眼科の専攻医リョウ(ハンドルネーム)と初期研修医ミツ(同)の対談をお届けする。
リョウ医師は1年目の眼科専攻医。出身県の市中病院で初期研修をした後に、県内の大学病院の眼科に入局した。会話の端々から柔軟かつ肝の据わった印象を受け、何が起きても彼なら対応できるだろうという安心感を覚えた。ミツ医師は2年目の初期研修医で、近頃、進路に関わるイベントに積極的に足を運んでいる。愛きょうがあり、人の懐に入るのがうまく、魅力的な人物だ。
進路を考える際の選択肢に挙げる人が少ないといわれる眼科。果たしてどんな対談になるだろう。
初期研修医ミツ
リョウ先生は眼科専攻医になって2カ月ほどが経ちましたね。「思っていたのと違った」とかはないですか?
専攻医リョウ
実は、初期研修の自由ローテーションは全て眼科を選びました。トータルで9カ月ですかね。
初期研修医ミツ
1年近くじゃないですか……!
専攻医リョウ
なので、すぐに慣れてしまったというか(笑)。初期研修の時から、一個上の専攻医の先生をずっと見ていたので、それを思い出して、去年と同じような流れだな、みたいな感じです。
初期研修医ミツ
9カ月回っていたら、すでに2年目みたいな感じですか?
専攻医リョウ
そうですね、1.5年目みたいな微妙な立ち位置で(笑)。
初期研修医ミツ
やる気がすごいですね。
専攻医リョウ
カルテの使い方とかで、同期に指導することもあります。
初期研修医ミツ
指導(笑)。執刀医として一件こなすということはまだないですか。
専攻医リョウ
それはまだです。例年、7~10月の間にすることが多いようです。2年目以降、本格的に上級医に直接指導してもらえるので、それまでは、そんなにやり過ぎない方がいいという考えも医局にあります。
初期研修医ミツ
変な癖がつかないようにということですか。
専攻医リョウ
そんな感じですね。ただし、眼科の基本症例である白内障に関しては、教授が直々にレッスン動画のようなものを作ってくれています。それを見ながら、手術の時に使うモニターを使って、本番さながらの状態で予習しています。その後、実際に手術でも触らせてもらっているという感じですかね。
専攻医リョウ
白内障については、病院によって最初の一件目をいつこなすか、けっこう違うみたいです。早いところだと、5月に「完刀」すると聞きました。
初期研修医ミツ
それは早いですね。
専攻医リョウ
一方で、2年目以降のところもあるらしいので、まちまちですね。
初期研修医ミツ
昨日、ある大学の医局説明会に参加したんですけど、専攻医は2年目じゃないと執刀さえできないというルールがありました。
専攻医リョウ
そうなんですか、えぇ~!
初期研修医ミツ
ちょっとそれは遅いのかなと少し引っ掛かりました。
専攻医リョウ
一般的に、大きい病院は遅いのかもしれません。
初期研修医ミツ
症例はいっぱいあるけど、ということですよね。
専攻医リョウ
そうです。特に大きな医局を持つ大学病院は難症例が集まってくると思うので、まず身に付けるべき白内障の手術をする機会が少ないのかもしれません。白内障の手術に早くからたくさん触れるという意味では、小さい医局が有利ですかね。大きいところは、全国トップクラスの腕を持つ先生の手術を見られるのが良いところですけどね。
初期研修医ミツ
硝子体手術なんかは専門研修中にも携われるんですか?
