内科(総合内科)の専攻医ココロ(ハンドルネーム)と初期研修医タイガ(同)の対談の最終話をお届けする。
ココロ医師が、キャリアについて考えていることを正直に語り、その中での総合内科医としての葛藤を明かす。タイガ医師は、特化した専門を持つ道か、幅広い領域を診られる道か、どちらに進むべきかで迷っている心の内を吐露する。そして最後は、ココロ医師が現在の給料やアルバイト、働き方について包み隠さず話してくれた。
初期研修医タイガ
ココロ先生は今後、医師としてどういった働き方をしていこうと思っていますか?
専攻医ココロ
実はまだ決めていないんですよ。そろそろ考えないとまずいですよね(笑)。直近のこととしては、内科の専門医を取った後は、感染症領域の勉強をして感染症の専門医を目指そうと思っています。それから、アレルギーはけっこう診られる人が少ない領域なので、そこも勉強しようと思っています。
初期研修医タイガ
総合内科の先生は、感染症やアレルギーの領域を深める人が多いのですか?
専攻医ココロ
そうですね。感染症、内分泌、膠原(こうげん)病は総合内科で受け持っている病院が多いように思います。
初期研修医タイガ
ココロ先生は、サブスペシャルティの領域も今後、どんどん専門医を取得していこうと考えていますか?
専攻医ココロ
うーん。専門医までは取らないと思います。というのは、得意にしたい分野があったら、専門の診療科の先生に「こういう患者さんがいたら、僕も担当医に入れてもらえませんか」と頼んで勉強することができるんですよ。
初期研修医タイガ
そういうのができるのは、総合内科医だからこそですかね?
専攻医ココロ
そうですね。総合内科は何を診てもいいという雰囲気があるので、けっこう自由が利きます。だから、担当医に入れてもらって、専門医の先生の治療を横で見ながら学ばせてもらうというのもできるんですよ。もちろん、病院によって違いはあると思いますけど。
初期研修医タイガ
ところで、総合内科の手技というのは、どのようなものがあるのですか?
専攻医ココロ
中心静脈栄養といって、栄養状態が悪かったり口から食べることができなかったりする患者さんに、首や脚の静脈から太いルートを取る(カテーテルを留置する)ことはよくやります。それから、背中から針を刺して脳脊髄液を取る腰椎穿刺(ようついせんし)、お腹の水を取る腹腔穿刺、胸の水を取る胸腔穿刺、そういった手技は一通りやります。
初期研修医タイガ
「刺す系」ですね。
専攻医ココロ
そうです。ぶすぶす刺しています(笑)。膠原病内科を総合内科でやっている病院は、腎臓の組織を取る腎生検もやっているそうです。
初期研修医タイガ
いろいろな領域を診るので、勉強が大変だと思うんですけど、どうやって勉強していますか?
専攻医ココロ
けっこう教科書を買うんですけどね。職場の机の棚に本があふれるぐらいに。ただ、なかなか読んでいる時間がなくて。基本的には、診療中に持った疑問を文献で調べて自分でまとめる、というのをひたすら繰り返しています。それをクラウドに入れてスマホで見られるようにしています。
初期研修医タイガ
学びに終わりがない感じですか。
専攻医ココロ
そうですね。総合内科は「学ぶことがなくなったな」というのは、ありませんね。やってもやっても終わらない。到達した感じがない。ちょっとできるようになったら、次の壁がすぐに出てくる。なんというか、無力感がずっとあるような……。
初期研修医タイガ
いろいろな分野を学ばなくてはならないのは大変そうですけど、それによって一通り診られるというのがやりがいでもあるんですかね。
専攻医ココロ
まあ、それは言い方を悪くすれば「器用貧乏」ですからね。他科の先生と比べて強みがないのは事実ですから。
初期研修医タイガ
僕も、何か専門を持ってから総合内科や総合診療に進んだらいいのではないかというアドバイスを上の先生からもらったことがあります。実は、すごく悩んでいるんです。
専攻医ココロ
僕も散々言われました。でも、専門医を取るためには、それなりの時間がかかるじゃないですか。それに、専門領域が高度に細分化されてきている中で終わりがなくなります。人生に2度目があるなら、そういうやり方もあるでしょうけど。
初期研修医タイガ
僕は割と、最初から専門分野を決めるよりは広い視野を持ちたいという思いがあるんです。ただ、消化器内科の道も興味があって、どうしようかといろいろな人の話を聞いています。
専攻医ココロ
誰がどう見ても分かる専門領域があって、総合内科もできますというと、他の先生からも一目置かれるし、病院からは「欲しい人材」になるのは事実です。総合内科は、自分はこれでいいんだ、と思えないとね。アイデンティティーの問題はずっと付きまといます。
専攻医ココロ
せっかくなので、お給料の話もしましょうか。
初期研修医タイガ
はい。ぜひ聞きたいです。
専攻医ココロ
今、手取りで月に60万円ちょっとで、プラス外勤(アルバイト)で10万円ちょっとあるので、月に70万~80万円もらっています。
初期研修医タイガ
総合内科はアルバイトはやりやすいですか?
専攻医ココロ
そうですね。全身を診られるということで。「救急当番にも入れます」と自分を売り込んで、地域の2次救急の病院の日直もやっています。それと、クリニックの外来のバイトもやっているんです。クリニックだと、自分の専門は消化器内科だから呼吸器は診られないよとか言っていられないので、逆に専門がなくて喜ばれます。
初期研修医タイガ
総合内科はプライベートはけっこう確保できるんでしょうか?
専攻医ココロ
これは完全に病院によると思います。僕の病院の総合内科は、上の先生、中堅の先生、僕らの世代で協力して、ちゃんと休みを取れるようにしています。
初期研修医タイガ
何か工夫をしているんですか?
専攻医ココロ
休日も回診はあるので、担当医が休めるように、患者さんごとに当番を決めています。それから、当直明けも総合内科は午前10時ぐらいには帰っています。他の科は昼過ぎまで残っているところが多いですけど。そうそう、今年は夏休みも1週間取りましたよ。
初期研修医タイガ
すごく働きやすそうですね。
専攻医ココロ
「うちの場合は」ですね。総合病院クラスで、他科に振らないものを総合内科で全部引き受けると、患者であふれるんですよ。誤嚥(ごえん)性肺炎や尿路感染症だけでも患者はたくさんいますから。他の病院の総合内科の先生で、使い倒されている人がいるというのもチラッと耳にします。総合内科がどれだけその病院で大事にされているのかを見ておくのが、働きやすいかどうかを知るポイントですね。
おわり
tica ishibashi
イラストレーター、ファッションクリエイター。
アパレル商社のデザイナー職を経てフリーランスに。見た瞬間に「ずきゅん」と一目ぼれするような胸に響くクリエーションをモットーに、ファッションに特化したクリエイティブワークを展開する。イラストレーション、ファッションデザイン、アートディレクションと幅広く活動。広告グラフィックやブランドイメージビジュアルなどのさまざまなファッションイラストの制作と、アパレル企画や衣装などのファッションデザインを手がけている。2023年度JIAイラストレーターオブザイヤー最優秀商品イラスト賞受賞。
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