産婦人科専攻医テル(ハンドルネーム)と初期研修医ミミ(同)の対談の最終回をお届けする。
テル医師は産婦人科専門医を取ってからは、「周産期」や「遺伝」分野をサブスペシャルティにして、キャリアを形成していくつもりだという。「遺伝」という言葉に食いつくミミ医師。彼女も遺伝の分野に興味があるそうだ。最終回では、出生前診断に関する実情や、働き方改革が産婦人科の職場にもたらした影響などが、つまびらかに語られた。
初期研修医ミミ
テル先生は産婦人科3年目ということで、来年が専門医試験ですよね。さらにその先のサブスペシャルティはもう決めていますか?
専攻医テル
初周産期と遺伝…
初期研修医ミミ
遺伝!
専攻医テル
…に進むつもりで、上司と話をしています。
初期研修医ミミ
さえぎってしまってすみません(笑)。私もけっこう、臨床遺伝専門医に興味があって。
専攻医テル
一緒です。
初期研修医ミミ
サブスペはある程度決めた上で、専攻医時代を過ごすものなんでしょうか?
専攻医テル
いや、結局サブスペはいろいろあるので、しばらく働いてみないと分からないと思います。産婦人科は大まかに、産科と婦人科どちらにするのかが、キャリアを決める第一の関門です。僕は、専攻医になってから決めようと思っていて、1年目の時にどちらも経験してから考えました。
初期研修医ミミ
病院選びの時は、産科が強いところにしようとか、婦人科しかやっていないところはやめておこうとかそういうのはあまり考えなかったですか?
専攻医テル
取っ掛かりとして「子ども」に興味があったので、産科が充実している病院に行こうかなとは考えていました。それと、「症例」ですね。どれだけ多く症例に触れ、手術の執刀に関われることができるかが第一だったかなと思います。
初期研修医ミミ
なるほど。そういう目でも病院を探してみようと思います。
初期研修医ミミ
テル先生はどうして、遺伝に興味が湧いたんですか?
専攻医テル
遺伝の分野では新型出生前診断(NIPT)などが話題になっているとは思うんですが、僕は全く分からないまま産婦人科に入りました(笑)。ですが、遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)の予防で卵巣・卵管の切除をする患者を診たり、遺伝カウンセリング外来につかせてもらったり、胎児の染色体異常がないかを調べる羊水穿刺(せんし)も一緒にやらせてもらったりしているうちに、「遺伝」が気になるようになりました。卵巣・卵管の切除は(米国人俳優の)アンジェリーナ・ジョリーが手術を受け、話題になっていましたね。
初期研修医ミミ
実際に働いてみて、意識するようになったんですね。
専攻医テル
それと、2022年から不妊治療が保険適用になり、高齢妊娠は増えていますが、臨床遺伝専門医を持っている人が少ないのが現状です。治療を受けたくても受けられないという人が多いことを現場で感じたんですよ。
初期研修医ミミ
なるほど、そういう事情があることを現場で肌で感じたと。
専攻医テル
出生前診断は認可施設(日本医学会の出生前検査認証制度等運営委員会が認証した施設)だけでなく、認可されていない施設でも行われています。法律的に問題はないのですが現実問題として、例えば美容クリニックで出生前診断を受けて、結果だけ渡されて「これどうしたらいいの」と迷っている妊婦さんに会った時に、これはおかしいと感じました。資格を持つことによって、いろいろな提案ができる医者になれるんじゃないかなと思ったんです。
初期研修医ミミ
たしかに私も、臨床遺伝専門医の資格を持っていない開業医が検査だけして、伝えていい内容を超えて伝えてしまうということを聞いたことがあります。また、普通だったら結果の説明の回、その後のフォローの回、と何回かに分けて患者さんと話す機会を作るところ、結果を渡してさようなら、ということがあると聞いてびっくりしたことがあるので、テル先生と同じ意見です。
専攻医テル
それで興味を持つのはすごいと思います。僕は初期研修医の時は何も分からなかったですから。あと、遺伝子そのものに興味があります。HBOCでも原因遺伝子が分かることで、治療や予後につながるというのが面白いと思っています。
初期研修医ミミ
普段の仕事の流れはどんな感じですか?
専攻医テル
週に3回は午前7時半からカンファレンスがあります。産婦人科だけのものが二つと、NICU(新生児集中治療室)と合同のものです。カンファがなければ出勤は8時半です。日中は病棟の業務や手術、外来をします。手術は、帝王切開や婦人科系のものが多いです。専攻医1年目は、カンファ以外の時間は、分娩(ぶんべん)待機の妊婦がいればそこについて、分娩を学ぶのがメインです。年次が上がるにつれて、手術や外来、救急対応もするようになっていきます。
初期研修医ミミ
そうなんですね。手術の勉強は大変ですか?
専攻医テル
1年目は慣れるまで、翌日の手術の勉強をしていたので、午後7時や8時に帰ることもありましたが、年次が上がるにつれて帰る時間は早くなって、6時、7時には帰れるようになっています。
初期研修医ミミ
忙しさはどうですか?
専攻医テル
分娩はいつ起こるか分からないですし、緊急の帝王切開に走っていくこともあるので、昼ご飯を食べられないことは多々あります。日中の業務の後は、当直帯の医師に引継ぐことを徹底しているので、仕事は午後5時に終わらせます。他の病院でも終業時間については厳しくなっています。
初期研修医ミミ
働き方改革ですね。
専攻医テル
他の科でも同じだと思うんですが、今年から働き方改革でガラッと変わっているのが事実です。専門研修中に2、3件の病院で働いてみて、どこの病院でも当直明けは絶対に帰るということを徹底していました。
初期研修医ミミ
顕著に表れていますね。
専攻医テル
でも正直、それでは回らない病院もたくさんあると思います。特に産科は人手不足ですから、当直明けに帰れなかったり、本来休みを取るはずの日に出てこないといけなかったり。専攻医ながら、産婦人科医がこれから増えてほしいと思っています。
初期研修医ミミ
初期研修中に意識した方がいいことはありますか?
専攻医テル
初期研修の2年間で、子宮外妊娠など本当に危険性のある疾患に出くわすことが1回はあると思います。僕も経験しました。そのときに、産婦人科に興味がなかったとしても、ちゃんと産婦人科にコンサルトできるような知識は身に付けてほしいと強く思っています。
初期研修医ミミ
なるほど。
専攻医テル
また、女性は自分が妊娠・出産をするかもしれませんし、男性も奥さんや友達が妊娠・出産するでしょう。そのときにアドバイスを求められるので、困らないように2年間で最低限、産科的なことに触れて、それをずっと覚えていてもらえれば、いつか役に立つと思います。
初期研修医ミミ
どんな人でも妊娠・出産は友達や家族に起こり得るイベントですもんね。今日聞いたことを胸に刻もうと思いました。
おわり
tica ishibashi
イラストレーター、ファッションクリエイター。
アパレル商社のデザイナー職を経てフリーランスに。見た瞬間に「ずきゅん」と一目ぼれするような胸に響くクリエーションをモットーに、ファッションに特化したクリエイティブワークを展開する。イラストレーション、ファッションデザイン、アートディレクションと幅広く活動。広告グラフィックやブランドイメージビジュアルなどのさまざまなファッションイラストの制作と、アパレル企画や衣装などのファッションデザインを手がけている。2023年度JIAイラストレーターオブザイヤー最優秀商品イラスト賞受賞。
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