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病理医ヤンデルの言いたい放題! 第10回「ロイズは別に釧路のお土産じゃないのに」

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出張で毎月、釧路という北海道東部の田舎町を訪れます。帰りにはお土産のお菓子を買います。誰かのために買うというわけではなくて、基本的には自分と家族が日常でつまむ分を補充する感じです。スーパーのお菓子に比べればだいぶ割高ですが、「自分への慰労を兼ねたささやかなぜいたく」として、そんなに悪くないと思います。

たまに新商品が出ます。そういうのはなるべく購入します。

新商品がおいしくないことはまずありません。必ずおいしいです。しかも工夫が凝らされている。満足度は高いですよ。製作側も、おいしい、と思ったからこそ世に出すわけですし、店員だってそういう心意気を分かった上で陳列しているのでしょう。

ただ、それでも、多くの新商品はいつの間にか見当たらなくなり、気づくとまた、昔から見慣れた商品が棚のいい場所を占拠しています。

世の「選択圧」の厳しさを実感します。昔からあるものは強いなと。

それにしても。釧路はおろか北海道全体を代表するような、バラエティ番組でもよく目にする全国的に名高いあのお菓子。今や、全国各地の百貨店などでしょっちゅう開催されている北海道物産展でいくらでも購入できるはずですが、結局はそういうのが一番強いですね。

釧路でなくても手に入るような超有名お菓子を抱えて、「定番のお菓子って逆に買わないから今回は珍しく買ってみた!」とほくほく顔で帰ることがあります。家族からは、「先月も似たようなこと言ってバターサンド買ってたよ」とツッコまれたりします。

「定番」の強さをしみじみ感じます。インターネットではたまに、「最近の若者は冒険を好まない」などという言説を目にするのですが、いや、それ、若者に限った話じゃないよな、と思います。

「消費する側」としては、もはや、定番を避けて通る理由はないでしょう。「勝ち確」を拾えるのが一番です。「もっと冒険してみたら?」と言うつもりもありません。私たちはみんな、生きているだけで十分アドベンチャーですし、満足が得られる手段が分かっているのに、そこをわざわざ避ける意味が分かりません。

ただ、問題は、「提供する側」に立ったときだろうと思います。

「新商品を選ぶ理由がない、定番だけで十分楽しめる」という必勝法は、そのまま、私たちが何かを、あるいは自分自身を世に出そうするときの大きな障壁です。すでにある定番を押しのけて、そのジャンルの中心に躍り出るのは、めちゃくちゃ大変なことです。冒険を避ける私たちの気持ちがそのまま「敵」に回ります。これは本当にやっかいです。

では、消費者が定番よりも冒険を選ぶタイミングはどれくらいあるでしょうか。

先日、ある売店に、「売り子」が出ていました。私と同い年くらいの中年がエプロンを着けて新商品を売っているのです。私はそういう「人の声で買わせる商品」というのが苦手で、思わず遠ざかってしまいました。

でも、そのことがずっと頭の片隅にこびりついていて、結局、次の出張の時、私はその商品を購入しました。

「売り子のような『宣伝』で推せば売れるってこと? でも、結局それって最初に、そういうのが苦手な人の機会逸失してんじゃん」と思われるでしょうか。まあ、私もそう思います。けれどもこの経験を通じて、私は何かちりちりとした予感を抱きます。

「定番 VS 新商品」という対立構図では勝ち目はなくとも、「商品自体」を印象付けることは可能なのではないでしょうか。

それはすごく難しいことですが、人間と人間の「距離」によってもたらされる何かが、消費者の心を新商品に向けることはあり得ると思います。

おそらく、新商品は単なる置物のままではいけません。「いいものならば待っていれば売れる」は通用しない。語りながら近寄っていかなければいけないのだと思います。あるいは、慣れないうちは、そのせいでかえって避けられてしまうのかもしれませんが。

ヤンデルプロフィール画像

病理医ヤンデル:本名 市原 真(いちはら・しん)

1978年、札幌市生まれ。2003年、北海道大学医学部卒。医学博士、病理専門医。空港でよくお土産を買う私が近頃気になっているのは新幹線のお土産売り場である。北海道に住んでいると新幹線に乗る機会はほとんどない。しかしこのたび山形から京都に連続出張する機会があり、思う存分新幹線に乗れるのでとても楽しみにしている。新幹線には特有のマナーがあるそうで、今がんばって勉強している。隣の中年が靴を脱いで足を組んだらその場で爆破していいと書いていた。新幹線大爆破ってそういう意味だったんだ。

月曜のマミンカプロフィール画像
イラスト

月曜のマミンカ

神奈川県川崎市在住のイラストレーター、絵本作家、グラフィックデザイナー。 2022年、絵本「カモンダメダメモンスター」を出版後、こどもと楽しめるワークショップを不定期で開催。 4匹の保護猫とヒーロー好きな息子、自由奔放な娘の子育てに奮闘中。

HP: https://mondaymom.official.ec/

Instagram: https://www.instagram.com/mondaymaminka/