初回のテーマは「キャリア」です。これから専攻医になる初期研修医の皆様と「この病院でやっていけない自分はどこに行ってもやっていけない」と思い詰めていた後期研修医(今の専攻医)の時の私に届くよう、お話ししたいと思います。私のキャリアはあまり輝かしいものではありませんが、ありのままの姿が誰かの参考になれば幸いです。
私は高知県のへき地で初期研修医時代を過ごしました。そこで臨床をバリバリとこなす麻酔科の先生に出会い、その人(師匠)に憧れて麻酔科医を志しました。早く臨床をバリバリできるようになりたかったため、私が後期研修(今の専門研修)先として選んだのが臨床にどっぷり浸かれる広島市民病院です。
ポリクリや初期研修で診療科が変わるたびにストレスを感じていた私は、勤務施設が定期的に変わる医局人事に耐えられる自信がなく、大学病院ではなく市中病院を選択しました。
私に医局が(たぶん)合わないというだけであって、皆さんが大学病院の研修プログラムを選択するのは、もちろん有りです。大学病院はやはり教育体制が充実していますし、医局人事ではさまざまな施設を経験できて人脈も広がります。医局に所属しないまま市中病院で後期研修をした後、新たに医局に入って経験を積んでいる医師も多くいます。
さて、私は後期研修で臨床にどっぷり浸かったのですが、専門医取得前に疲れ果てて病んでしまいました(私の要領が悪く追い付けなかっただけで、広島市民病院麻酔科の専門研修プログラムは充実したとても良いものです。臨床重視でガッツのある方にはオススメです! 誤解がないように念のため)。なんとか専門医は取得したものの、上司と相談をして、環境を変えた方がいいということで現在の呉共済病院へ転勤しました。
医師のキャリアというと、サブスペシャルティの専門資格を取得するとか、研究をして博士号を取得するとか、海外留学をするとか、育児と最前線の仕事を両立するとか、そんな輝かしいものをイメージしがちです。そして、大学病院や研修病院に所属していると、それくらいのキャリアを目指すことを要求されがちです。もちろん患者さんを治療するにあたって研さんし続けることは必要ですが、そこまでのキャリアはなくとも医療を提供することはできます。
元気に生きているだけで100点! 初期研修を修了するだけで200点! 専門医まで取れたら300点! それくらいの緩い気持ちで細く長く仕事を続ける方が、途中でドロップアウトをしてしまうよりは良い、と私は思います。
……と、ここで終わりにしてしまうと、「みんなが『上』を目指さなくなってしまったら、日本の医療はどうなる!」と偉い人から怒られそうなので、もう少し続けます。
私自身は、高知県の師匠から「専門医を取るまでは苦労した方がいい」と言われていたため、とにかくその通りに頑張りました。そして、転勤し臨床をペースダウンしてからも、日本麻酔科学会で若手学会員を支援する活動をしていました。
私は単に緩くやることを推奨しているわけではありません。頑張れるときは頑張った方がいいのは当然ですし、自分のやれることを最大限やることは大事なことです。でも、もし頑張れなくなったときは、柔軟に動けることが望ましいですよね。それが許され、支援される社会であってほしいし、研修医の皆さんもそんな気持ちで、硬直せずに歩んでいけばいいと思うのです。皆さんに幸あらんことを!
川久保弥知(かわくぼ・みとも)
1987年、高知県生まれ。初期研修までは高知で「育つ」も、麻酔と集中治療の両方を学びたいと思い立ち、後期研修(専門研修)から広島市民病院で研さんを積む。現在は呉共済病院に勤務。Twitter(現X)で麻酔科についていろいろな投稿をしていたところ、日本麻酔科学会の偉い人に拾われ、学会公式アカウント開設に携わる。
最近の趣味は、子どもと一緒に始めた「ポケモンカードゲーム」。どうせやるなら本気で、と親子で大会にも参加している。
X:@MitomoKawa
月曜のマミンカ
神奈川県川崎市在住のイラストレーター、絵本作家、グラフィックデザイナー。 2022年、絵本「カモンダメダメモンスター」を出版後、こどもと楽しめるワークショップを不定期で開催。 4匹の保護猫とヒーロー好きな息子、自由奔放な娘の子育てに奮闘中。
HP: https://mondaymom.official.ec/
Instagram: https://www.instagram.com/mondaymaminka/