icon-sns-youtube icon-sns-facebook icon-sns-twitter icon-sns-instagram icon-sns-line icon-sns-tiktok icon-sns-etc
SEARCH

Naked 初期研修医 × 専攻医 クロストーク 精神科(下)

  • X

精神科の専攻医ウサミ(ハンドルネーム)と初期研修医スズキ(同)の対談の最終話をお届けする。

ウサミ医師は、精神鑑定に携わった経験がある。被疑者や被告人と向き合う際に、精神科医はどんなことを考えるのだろう。また、多くの精神科医が「精神保健指定医」と「精神科専門医」を取得する。スズキ医師は、特に専門医を取るメリットについて尋ねた。診療体制についての話も出て、主治医制ではなくチーム制で患者を診る際の様子を、ウサミ医師が具体的に紹介した。

人生をたどる映画の脚本を書くような作業 司法精神医学の魅力

初期研修医スズキ

ウサミ先生は司法精神医学や精神鑑定に興味がおありと伺いました。その魅力はなんですか。

専攻医ウサミ

本鑑定(殺人など重大な罪を犯した被疑者・被告人に対して行われることが多い)だと、3カ月くらい毎週拘置所に通って、2時間くらいの面接を計10回以上するんですね。一人の人生について、日々の診療では考えられないくらいの時間と頭を費やすので、それはすごく力になると思います。

初期研修医スズキ

すごい労力ですね。

専攻医ウサミ

その人の両親がどういうふうに出会い、どんな状況で生まれ、どんな家庭で育ってきたか。犯行を起こすその瞬間、面接をしている今に至るまでの状況を探って、ドキュメンタリー映画の脚本を書いていくような作業です。一人の人生について考え続けることが許されるというのは魅力だと思います。あとは、自分の鑑定書が本当に人の人生を左右するのは大きなプレッシャーですが、それはやりがいと表裏一体だと思うので、魅力と言ってもいいんじゃないかと考えています。

初期研修医スズキ

僕たちがニュースで、「精神鑑定の結果~」と見聞きする短い文章の中に、精神科の先生の相当な努力が詰まっているんですね。人生をさかのぼって「刑事的責任能力」について判断するというイメージですかね。

専攻医ウサミ

最終的に、責任能力の有無を決めるのは法曹です。その前の段階で、裁判官や弁護士、検察官が検討するための材料として、精神科医としての考えを提供するという感じです。責任能力の有無について、精神科医は基本的には言及しないというのがルールなので、犯行に精神病が影響していたかどうかに焦点を当て、伝えます。

初期研修医スズキ

なるほど、一連のイメージができました。

精神科専門医って必要ですか?

初期研修医スズキ

精神科医の代表的な資格には、「精神保健指定医」と「精神科専門医」の資格がありますよね。前者は医療保護入院(精神障害のある人を対象とした入院形態で、本人に代わって家族の同意を得て行われる)などの強制入院の要否の判定を行うのに必要と認識しています。一方で専門医についてはよく分からなくて、3年間の専門研修を経てまで取る利点を知りたいです。

専攻医ウサミ

正直なところ、今の制度的には精神保健指定医だけあればなんとかなりますし、専門医を取ることのメリットは大きくないと感じています。専門医学会も危惧していて、専門医にしかできないことを設けるなど、資格の意義を作ろうといろいろ取り組んでいるようなので、今後変わっていくのかもしれないです。

初期研修医スズキ

クリティカルな意見ですね。

専攻医ウサミ

ただ、できれば専門医も持っておいた方がいいと思います。開業に関しても、精神保健指定医だけでできますが、専門医を持っていることは精神科医としてきちんと学んだという客観的な証拠となります。

初期研修医スズキ

専門医を取るには何が必要ですか。

専攻医ウサミ

日本精神神経学会が指定する精神科医としての診療経験と症例レポート作成が必要です。他科で診療中の患者に精神症状が出た場合に精神科医が診療を行う「リエゾン」症例も必要です。あとは筆記試験と面接試験があります。

初期研修医スズキ

内科でよく聞く「症例集め」みたいな感じですね。精神科専門医が医師としての資質を証明するということですが、それが研究に役立つことはありますか?

専攻医ウサミ

専門医としての知識をどれだけ研究に用いることができるかの度合いは、研究対象によって異なりますが、相互作用はあるとは思います。研究をするにも特定の分野の知識だけではどうにもなりませんから。例えば、認知症や統合失調症のように疾患そのものについての研究であれば、まず日本の精神医学の中で何が土台になっていて、どういう課題があるのかを知っておくことは大事です。そういう意味で、専門医の知識は十分に役立つと思います。

お父さん役にお母さん役。チームで治す精神科医たち

初期研修医スズキ

患者さんは一人で診るんですか、チームで診るんですか。

専攻医ウサミ

私の病院は主治医制ではなくドクターチーム制で、5人くらいの医師で10人くらいの患者さんを診ています。治療の偏りを防ぐことができますし、はっきりと言う人、優しくフォローする人――お父さん役、お母さん役のような役割分担ができるのも良いところです。

初期研修医スズキ

僕の知っている病院は主治医制だったので新鮮です。役割分担は事前に決めるんですか?

専攻医ウサミ

そういうときもあります。特に、児童を診る場合は臨床心理士も含めて、かなり戦略的に事前に取り決めてやっているところが多いと思います。成人の場合も、一旦役割分担なしで診始めたとしても、患者さんに対して感情的になってしまっている医師がいるときなどは、「こっちでフォローするわ」といった感じで、途中から対策を打つこともあります。

初期研修医スズキ

臨機応変にですね。

専攻医ウサミ

例えばある患者さんを外来の時から何年も診ている医師がいたとします。その患者さんが入院して、病院で自殺しようと企てていることが途中で分かった場合、その先生はすごくショックを受けてしまいますよね。どうしても感情は動いてしまうので、そういうときはチームでバックアップすることがあります。あとは、「転移性恋愛」といって、患者さんが医師を好きになってしまうこともあるので、その場合は役割を変えることがあります。

初期研修医スズキ

患者さんとの付き合い方、チームの役割分担は相当複雑だなと思いました。

専攻医ウサミ

それも面白味の一つかもしれません。

初期研修医スズキ

うーーん、精神科の医師は人間的資質も問われるというか。僕のような生半可な人間がなっちゃいけないのかなと、対談を通して考えさせられました。

専攻医ウサミ

全然そんなことないです。長所がない人間なんていないので、どんな人でも患者さんの治療に自分を生かせるということです。

初期研修医スズキ

……先生の優しさに救われます。

専攻医ウサミ

無理にフォローしたわけじゃないですよ(笑)。

tica ishibashiプロフィール画像
イラスト

tica ishibashi

イラストレーター、ファッションクリエイター。
アパレル商社のデザイナー職を経てフリーランスに。見た瞬間に「ずきゅん」と一目ぼれするような胸に響くクリエーションをモットーに、ファッションに特化したクリエイティブワークを展開する。イラストレーション、ファッションデザイン、アートディレクションと幅広く活動。広告グラフィックやブランドイメージビジュアルなどのさまざまなファッションイラストの制作と、アパレル企画や衣装などのファッションデザインを手がけている。2023年度JIAイラストレーターオブザイヤー最優秀商品イラスト賞受賞。

ホームページ:https://tica.cc

インスタグラム:https://www.instagram.com/tica_ishibashi/