整形外科専攻医マコト(ハンドルネーム)と初期研修医シュン(同)の対談をお届けする。
柔和でフランク、相手を不必要に緊張させない。それが、市中病院に勤める3年目の専攻医マコト医師の印象だ。一方、初期研修1年目のシュン医師は礼儀正しく、かしこまった雰囲気の青年。スポーツをするのが好きで、体のつくりに興味があるため、整形外科を志しているという。
対談は、整形外科医が持たれがちなイメージと実態について、マコト医師があえて誇張気味に伝えることで、アイスブレイクするところから始まった。
専攻医マコト
整形外科の先生って、こう言ったら悪いんですが、あまり頭脳派のイメージはなくないですか?
初期研修医シュン
ははははは。そうかもしれません。
専攻医マコト
極端にいうと、抗生剤を知らないし、内服の薬はロキソニン(鎮痛薬)しか知らないみたいな、そういうイメージをかつては持っていました。でも実際には整形外科の先生たちって、めちゃくちゃいろいろ考えていて、ものすごく賢いんですよね。「折れた骨を元に戻すだけでしょ」くらいに思っていたんですけど、勉強することが多すぎて、大学1年生の時に習ったことから勉強し直すくらいの勢いでやらなくてはいけないことにギャップを感じました。
初期研修医シュン
たしかに、「体力!」みたいなイメージはあります。
専攻医マコト
そうですよね。「脳みそまで筋肉のゴリラ」みたいなイメージが強いと思います。もちろん、そういうごりっごりの医師もいるんですけど、頭脳派の超内科的な医師も同じくらいの割合でいて、どちらの人でも入れる門戸の広さがあるかなと思います。
初期研修医シュン
マコト先生はどちらですか?
専攻医マコト
どちらかといったらゴリラ側です。
初期研修医シュン
でもやっぱり体力仕事なんでしょうか?
専攻医マコト
外科医は5時間も10時間も手術することがありますが、整形外科の場合ほとんどは長くても2、3時間で終わることが多くて、実は体力勝負というほどでは全然ないと思います。
初期研修医シュン
患者の体を持ち上げるときなど、力がないときついんじゃないかという心配の声を、女性から聞くこともあります。
専攻医マコト
大丈夫です。全く心配はありませんよ。
初期研修医シュン
仕事をしている中で、楽しいのはどんな時ですか。
専攻医マコト
楽しいってことはないですかね(笑)。やりがいを感じることはあります。例えば、めちゃくちゃ大変な手術は、前日から「ああでもないこうでもない」と言いながら設計図を描きます。患者の骨の写真をトレースした紙に、実際に使うねじや板のテンプレートを当てて、術後の完成図を描くんです。
初期研修医シュン
実際に手を動かして描くんですね。
専攻医マコト
準備したことを実際にオペ室で再現できて、確認のレントゲンで出来上がりを見て、うまくいっていると、その日の酒はめっちゃくちゃうまいですね。これはぜひ整形外科で味わってほしいと思います。
初期研修医シュン
それはとてもおいしいお酒が飲めそうです。つらいことはないですか。
専攻医マコト
すごくしんどいということはないんですけど、仕事には波があるので、重い症例が立て続けに来ちゃうときは大変ですね。まだ専攻医なので、一つ一つの症例を勉強して、計画を立ててからでないと、太刀打ちできないことが多くて。それに加えて学会の発表が重なると、ちょっとしんどいかなという時はあります。でも一時的なものです。1年で1、2回くらいですかね。
初期研修医シュン
お休みの日、プライベートはどのように過ごしていますか。
専攻医マコト
病院の近くに山があるので、登山やスキー、スノボに行って、発散しています。あとは、隣県までドライブすることもけっこうあります。
初期研修医シュン
アクティブですね。整形外科に進んだのも、趣味がきっかけなんですか。
専攻医マコト
僕の場合は全然関係ないですね。でもそういう先生はかなりいます。
初期研修医シュン
ではどうして整形外科を選んだんですか。
専攻医マコト
初期研修の2年間でいろいろな症例に出会う中で、全然治らず、じり貧の状態でどんどん悪くなっていく患者ってけっこういて、亡くなっちゃうこともよくあるんですよね。
初期研修医シュン
はい、分かります。
専攻医マコト
でも、整形外科の患者は手術してすっかり回復して帰るという、目に見えて良くなる患者が比較的多いんですよね。亡くなるほどの患者さんが少ないというのは魅力かなあと思い、選びました。
初期研修医シュン
どれくらい忙しいのか、休みがどれくらいあるのか聞きたいです。
専攻医マコト
病院によってピンキリだと思いますが、内科や外科などの最も忙しい専攻医と比べると、かなりオンオフがはっきりしていると思います。特に僕の病院は、個人の裁量権が大きく、仕事を入れたりセーブしたりできます。平日頑張って、土日は完全にオフにすることができます。先生が思っているよりも、ゆとりはあると思いますね。その代わり、平日の日中にだらけていることはありません。駆けずり回って、オフは完全にだらけることができるというイメージです。
初期研修医シュン
いつ呼ばれるか分からない緊張感が常にある印象だったので、少しイメージとは違います。
専攻医マコト
もちろん、オンコールの時は呼ばれることもありますが、常にではありません。オフの時はしっかり休みます。メリハリをコントロールできるのが魅力かなと思います。
初期研修医シュン
だいたいの病院がそんな感じですか?
専攻医マコト
中にはものすごくハイパーな病院もあって、3次救急まで取っていて外傷患者を超頑張って診るところだと、そういうふうにはいきません。専攻医に、消化できないくらいいっぱい症例が回ってきます。1日に20~30件も救急車を取らない、2.5次くらいの市中病院であれば、それぞれの症例を勉強して吟味して、手術後も考察して――と余裕を持って仕事ができるはずです。どちらの環境を欲しているかで、病院を選べばいいと思います。
初期研修医シュン
印象に残っている患者さんはいますか?
専攻医マコト
最近、人工関節の手術に関わらせてもらえるようになってきました。外来で自分が診断して、人工膝関節置換術という手術を行うまでを担当した時のことは、超勉強したので印象に残っています。体が痛くて全然歩けなくて、寝たきりになってしまうかもしれないおばあちゃんが、退院する時には杖をついてすたすた歩いていて、家族からも感謝されました。それはまあ、酒がうまかったですよ。
初期研修医シュン
いい仕事をしたら、酒で自分をねぎらう。仕事の醍醐味ですね。
専攻医マコト
酒、飲めないんで実際はジュースです。すいません、格好つけてしまいました。
tica ishibashi
イラストレーター、ファッションクリエイター。
アパレル商社のデザイナー職を経てフリーランスに。見た瞬間に「ずきゅん」と一目ぼれするような胸に響くクリエーションをモットーに、ファッションに特化したクリエイティブワークを展開する。イラストレーション、ファッションデザイン、アートディレクションと幅広く活動。広告グラフィックやブランドイメージビジュアルなどのさまざまなファッションイラストの制作と、アパレル企画や衣装などのファッションデザインを手がけている。2023年度JIAイラストレーターオブザイヤー最優秀商品イラスト賞受賞。
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