産婦人科専攻医テル(ハンドルネーム)と初期研修医ミミ(同)の対談の続編をお届けする。
病院見学に行く際の工夫、見学で注目すべきポイント、手技を上達させる秘訣……。産婦人科を志望する初期研修医の多くが気になっているであろうことを、テル医師がアドバイスした。ミミ医師には悩みがあるという。もし産婦人科の道に進んだ場合、初期研修で産婦人科を重点的に回る「産婦人科コース」を選んだ医師との間に、経験的な差ができてしまっているのではないかということだ。果たして、テル医師の見解は――。
初期研修医ミミ
テル先生はいつから病院見学に行っていましたか?
専攻医テル
初期研修1年目はローテーションを回ることで手いっぱいだったので、1年目のうちにどの科がいいかをある程度絞って、2年目に入ってからですね。小児外科と悩んでいたので、産婦人科のある子ども(小児専門)病院を見に行っていました。
初期研修医ミミ
ローテする科によってはすごく忙しいと思います。休みは取れましたか?
専攻医テル
たしかに病院によっては休みづらいことがあると思います。それもあって、一日で2診療科を見学できるように、産婦人科のある子ども病院を選んでいました。どちらも見せてくださいと頼むと、嫌な顔せず見学させてくれましたよ。
初期研修医ミミ
限られた休みの中で、できるだけ多く見学するための工夫ですね。
専攻医テル
僕の今いる病院は、NICU(新生児集中治療室)があって、それなりに分娩数も多い病院です。地元では「あそこの産婦人科は忙しくてやばい」という噂があって、初期研修先の先生からは「やめておいた方がいいよ……」と言われていました。
初期研修医ミミ
おお(笑)
専攻医テル
でも、一度くらいそういう病院に挑戦してみようかなと思って見学に行ってみたら、先生たちの雰囲気にほれてしまって。すぐ、ここに決めました。
初期研修医ミミ
一歩踏み出して、見学に行って本当に良かったですね。
専攻医テル
噂に惑わされず、実際に自分の目で見て、合う、合わないを見極めましょう。気になる病院があるんだったら、お願いしてでも休みを取って行った方がいいと思います。後悔しないようにした方がいいです。
初期研修医ミミ
たしかに自分の目で見られるものはできる限り見て、という方が最終的な納得感が大きいと思います。テル先生がほれたという、病院の雰囲気はどんな感じなんですか。
専攻医テル
困ったときに研修医や専攻医でも、30年以上の経験があるトップの先生たちにも気軽に聞きに行けるんですよ。だいたい中堅の先生を頼るのが通例だと思うんですけど、僕のいる病院は研修医がずっと上の先生にいつ聞きに行っても、嫌な顔一つせずに教えてくれます。忙しいはずのトップの先生が研修医と一緒に帝王切開をやっているのを見た時、しっかり下の面倒を見ているというのはいいことだなあと思いました。
初期研修医ミミ
それはすごいですね。
専攻医テル
あと、助産師をはじめ、多職種との関係が良いと思いました。困ったときに頼りになる人がいないと専攻医は伸びないと思うので、気兼ねなく何でも聞ける環境の方が自分のためになると思います。
初期研修医ミミ
なるほど、すごく参考になります。
初期研修医ミミ
手術の上達のためにしていることはありますか?
専攻医テル
まず手術に関して、外科系と産婦人科には決定的な違いがあります。世の中的には、腹腔鏡やロボットで低侵襲の手術ができるようになってきていますが、帝王切開はこれからも絶対に「開腹」です。基本を覚えるまでは、決まった手術に入るだけじゃなくて、「見て学ぶ」ことが大切なんです。見に行けるときは絶対に行った方がいいです。僕はそうしていました。
初期研修医ミミ
絶対に見に行く、ですね。
専攻医テル
ラパロ(腹腔鏡)と違って、開腹は見に行かないと分かりません。赤ちゃんの取り出し方にはコツがいるので、実際にやらないと難しいというのがありますが、まずはどれだけ見に行ったかが大事だと思います。
初期研修医ミミ
強調されますね。
専攻医テル
何回も見ておかないと「合併症がこの時には起こるな」と頭で分かっていても、実際に起きたときに、手が出ないんですよね。「あの先生、あの時ああしてたな」とかを頭に刻んで、手技の一歩先が読めるようになれば、手術が上達しているのだと思います。執刀に目が行きがちですが、その時に上級医の先生がどう動いているのかまで見られると、よりいいのかなと思います。
初期研修医ミミ
ぼーっと見るだけじゃなくて、こういうところに気をつけているんだろうなとか、意識して見られるといいんですね。
専攻医テル
ラパロに関しては、ドライボックス(腹腔鏡手術の練習用の器具)での訓練が必要です。同じ学年の仲間で集まって、一緒に折り紙を折るなどするといいと思います。一人で黙々と…というのが僕は苦手なのと、一人ではうまくやれているのか分からないので、外科系の仲間を誘ってやるといい練習になると思います。
初期研修医ミミ
仲間がいる環境だと、一緒にやろうぜという流れができていいですね。
初期研修医ミミ
マッチングの時に悩んだのが、「産婦人科コース」がある病院を選ぶかどうかです。そういうところでは1年近く産婦人科を回ることもあるんですよね。先生の初期研修先は産婦人科コースのある病院でしたか?
専攻医テル
そういうコースのある病院ではなかったです。ただ、今専門研修をしている病院は初期研修の産婦人科コースがある病院です。
初期研修医ミミ
初期研修先を選ぶ時に、産婦人科コースにするか迷いましたか?
専攻医テル
僕は、初期研修の魅力はいろんな科に行けることだと考えていたので、満遍なく回れる病院がいいと学生時代から思っていました。だから、そういうコースがないところ選びました。
初期研修医ミミ
私も、産婦人科コースに進むと、産婦人科しか診られない2年間になってしまうかなと思って、そうじゃない病院にしたんですけど……。実際に専攻医として産婦人科1年目がスタートした時に、産婦人科コースで研修した人との間に差がついているんじゃないかと、不安になっています。
専攻医テル
僕も初期研修医の時に悩んだことです。今いる病院は、初期研修で産婦人科コースがあるので、そのコース上がりの専攻医がいます。研修医2年目でも帝王切開や、子宮内膜掻爬(そうは)術などの短時間の手術はバシバシやっているみたいです。なので、差がついているんじゃないかと不安でした。でも、産婦人科に入ってみて、結局手技は症例にもまれることで、問題なくその差を挽回できます。実際に、同じ年次の医師に劣っていないと思う場面が多々あります。専門研修の病院をどう選ぶかが大事です。
初期研修医ミミ
おお。症例にもまれ、経験が得られるような病院を選ぶといいということですね。
専攻医テル
あとは、専門研修では、初期研修に産婦人科コースがないような病院に行った方が一から教えてくれるんじゃないかなと思いもしましたが、結局そんなことはなく、優しく教えてもらえましたよ。
tica ishibashi
イラストレーター、ファッションクリエイター。
アパレル商社のデザイナー職を経てフリーランスに。見た瞬間に「ずきゅん」と一目ぼれするような胸に響くクリエーションをモットーに、ファッションに特化したクリエイティブワークを展開する。イラストレーション、ファッションデザイン、アートディレクションと幅広く活動。広告グラフィックやブランドイメージビジュアルなどのさまざまなファッションイラストの制作と、アパレル企画や衣装などのファッションデザインを手がけている。2023年度JIAイラストレーターオブザイヤー最優秀商品イラスト賞受賞。
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