整形外科専攻医マコト(ハンドルネーム)と初期研修医シュン(同)の対談の続編をお届けする。
シュン医師は整形外科に興味がある一方で、自分に手術ができるのか不安があるといい、初期研修で自信を付けられていないことを気にしている。それに対してマコト医師は「勝負は専攻医になってから」とアドバイスする。マコト医師自身、研修医時代に手技の練習は一切行っていなかったが、整形外科として問題なく働いているという。
そして、マコト医師が整形外科医になって初めて分かった、「患者を治す」という究極の目標を達成するために必要なことを伝えた。
初期研修医シュン
整形外科の専攻医の給料は、市中病院と大学病院で違うと思います。それぞれ、どんな感じですか。
専攻医マコト
地域による違いは多少あるかもしれませんが、市中病院の整形外科の専攻医の給料は一緒くらいだと思います。たぶん、年収1000万~1200万円くらいの先生が多いんじゃないでしょうか。大学病院はというと、うちの病院に近いところは相当低くて、研修医と同じくらいだと思います。今の先生の給料と変わらないんじゃないでしょうか。
初期研修医シュン
えぇ、そんな感じなんですか。
専攻医マコト
ただ、ずっと大学病院に居続けるわけじゃなくて、大学の医局から市中病院に派遣されることが多く、そのときは派遣先の給料体系に従って給料が出ます。なので、大学病院に籍を置いている先生でも、僕よりもらっている人もいますよ。
初期研修医シュン
専門研修先選びで給料は意識しましたか?
専攻医マコト
給料だけで選んだわけではないですが、気にはしました。大学病院にいるより、市中病院の方がトータルで給料が高いと思います。給料は気になりますか?
初期研修医シュン
高いに越したことはないんですが、生活できたらいいかなあというくらいです。あとは将来に向けて、ちゃんとお金を貯金できたらなと思っていて、気になって聞きました。
専攻医マコト
なんて立派な……。浪費家でない限りは生活に困るということはないです。
初期研修医シュン
初期研修で外科を回った時に、縫合やカメラ持ちくらいしかできていなくて、手術がちゃんとできるのか不安があります。
専攻医マコト
まず、僕がシュン先生くらいの時は整形外科に進もうなんてみじんも考えていませんでした。整形外科にしようと決めたのは2年目の後半、冬くらいだったので、研修中に縫合や糸結びの練習をしたってことは一切ありません。
初期研修医シュン
ええ、そうなんですか。
専攻医マコト
専攻医になった瞬間から頑張りました。今もうまくはないですけど(笑)。そんなに気張らなくていいと思います。研修中にやるより、専攻医になってから集中的にバーッとやる方がはるかに意味があります。初期研修は、専攻医になって以降、一生触れない分野のエキスパートたちから知識を吸収する期間です。研修医の時に練習する必要はないです。専攻医になってから頑張りましょう。
初期研修医シュン
自分は外科医に向いていないかな……と焦っていたので、ありがたいお言葉です。外科医になっても、器用じゃなかったらどうしようと思っていました。
専攻医マコト
全っ然、大丈夫です。僕も研修医時代に「整形外科に行きます」と言ったら、周りから「絶対お前は無理だろ。どう考えても内科だろ」と袋叩きに遭いました。メスなんか握れるのかなという感じで進みましたが、やればなんとかなるというか、やらざるを得ない環境になってしまえば、人間何とかなるもんです。
初期研修医シュン
かなり心強いお言葉で、安心しました!
初期研修医シュン
では、専攻医になってから手術がうまくなるためにやっていることはありますか。
専攻医マコト
難しいことを聞きますね(笑)。どの先生もやっていることだと思いますが、イメージトレーニングです。手術前日には、ベッドに寝た患者をどういう体位にして、どこにどういう道具を配置して、どこの皮膚を切って、どこを展開して……というイメトレをするようにしています。上級医からは「脳内で3回、執刀して、最後の糸結びまで完了させてから望むように」と言われています。
初期研修医シュン
すごく具体的に想像するんですね。
初期研修医シュン
整形外科医として最も必要な能力は何だと思いますか。
専攻医マコト
外科的な技術が必要になると思われがちなんですけど、実際に働いてみて思うのは、手術だけで治療は完結しないということですね。どちらかというと、手術が終わってから元の生活に戻れるかというところに治療の重点が置かれている気がしています。
初期研修医シュン
どういうことですか。
専攻医マコト
大学生の時は「多職種連携が大切」「コメディカルを大事にしよう」としつこいくらいに言われるので、「嘘つけ、医者が一番偉いだろ」と心の中で意地悪なツッコミを入れた自分もいたんですけど、実際に整形外科に入ってみると、手術しただけじゃ何にもならないんですよ。
初期研修医シュン
他の職種の協力が必要になるんですね。
専攻医マコト
そうなんですよ。PT(理学療法士)、OT(作業療法士)やリハビリの先生の力を借りる必要があります。糖尿病のコントロールは栄養課のスタッフ、せん妄状態になったら精神科の医師や看護師にもお願いしないといけません。
初期研修医シュン
まさに多職種連携ですね。
専攻医マコト
そうなってくると人間力というか、「お願いできますかね」と人の懐にすっと入る力がいるんですよね。「患者を治す」という最終的な目標に至るには、多くの人との協力が必要で、それにはうんと苦労するということをだんだん感じてきました。
初期研修医シュン
たしかに、簡単なことではありませんね。
専攻医マコト
だから、手先の器用さは二の次です。手術は誰がやってもだいたい同じ感じになりますから。それよりも、術後、患者さんをどうやって自宅に帰すかに力を入れるために、コミュニケーションを取って連携する力がないと厳しいと思います。その点、シュン先生はうまく話せているし、感じがいいので素質ありだと思います。
初期研修医シュン
はははは。ありがたいお言葉です。こういう言葉をかけてくれるのが、マコト先生のコミュニケーション能力が高い証拠だなと、感動しています。
専攻医マコト
褒め合いはやめましょう(笑)
つづく
4月21日公開予定!
tica ishibashi
イラストレーター、ファッションクリエイター。
アパレル商社のデザイナー職を経てフリーランスに。見た瞬間に「ずきゅん」と一目ぼれするような胸に響くクリエーションをモットーに、ファッションに特化したクリエイティブワークを展開する。イラストレーション、ファッションデザイン、アートディレクションと幅広く活動。広告グラフィックやブランドイメージビジュアルなどのさまざまなファッションイラストの制作と、アパレル企画や衣装などのファッションデザインを手がけている。2023年度JIAイラストレーターオブザイヤー最優秀商品イラスト賞受賞。
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