専攻医リョウ
僕の医局だと、手術ができる人の手が足りない状況なので、やりたい人は専門医を取るまでの間にある程度はできるようになります。
初期研修医ミツ
それはいいですね。
専攻医リョウ
ある地方の大学の緑内障が強いことで有名な医局では、専攻医2、3年目から緑内障手術に関連することがある硝子体手術をバンバンやっていると聞きました。
初期研修医ミツ
めっちゃ早いですね。
初期研修医ミツ
リョウ先生から見て、眼科のあまり良くないところはありますか。
専攻医リョウ
そうですねぇ……。診られるのが目だけなので、もどかしいことはありますね。高齢者が入院する場合、何かしらイベントが起きることが多々あります。疾患によっては、例えばステロイドパルスという高用量のステロイドを投与する治療など、リスクのあるものもするんですが、副作用で全身に何か問題が起きたときに、眼科医だけではベストな対応ができないことがあります。
初期研修医ミツ
そういうときはすぐにコンサルトをかける感じですかね。
専攻医リョウ
そうですね。視神経炎などに対して分子標的薬のような強い薬を使うと、副作用で髄膜炎が起きることがあります。もしそうなってしまうと自分たちで対応できないため、「うーん、入れられないね」というように。それで内科に相談することがよくあります。
専攻医リョウ
ただ、眼科医は目に関してはめちゃくちゃ診られますから。目の患者はどこにでもたくさんいるので、つぶしは利くのかなと思っています。
初期研修医ミツ
誰だって白内障になりますからね。
専攻医リョウ
目を診られれば、もしも手術がすごく嫌になっても、外来診療ができるので、働き口はあるのがすごく良いと思いますね。
初期研修医ミツ
そういえば、眼科医は長く続けられると聞いたことがあります。
専攻医リョウ
その通りです。ポリクリ(臨床実習)で消化器外科を回った時に、40代後半で脂の乗った時期の先生が、老眼が進んでオペの時にどの部分が出血しているかはっきり見えないと嘆いているのを聞いて、「おっと……」と思いました。
初期研修医ミツ
それは危ないですね。
専攻医リョウ
そういう話を聞くと、一番手術をやりたい時期にそれはつらいだろうなと思います。眼科の手術は、座って行う上に顕微鏡を使います。だから、老眼でも見え方を調節できるんです。さらに、大きなモニターに術野を投影する機器も発売されていて、それを使えば見たい色を強調することもできます。老眼になってもできるというのはものすごいメリットです。70代で現役の先生もかなりいます。体力や視力で限界が決まらないんです。
初期研修医ミツ
それは大きいですね。僕はポリクリの時から、長時間のオペがすごく苦痛でして……。
専攻医リョウ
はっはっは。とても共感します。
初期研修医ミツ
休憩を挟みつつ、一日中オペ室にいるのはいいんですけど、6時間立ちっぱなしの手術とかが耐えられなくて。
専攻医リョウ
緩急があるといいですよね。
初期研修医ミツ
そうなんです! 眼科はそれがめっちゃいいなと思って。あとは、硝子体の手術がめちゃくちゃきれいじゃないですか。
専攻医リョウ
むちゃきれいですね!
初期研修医ミツ
硝子体手術の時にステロイドの粉末を入れるじゃないですか。
専攻医リョウ
マキュエイド(一般名トリアムシノロンアセトニド:硝子体を可視化するために白目に注射する製剤)ですかね。
初期研修医ミツ
それです! 眼科の実習の時にオペ室で、「ライトを消してのぞいてみな」と担当の先生に言われて。顕微鏡をパッとのぞいたら、まるでプラネタリウムみたいで。こんなにきれいなんだ……と。
専攻医リョウ
あれは本当にすごい。感動するくらいにきれい。僕もポリクリでそれを見て、最初に眼科に興味を持ったんです。
初期研修医ミツ
一緒です僕も! あれを見て眼科に行きたいなと。
専攻医リョウ
見た目もきれいですし、臭いもあまりありません。なかなか選択肢に上がらないことが多い診療科ですが、絶対にNGという人はそんなに多くないと思います。
初期研修医ミツ
オペには全身状態が安定した患者が来るので接しやすいですよね。
専攻医リョウ
比較的そうですね。やりがいは大きい仕事だと感じています。
つづく
7/28公開予定!
tica ishibashi
イラストレーター、ファッションクリエイター。
アパレル商社のデザイナー職を経てフリーランスに。見た瞬間に「ずきゅん」と一目ぼれするような胸に響くクリエーションをモットーに、ファッションに特化したクリエイティブワークを展開する。イラストレーション、ファッションデザイン、アートディレクションと幅広く活動。広告グラフィックやブランドイメージビジュアルなどのさまざまなファッションイラストの制作と、アパレル企画や衣装などのファッションデザインを手がけている。2023年度JIAイラストレーターオブザイヤー最優秀商品イラスト賞受賞。
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