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透析に関わる全ての人にお薦め(『透析を止めた日』)

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著者:堀川惠子 出版社:講談社

内容

「私たちは必死に生きた。しかし、どう死ねばよいのか、それが分からなかった」。なぜ、透析患者は「安らかな死」を迎えることができないのか? どうして、「緩和ケア」を受けることさえできないのか? 10年以上におよぶ血液透析、腎移植、再透析の末、透析を止める決断をした夫。その壮絶な最期を看取った著者による、息をのむ医療ノンフィクション! (講談社のホームページから引用)

プロフィール画像

紹介者:一日一善医

診療科:形成外科

医学部卒業年:2020年

この作品と出会った時期

2025年1月、海外に出発する前に立ち寄った空港内の書店でたまたま見かけて購入し、飛行機の中で一気読みしました。

透析患者がどうやって生きていくかの本は多く出版されているが、「どうやって死ぬか」について書かれた本は見つからなかった――。そう作者は述べています。本作は透析患者の死までを記載した類まれなノンフィクションです。

どんな影響を受けた?

この本は、末期透析患者の緩和ケアの不在を中心に、現行の医療に対する多くの問題を提示しています。

作者の堀川惠子さんはジャーナリストで、夫は多忙を極めるテレビ局のプロデューサーでした。夫は「多発性嚢胞腎(のうほうじん)」を患っており、結婚した際にはすでに血液透析を導入していたそうです。

夫は、血液透析を行い、次に腎移植を受けました。そして、移植腎が寿命を迎えた後に、血液透析を再開しました。原病が進行して腹水が出現し、透析困難に陥った後も意識は鮮明で、輸血を続けながら腎肝同時移植の実現にわずかな希望を抱いていたのですが、60歳という若さで亡くなります。最期は足の壊疽(えそ)も進行し、強い痛みを抑えるために医療用麻薬を使用していたそうです。緩和ケア病棟に入ることもできず、非常な苦痛の中で亡くなったといいます。

作者は夫が死に至る過程について、日々の出来事をつぶさに観察し、メモしています。描写が細やかで、読んでいると夫婦の時間を共に体験しているように感じられ、最後には涙が流れました。

形成外科医である私は市中病院において、足に潰瘍ができた多くの透析患者と向き合ってきました。透析患者は合併症が多く、入院期間も長く、転院先も決まりづらいのが実情です。治療方針をめぐって、患者とその家族、医師の間で対立が起こることもしばしばあります。そして臨床医であれば、「先生、患者さんが『透析をやめたい』と言っています」と看護師から電話が来て、(とても正直な気持ちで言うと)面倒くさいな……と思いながら対応したことがあるかと思います。

私たち医師は命を救うことを最優先にするため、治療が患者にもたらす苦痛や犠牲を顧みることがおろそかになることがあります。しかし、私たちは決して忘れてはならないと思います。すべての医療行為には限界があり、そこには患者さんの苦痛や負担が伴う現実があることを。

病気の進行を観察し、治療法を提案し、予後を予測することは医師にしかできない重大な使命です。そして、適切な時期に緩和ケアを提供していく必要があります。この本を読んで、医師としての責任と、患者の立場を尊重するために避けては通れない道について、改めて考えさせられました。

どんな人にお薦め?

透析に関わる全ての人にお薦めです。

 
岩本あかりプロフィール画像
イラスト

岩本あかり

東京を中心に、イラストレーター・UIデザイナーとして活動。 シンプルな線に、軽快な色面。 どこにでもありそうな景色に、ひとつまみのユーモアを。 見た人がクスッと楽しくなる絵を描く。

HP: https://akariiwamoto.com

Instagram: https://www.instagram.com/akari.iwamoto