脳神経外科の専攻医サトシ(ハンドルネーム)と初期研修医ミヨ(同)の対談の続編をお届けする。
サトシ医師が脳神経外科を選んだ理由や、脳神経外科医に最低限必要な能力、脳神経外科という領域の中の専門に関するサトシ医師の考え方――などが話題に上がった。
初期研修医ミヨ
そもそもサトシ先生は、なぜ脳神経外科医になろうと思ったんですか?
専攻医サトシ
命に直結して、緊急の治療ができる診療科って、格好いいじゃないですか。「格好いい」というのを基準に選んでいて、循環器内科と迷ったんですよ。でも、脳神経外科はカテーテルも内視鏡も放射線治療も化学治療もできて、一番格好いいのかなと。
初期研修医ミヨ
「格好いい」というの、すごく分かります。ギリギリまで悩まれたんですか?
専攻医サトシ
めっちゃ悩みました。最後の決め手は、脳神経領域と脊椎の診療に関して一つの診療科で完結していて、いろいろな方法を組み合わせて疾患と戦うところに魅力を感じたんですよね。
初期研修医ミヨ
脳神経外科は命に直結することを扱うので、患者さんが重い状態の時に、本人や家族への説明は難しくないですか。
専攻医サトシ
本当に、僕らがその人の命や人生を決めてしまう科でもありますからね。家族が、寝たきりでも植物状態でも生きていてほしいと願うのであれば、僕らは手術をします。しかし、手術をしても、寝たきりになってしまうことが分かっていたときに、手術をすることがかえって本人の苦痛になるのではないかと考えることもあります。家族が「そうなってしまうのは……」という考えであれば、内科的治療で様子を見ます。家族が動揺している中で、僕らは手術やそのリスクについて説明をして、時には意見も伝えなくてはなりません。これは慣れるまでは、正直かなりしんどいところがありました。
初期研修医ミヨ
ああ、それは厳しいですね……。
専攻医サトシ
だから、脳神経外科医にはコミュニケーション能力が必要になります。
初期研修医ミヨ
確かに、それができないと難しそうですね。
専攻医サトシ
脳神経外科の領域の特徴として、手術をしても完全に治るわけではなくて、後遺症が残ることを覚悟で、それでも命を救うためにやらなければならない手術が多いんです。だから、患者や家族と信頼関係を築いて、ちゃんと説明をしなければなりませんからね。
初期研修医ミヨ
なるほど。コミュニケーション能力は最低限必要なことなんですね。
専攻医サトシ
それに、脳神経外科の中でもいろいろな専門性のある人に相談するというのは必要不可欠なんです。この領域は適用が難しくて、いろいろなことを合わせて考えなくてはいけませんから。そういった意味でも、コミュニケーションは大事です。
初期研修医ミヨ
脳神経外科の中には、いろいろな領域がありますよね。サトシ先生は何を専門にしたいと考えていますか。
専攻医サトシ
最初は外傷とか脳卒中の脳神経救急に興味を持って、脳神経外科に足を踏み入れたんです。でも、入ってみると、脳腫瘍や機能外科という分野もあって、興味がどんどん広がっていって。実は今、六つほどの学会に所属して、それぞれ研さんを積んでいる状況です。
初期研修医ミヨ
六つも? すごいですね(笑)。
専攻医サトシ
脳神経外科医って、脳血管障害と機能外科とか、脊椎と外傷とか、複数の専門を持っている人がけっこう多いんですよ。
初期研修医ミヨ
複数の専門領域の症例というのは、サトシ先生が今勤めている病院で経験できるんですか?
専攻医サトシ
はい。できる環境です。僕が所属している学会は、(医師免許取得後)7年目で専門医を取ることができます。僕はまだ専門研修期間が残っていますが、一つを除いて専門医取得の条件となる症例をすでに満たしているんです。脳神経外科は人が多い分野ではないので、望めば症例はいくらでも経験できます。
初期研修医ミヨ
血管内治療と開頭手術だと、だいぶ違う技術だと思うのですが、同時に経験を積むべきものなんですか?
専攻医サトシ
そうですね。例えば脳動脈瘤の治療をするときに、開頭してクリップで動脈瘤をつまむクリッピングをするのがいいのか、血管内治療でカテーテルを使って中からコイルという詰め物をするのがいいのかというのは、動脈瘤の形、患者の背景などによって変わってきます。だから、どっちもできないといけないと思うんです。
初期研修医ミヨ
なるほど。そういうものなんですね。ところで、カテーテル治療は、脳神経内科の先生が行っているのもよく見かけるんですよね。
専攻医サトシ
ああ、そうですね。脳神経血管内専門医というのがあって、その割合は脳神経外科医が8割で残りが脳神経内科とかその他の科という感じなんです。
初期研修医ミヨ
外科と内科で症例の取り合いになることはないんですか?
専攻医サトシ
どうだろう……。僕の周りでは、そういうことはないですけどね。内科は脳梗塞(こうそく)の血栓回収がメインで、外科はそれに加えて脳動脈瘤とか脳動静脈奇形も扱います。血栓回収については、何もしなかった場合に寝たきりになるか死亡してしまうことが多い患者に対して、早急な治療を行うことができれば、その2人に1人が歩いて退院できる可能性があるんです。1秒でも早く治療をする必要があるので、365日24時間早急な対応が必要になります。脳神経外科医しか治療ができないと、脳神経外科の負担が大きくなり過ぎます。だから、脳神経外科医も脳神経内科医も両方が対応できるというのは良いことですよね。
tica ishibashi
イラストレーター、ファッションクリエイター。
アパレル商社のデザイナー職を経てフリーランスに。見た瞬間に「ずきゅん」と一目ぼれするような胸に響くクリエーションをモットーに、ファッションに特化したクリエイティブワークを展開する。イラストレーション、ファッションデザイン、アートディレクションと幅広く活動。広告グラフィックやブランドイメージビジュアルなどのさまざまなファッションイラストの制作と、アパレル企画や衣装などのファッションデザインを手がけている。2023年度JIAイラストレーターオブザイヤー最優秀商品イラスト賞受賞。
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