救急科の専攻医ケイコ(ハンドルネーム)と初期研修医ミヨ(同)の対談をお届けする。
専攻医のケイコ医師は明るく活発な印象の女性で、初対面の相手でもすぐにリラックスさせてしまうようなコミュニケーション能力の高さが感じられた。救急医としての仕事や職場環境にかなり満足しているという。初期研修医のミヨ医師は、物静かな雰囲気とは裏腹に、ハードな印象のある外科系や救急科を志望している。
自分の判断が患者の生死を分ける可能性のある現場で、救急医はどのように精神状態を保っているのか。他科の専門医をプラスで取得する医師が多いのはなぜか。研修ですでに救急科を回ったというミヨ医師が、自身の経験を踏まえて、具体的な質問をケイコ医師にぶつけた。
初期研修医ミヨ
初期研修で最初に回ったのが救急科でした。パッと診た感じは「大丈夫だろう。軽症かな」と思っていた人が、急に悪くなるところを目にしました。そういうことは、結構あるのでしょうか。
専攻医ケイコ
あの時、診療につなげられていたらとか、画像検査をしていたらとか、そういう症例は、残念ながらあります。救急外来に来た患者さんを私が診て、大丈夫だと判断して帰宅してもらったことがありました。そしたら、その人が後日、また救急外来に来たんです。悪化した状態で。バイタルを測ったら「ショックバイタル」でした。その時はものすごくキツかったですね。
初期研修医ミヨ
そういうことに加えて、救急の現場は自分の判断一つで患者さんが生きるか死ぬか分かれることがありますよね。そういった現場で日々働いている先生方はすごいと思います。
専攻医ケイコ
軽症と判断した患者さんを本当にそのまま家に帰していいのか、という緊張感には常にさらされています。重症の患者さんは目で見て分かるので、みんなで全力で対応するんですけど、「ちょっとぐったりしている感じもするな」という患者さんをどうマネジメントしていくのかというのが、今の自分の課題でもあります。
初期研修医ミヨ
メンタル的にダメになりそうになったことはありませんか?
専攻医ケイコ
そうですね……。自分が見逃しちゃった患者さんのことは、いつまでも忘れられません。だから、胸に刻んだまま前に進むしかないんですよね。へこんでいても、私たち救急医が診なくてはいけない患者さんの波は途絶えませんから。
初期研修医ミヨ
どうやって気持ちを切り替えるのですか?
専攻医ケイコ
上の先生に話を聞いてもらいます。愚痴を言うだけではなくて、私の診療について良かったところと悪かったところを整理して、学んだことを次に生かす。どうやったら「ショックバイタル」で戻ってくるような患者さんをなくせるのかを考えて、前を向くしかないと思っています。
初期研修医ミヨ
私はまだ、進路を決め切れていません。ケイコ先生はどのように救急科を選んだのでしょうか。
専攻医ケイコ
私の場合、まず救急に携わりたいと思ったのが最初なんですよ。高校生の時にそう思って、それなら医学部に行って救急の医師だなと。他の人とは逆の順番で進んでいった感じですね。
初期研修医ミヨ
なぜ救急に携わりたいと?
専攻医ケイコ
ベタなんですけど、(米国のテレビ)ドラマ「ER緊急救命室」を見て(笑)。バタバタといろいろなトラブルが起きて、その緊張感みたいなものがすごく好きだったんです。
初期研修医ミヨ
その思いは、初期研修が終わるまでずっと続いたんですね。
専攻医ケイコ
大学の授業や初期研修のローテンションで、他の科に興味が移ったこともあります。ただ、ずっと続けていくことを考えると、年齢層とか性別にとらわれずに、いろいろな人を診られるということに魅力を感じて、最終的に救急科にしました。
初期研修医ミヨ
どんな科に興味が移ったのですか?
専攻医ケイコ
最後まで残ったのは、整形外科と産婦人科です。整形外科は救急科とダブルボードで専門医を取る道を最後まで考えていたぐらい魅力的だったんですけどね。専門医を取るためには手術の症例数が必要ですし、ちょっと私としては興味がないと思っている腫瘍の分野を勉強しなくてはならないというのもあって。その期間がどうしても苦痛になるだろうと思って、整形外科の専門医を取るのは難しいと思いました。
初期研修医ミヨ
産婦人科はどうだったんですか?
専攻医ケイコ
診療科自体はとても魅力的で、やりがいがありそうだと思ったんです。でも、一生続けることを考えると、ずっと女性しか診ないということに私は抵抗がありました。
初期研修医ミヨ
他の先生方は、どんな理由で救急科を選んだ人がいますか?
専攻医ケイコ
重症の症例は診たいけど、自分の休みの時間もほしいという人が集まる印象があります。休みには旅行に行きたいからという理由で救急を選んだという先生もいますし。結婚していて家庭のこともやりたいけど、ちゃんと全身を診られるようになりたいという理由で救急医になったという先生もいます。
初期研修医ミヨ
救急科の先生は、プラスで何か専門医を取る人をよく見かけます。
専攻医ケイコ
他科の先生の中には、「救急科は専門性がないじゃないか」と言う人もいるんです。私は全くそうは思いませんけど。それで、救急科の専門医を取ってから、自分の強みを何か持ちたいということで、ダブルライセンスで他の科の専門医を取る先生は割と多いと思います。
初期研修医ミヨ
逆に他の科で専門医を取った後に救急科に来る先生もいるのですか?
専攻医ケイコ
いますよ。私は初期研修医の時に、専門性を高めてから全身を診る救急科に行くと、その分野で頼られて役に立つということを聞きました。でも私は、救急科スタートで、もし他の専門医を取りたくなったら、その時に考えればいいやと。
初期研修医ミヨ
そうすると、また産婦人科や整形外科の専門医を取る可能性もあるのですね。
専攻医ケイコ
そのタイミングがあれば、取るかもしれません。
tica ishibashi
イラストレーター、ファッションクリエイター。
アパレル商社のデザイナー職を経てフリーランスに。見た瞬間に「ずきゅん」と一目ぼれするような胸に響くクリエーションをモットーに、ファッションに特化したクリエイティブワークを展開する。イラストレーション、ファッションデザイン、アートディレクションと幅広く活動。広告グラフィックやブランドイメージビジュアルなどのさまざまなファッションイラストの制作と、アパレル企画や衣装などのファッションデザインを手がけている。2023年度JIAイラストレーターオブザイヤー最優秀商品イラスト賞受賞。
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