外科の専攻医アキラ(ハンドルネーム)と初期研修医ルナ(同)の対談の最終話をお届けする。
ルナ医師は「地域枠」で大学に入学したため、9年間は地元で働く義務があり、それが悩みの一つであると相談する。また、アキラ医師は、研修で外科を回って「楽しかった」と話すルナ医師に、実際に専攻医として働いたときにギャップに苦しまないよう、具体的にアドバイスを送った。
初期研修医ルナ
私は「地域枠」で大学に入ったので、9年間は地元に残って勤務をしないといけません。田舎の病院などで働くことになっています。最先端の設備がある病院で働く人たちとの間に差が生まれるものでしょうか。
専攻医アキラ
ロボット手術とかって話ですよね。専攻医の時点では、正直ロボットには触れません。多くの場合、ベテランの先生が担当します。まずは基礎的な力を付けるという点では、それなりの症例数があるところで働ければ、専攻医の間は問題ないと思います。
初期研修医ルナ
地域枠のカリキュラムでは、外科がない診療所で働く予定です。外科医としてハンディでしょうか。
専攻医アキラ
外科医はどこの地域も足りていないので、しかるべきところに相談してみたら、外科がある病院に回すなどの対応をしてくれるのではないでしょうか。
初期研修医ルナ
なるほどなるほど。
専攻医アキラ
どうしても今やりたいことがあるなら、地域枠の義務を一時的に保留して、2、3年修行を積んでから義務を再開するとか、そういう方法もあると思います。
初期研修医ルナ
確かに、制度上そういうことはできますね。
初期研修医ルナ
体力面を考えた場合、この仕事はいつくらいまで続ける予定ですか?
専攻医アキラ
おっしゃるように、緊急に入ったり、夜中に起こされたりという今の働き方を50歳まで続けるのはなかなか難しいと思っています。外科の中でも肺とか甲状腺とか、化学療法とか、緩和ケアとか、バリバリじゃない部門もあるので、将来的に考えています。でも、できるうちは消化器外科でやりたいですよ。
初期研修医ルナ
ずっとこの生活ってわけではなく、次の選択肢も一応あるって感じですね。
専攻医アキラ
外科に入って最初の頃は誰もが「バリバリ頑張るぞお」と思いますけど、実際に働いてみて、「寝られない」とか「長時間のオペは集中力を保つのが難しい」「予習も復習もしないといけない」となると、日々体力が削られて、「バリバリ頑張る」なんて言っている場合じゃないんですよね。仕事を「している」というより「追われている」という場面が多いので、これから先もずっとというのは……。
初期研修医ルナ
ぶっちゃけですね。
専攻医アキラ
はははは。ここは正直に話す場だと思っているので。続けている先生もいっぱいいるんですが、僕は割と早い段階でメスを置くタイミングが来るかもしれないなと思っています。
初期研修医ルナ
学生の時にオペを見学して、最初に興味を持ったのは心臓血管外科です。心臓血管外科はどんな感じですか?
専攻医アキラ
心臓血管外科はもっと大変ですよ(笑)。消化器の場合、胆嚢(たんのう)炎とか虫垂炎のオペは早ければ1時間ですが、心臓血管外科のオペはほぼ一日中ってのも多いし、緊急も多いし、僕らの比にならないくらいです。
初期研修医ルナ
ふふふ……。
専攻医アキラ
術後の管理も循環器内科で扱うような昇圧剤とか、強めの薬の管理もしないといけません。手術も大変で、緊急も大変で、術後の管理もしっかり診ないといけないとなると、体だけじゃなくて、頭も使うし、とっても大変です。
専攻医アキラ
ルナ先生は外科のローテは終わりましたか?
初期研修医ルナ
1カ月だけ、必修の外科を回りました。助手に入らせてもらったり、カメラを持たせてもらったりして、手を動かすのがすごく楽しくて、「あ、消化器外科もいいな」と思いました。
専攻医アキラ
分かります。僕も研修医の時にそう思いました。
初期研修医ルナ
さらに外科は、別の病院で2カ月と、自分の大学病院でもう1カ月回ろうかなと思っているところです。
専攻医アキラ
その時に一度、緊急とかオンコールを、ぜひ体験してみてください。それを経験してみて、それでも楽しいとか、やりがいを感じるというのであれば本当に外科に向いています。寝られないのが本当にしんどいというのが僕の正直なところなので、研修医でいろんな経験ができるうちに、やってみましょう。
初期研修医ルナ
研修医でもやらせてもらえるものなんでしょうか。
専攻医アキラ
緊急やオンコールをやってみたいと言えば、上級医の先生たちは「おぉ、やる気があるな」と喜んでくれると思いますよ。なかなか一度進んじゃうと、道を変えるのが難しくなるので、実際に一度経験してから判断してください。
初期研修医ルナ
そうですね。ちなみにアキラ先生は、時間が巻き戻ったとしたら、消化器外科を選びますか?
専攻医アキラ
それはちょっと……。変えるかもしれないです(笑)。
初期研修医ルナ
ふふふふふ。
専攻医アキラ
もうちょっと緊急が少なくて、でも、手技がいっぱいできるところがいいかなと思っちゃったりしますよね。
初期研修医ルナ
でも、やりがいは感じてますよね。
専攻医アキラ
それはそうですよ。だから、ルナ先生も自分の心に従ってやると決めたなら、しっかり没頭すれば、やれると思います。やっぱり気持ちが一番大事です。外科を回るのなら、専攻医の先生に何日か付いて体験すると自分の働く姿が想像できると思うので、やってみてください。
おわり
tica ishibashi
イラストレーター、ファッションクリエイター。
アパレル商社のデザイナー職を経てフリーランスに。見た瞬間に「ずきゅん」と一目ぼれするような胸に響くクリエーションをモットーに、ファッションに特化したクリエイティブワークを展開する。イラストレーション、ファッションデザイン、アートディレクションと幅広く活動。広告グラフィックやブランドイメージビジュアルなどのさまざまなファッションイラストの制作と、アパレル企画や衣装などのファッションデザインを手がけている。2023年度JIAイラストレーターオブザイヤー最優秀商品イラスト賞受賞。
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