内科(総合内科)の専攻医ココロ(ハンドルネーム)と初期研修医タイガ(同)の対談の続編をお届けする。
ココロ医師が、幅広い領域を診療する総合内科の武器とは何かを説明し、そのために心がけていることを語る。また、ココロ医師が最近診た中で、印象に残る2人の患者のことを話し、タイガ医師は深く感銘を受けたようだ。
初期研修医タイガ
特化した専門を持たない中で、総合内科の武器というと何になるのでしょうか?
専攻医ココロ
総合内科は、道具も聴診器と打腱器ぐらいしか使わないですしね(笑)。一番の武器といったら、対人コミュニケーション能力です。
初期研修医タイガ
対人というと、どなたに対してでしょうか。
専攻医ココロ
もちろん、一番は患者さんと家族に対してなんですけど。僕が個人的に思っているのは、他科の先生に対するものです。総合内科は、コンサルトされるよりもコンサルトすることが圧倒的に多い診療科なんですよ。
初期研修医タイガ
診察とか検査とか治療とかもお願いすることが多そうですよね。
専攻医ココロ
そうなんです。その中で、お互い人間ですから、こっちの態度が悪ければ専門科の先生も、お願いした患者さんを診たくなくなります。そうすると、一番不利益を被るのは患者さんです。だから、決してこびへつらうわけではないですけど、他科の先生と接するときの態度にはめっちゃ気を付けます。嫌われたら終わりですからね。
初期研修医タイガ
対人関係がうまくいかなかった経験はあるんですか?
専攻医ココロ
専攻医になりたての頃はありましたね。まだまだ自分の中の(他科に紹介する)ボーダーが低くて、「この状態で紹介されても困ります」ということを遠回しに嫌味で言われることもありました。
初期研修医タイガ
ボーダーはどうやって高めてきたんですか?
専攻医ココロ
コンサルトをもらうときに、「こういう患者さんはこうやって診療していく」というのを学んでいって、それを繰り返していくと自分でできる範囲がちょっとずつ広がるんですよ。そうなると、「ここから先は専門科に」という基準を上げていくことができるんですよね。
初期研修医タイガ
そうやって難しい診断を付けられるようになるんですね。
専攻医ココロ
でも、誰も診断できなかったやつを、「これだ!」といって格好良く診断できることなんて少ないですけどね(笑)。だいたいは、ああでもない、こうでもない、と上司や他科の先生の力を借りながらやって、なんとか「これじゃないか?」というものにたどり着く。治療してみたら「うまくいっているかな」みたいな感じです。泥臭くやるしかないというのが現実です。
初期研修医タイガ
ココロ先生の中で、これまでに印象に残っている患者さんっていますか?
専攻医ココロ
ある日、僕の外来に、2カ月ぐらい熱が下がらなくて、どの病院に行っても原因が分からないという19歳の女性の患者さんが来たんです。お母さんと一緒に。
初期研修医タイガ
不明熱ですね。
専攻医ココロ
そうです。原因不明の発熱。いろいろ検査をやらなくてはならないし、熱が本当に一日中出続けるのかなどの病態の把握もあるので、入院することになりました。それで、僕は診療に困った患者さんの病室には、しょっちゅう出向くことにしているんです。最初の問診では出なかったことが、後からどんどん出てくるというのを経験していたので。
初期研修医タイガ
ああ、そういうものなんですね。勉強になります。
専攻医ココロ
お母さんのいないところで、生まれはどこ? 高校生活はどうだった? 友達はどれくらいいた? といった一見診療とは関係ないような話もして。結局、検査の結果、その患者さんは何も異常がないことが分かったんですよ。一つ一つ可能性を消していった結果、心因性発熱という診断になって。
初期研修医タイガ
その患者さんは、どうなったんですか?
専攻医ココロ
いろいろと話していく中で、実は職場で孤立していたとか、たくさん情報が出てきたんです。だからもう、彼女に合うんじゃないかと思ういろいろなリラックス法を試してもらって。エビデンス(科学的根拠)のある治療法ではないんですけどね。そしたら、ある時スーッと熱が下がって、それから出なくなったんです。
初期研修医タイガ
他科の可能性を一つ一つ消していって、直接的な治療ではないけど、その患者さんに合うと思われる方法を試して、結果的に一番の問題である不明熱を治してしまったんですね。本当に総合内科の先生だからこそできたことだと思います。すごいです。その患者さんは、今はどうしているんですか。
専攻医ココロ
今も僕の所に通ってくれています。「お薬をもらいがてら、来てくださいね」ということで。自宅近くに通えそうな心療内科があるみたいなので、今後はそこにつなぐ予定です。
初期研修医タイガ
他にも患者さんの例があったら知りたいです。
専攻医ココロ
この前、70歳ぐらいの男性患者が救急に来て、脱水症で入院することになったんです。救急の先生から「脱水の程度が重くて、今日帰すのは難しいから、経過観察でお願いします」ということで僕が診ることになりました。
初期研修医タイガ
ココロ先生のところにコンサルトが来たんですね。
専攻医ココロ
はい。通常は脱水だけなら点滴をして、良くなったら帰ってもらうんですけど、なんで脱水になったんだろうと思って、理由を聞いたんです。そしたら、水を最近飲まなくなったからだと言うんです。なんで水を飲まなくなったのかを聞くと、2~3カ月前からトイレが近くなったと。トイレが近くなった理由が分かるか尋ねると、「なんか、すぐに行きたくなるんですよね」と言うわけです。それで、エコーを見てみることにしました。
初期研修医タイガ
何か見つかったんですか?
専攻医ココロ
ぼうこうの中に何かあったんですよ。そのために尿をためられなくて、トイレが近くなっていたんですね。結局、ぼうこうがんだったんです。
初期研修医タイガ
すごいです。そういう先生がいたら、患者さんも心強いですね。ココロ先生は、診察の時に何か心がけていることはあるんですか?
専攻医ココロ
僕が初期研修医の時に指導してくれた総合診療科の先生に、「なんで?をひたすら繰り返して診察していきないさい」と教わったことを忘れずに実行しています。後は、自分の家族とか大事な人がこの症状を訴えていたら、どうする?というスタンスで患者さんに向き合うことが大事だと思っています。
tica ishibashi
イラストレーター、ファッションクリエイター。
アパレル商社のデザイナー職を経てフリーランスに。見た瞬間に「ずきゅん」と一目ぼれするような胸に響くクリエーションをモットーに、ファッションに特化したクリエイティブワークを展開する。イラストレーション、ファッションデザイン、アートディレクションと幅広く活動。広告グラフィックやブランドイメージビジュアルなどのさまざまなファッションイラストの制作と、アパレル企画や衣装などのファッションデザインを手がけている。2023年度JIAイラストレーターオブザイヤー最優秀商品イラスト賞受賞。
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