーター、絵本作家、グラフィックデザイナー。 2022年、絵本「カモンダメダメモンスター」を出版後、こどもと楽しめるワークショップを不定期で開催。 4匹の保護猫とヒーロー好きな息子、自由奔放な娘の子育てに奮闘中。
HP: https://mondaymom.official.ec/
Instagram: https://www.instagram.com/mondaymaminka/