総合診療の専攻医イソン(ハンドルネーム)と初期研修医タイガ(同)の対談をお届けする。
専攻医のイソン医師は、人当たりが良く、会話する相手に安心感を与える。後輩に対しては、面倒見のいい「兄貴」であることが見て取れた。
初期研修医のタイガ医師は、物腰柔らかな男性で、理想の医療に関しては熱い思いを胸に秘めているようだ。
医学生の頃から総合診療に興味を持ち、他の診療科と進路を悩んでいる。
総合診療は、2018年にスタートした新専門医制度で最後に基本領域に加えられた新しい診療科だ。
何を診ている科なのか、総合内科と何が違うのかと疑問を抱く人もいるという。一体、どんな診療科なのだろうか。
初期研修医タイガ
まずは、イソン先生が総合診療を選んだ経緯が知りたいです。
専攻医イソン
大学でさまざまな分野の勉強をし、初期研修で実際に診療科を回る中で、「これだ」っていう診療科が見つからなかったんですよね。でも一応、大学時代と初期研修医の頃は、消化器内科志望でした。
初期研修医タイガ
あ、僕も消化器内科はかなり志望度が高いです。
専攻医イソン
消化器内科と総合診療で迷う人は多いと思います。僕が消化器内科を志望していた理由は、カメラ(内視鏡)が好きで、やりたいと思っていたからです。
初期研修医タイガ
僕も全く同じで、目で見て、治療している実感がありそうなのでカメラをやりたいんです。
専攻医イソン
おお、そうですか。でも僕の場合、初期研修で実際にやってみて分かったのは、見ているのは好きだけど、実際にやってみるのは好きじゃないということでした。さらに、一緒に回っていた同期がゲーマーでめちゃくちゃうまかったんです。自分はへたくそで、その人に勝てる気がしないと思ったのも消化器内科を諦めた理由の一つです(笑い)。
初期研修医タイガ
なるほど(笑い)。僕はこれからローテーションで消化器内科を回るので、実際にやってみて、挫折する可能性がありますね。
専攻医イソン
それから、初期研修1年目の1月に、総合診療の専門研修(専攻医)に進んだ一つ上の先輩から誘われて、見学に行ったんです。正直当時は、総合診療のイメージは「家で患者を診るんだろうな」くらいのものでした。
初期研修医タイガ
確かに「在宅」のイメージは強い気がします。
専攻医イソン
最期を自宅で過ごそうというがん患者の80代男性の診療に同行した時のことです。もちろん医療に関することも話すんですけど、総合診療の先生がその時に主に話していたのは、家族のことや、本人の人生についてだったんです。奥さんも一緒になって、感情をうわあっと出しながら話している様子を見て、「これは病院で見るような医療とは全く違うぞ」と思いました。
初期研修医タイガ
衝撃的ですね。
専攻医イソン
子どもの時から憧れていた「人を診る」というのはこのことなんじゃないかなと思いました。そこで、「これ、めっちゃやりたい」と直感したんです。自分の働いている病院に戻って、急性期の医療を見つめていく中で葛藤はありましたが、結局は一番やりたいことに近いのがそれだったので、総合診療を選びました。
初期研修医タイガ
イソン先生が総合診療を選んで良かったなあと思う場面はありますか。
専攻医イソン
そうですねえ。例えば、身近な話でいうと、実家に帰って、おじいちゃん、おばあちゃんから「腰が痛くて~」「血圧が~」「最近お腹の調子が~」と相談されたときに、ある程度のことは何でも答えられます。「一度〇〇科に行って診てもらった方がいい」とか、「これは様子見でいいんじゃない」とか、そんな話をすると感謝されますね。
初期研修医タイガ
家族のためになるというのはいいですね。
専攻医イソン
医療現場で最近あったことでいうと、病棟に誤嚥(ごえん)性肺炎で亡くなりそうな患者さんがいたんです。家族と面談して、自宅で最期を迎えさせてあげようということになりました。元々患者さんと奥さんは一緒に施設に入っていたんですが、奥さんも家に戻ってきてもらいました。
初期研修医タイガ
在宅看取(みと)りですね。
専攻医イソン
体調を診て急きょ、僕が退院の時期を3週間早めました。退院して5日で亡くなられたんですが、病棟から在宅まで診て、看取りも僕が担当しました。スピード感を持って在宅看取りができるよう環境を整え、責任感のある仕事ができたと思います。患者さんだけでなく、家族ともここまで向き合うことは、他の診療科だとなかなかできないところかなと思います。
初期研修医タイガ
総合診療を選んで後悔はないですか?
専攻医イソン
消化器内科に進んだ仲の良い同期の「カテーテルができるようになった」とか、「内視鏡が上手にできるようになった」とかそういう話を聞くとうらやましくなることはあります。
初期研修医タイガ
総合診療でも成長が感じられる指標はないんですか?
専攻医イソン
僕らの仕事って「こういった病気を診断できた」とか、「患者さんとの関わりが上手にできた」とかっていうものなので、明確な基準があるものではないんですよね。手技がある科の医師と自分を比較すると、焦ります(笑い)。
初期研修医タイガ
どうやって折り合いを付けるんですか?
専攻医イソン
焦りはするんですが、他人とではなくて、自分の中で比較すればいいと思うんですよ。「去年の自分はこういう決定はできなかった」「こういう関わり方はできなかったな」と。それは、自分のメンタルケアの面でも大事だと思います。
tica ishibashi
イラストレーター、ファッションクリエイター。
アパレル商社のデザイナー職を経てフリーランスに。見た瞬間に「ずきゅん」と一目ぼれするような胸に響くクリエーションをモットーに、ファッションに特化したクリエイティブワークを展開する。イラストレーション、ファッションデザイン、アートディレクションと幅広く活動。広告グラフィックやブランドイメージビジュアルなどのさまざまなファッションイラストの制作と、アパレル企画や衣装などのファッションデザインを手がけている。2023年度JIAイラストレーターオブザイヤー最優秀商品イラスト賞受賞。
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