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2026.07.28

ニュージーランドで開催された「世界へき地家庭医療学会(Rural WONCA)」に参加して【小徳羅漢(6)】

小徳羅漢(ことく・らかん)医師による連載コラム「Re:地方からの便り」。第6回のテーマは、2026年4月にニュージーランドの首都・ウェリントンで開催された「WONCA World Rural Health Conference(世界へき地家庭医療学会)」です。

文・写真:小徳羅漢

Kia ora!! 2026年4月、ニュージーランドの首都・ウェリントンで開催された「WONCA World Rural Health Conference(世界へき地家庭医療学会)」に参加してきました。

世界中の「Rural Medicine(へき地医療)」を専門とする医師たちが集結する、“へき地医療マニア”にとっては、よだれが出るほど興奮する学会です。

マオリの文化に触れた

ニュージーランドというと、皆さんは何を思い浮かべるでしょうか。ラグビーの試合前に、選手たちが士気を高めるために踊る伝統の舞踏「ハカ」が知られているので、先住民マオリを挙げる人も多いでしょう。冒頭の「Kia ora!!」もまさにマオリのあいさつの言葉です。

ニュージーランド北島の都市ロトルアにあるマオリの文化を体験できるスポット「テプイア(Te Puia)」で見たハカのパフォーマンス=2026年4月

現地では、実際にハカのパフォーマンスを見ることができました。そして、マオリの伝統の歌も披露されました。不思議なことに、その歌声は私の住む奄美大島の島唄をほうふつさせる響きを帯びていました。

マオリはかつて、英国の植民地化によって権利や文化が制限された歴史を持ちます。しかし今はそれらが尊重されており、医学教育にも及んでいるそうです。

地域医療に従事していると、「文化の壁」にぶつかる経験をすることがあります。例えば、以前に私が働いていた長崎県の五島列島では、食文化として「かんころ餅」というさつまいもを使ったお餅や、「日本三大うどん」の一つ(諸説ありますが)として知られる「五島うどん」がよく食べられていました。

働き始めた当初は、私も「高血圧や糖尿病の原因になるので食べるのはやめましょう」と、医師としての価値観を一方的に押し付けてしまうことがありました。しかし、かんころ餅も五島うどんも、島の人たちが、食料が十分に得られない時代を生き延びるために考えた大事な「文化」だったのです。

そして、「言葉」も「文化」とは切っても切れない関係にあります。患者さんが知らない医学用語を並べて治療方針を押し付けることも、外国の患者さんに母国語ではない言葉で説明することも、対等なコミュニケーションとはいえません。そこには、見えない「壁」があります。

本当の「患者さん中心の医療」とは、患者さんの文化的背景を深く理解した医師が、母国語や慣れ親しんだ言葉で対話することにあると思います。

2028年には「マオリによる、マオリのための医学部」が開設される予定であるという話を会場で聞きました。その話を聞き、いつの日か「奄美の人による、奄美のための医学教育」が実現できたら……と、思いをはせました。

世界のへき地が抱える「産科」の課題

今回の学会には、私のメンターの一人である市立恵那病院(岐阜県恵那市)の産婦人科医、伊藤雄二先生と共に参加し、「へき地における女性診療」について深く学んできました。伊藤先生は、公益社団法人地域医療振興協会の理事で、協会の総合診療産婦人科養成センター長として、「地方の産声」を守るために力を注いでいます。

会場に掲示されたポスターの前で伊藤先生(写真左)と=2026年4月

世界中のへき地が直面しているのは、若年層の都市流出に伴う人口減少と出生率の低下です。分娩数が減れば、麻酔科医や産婦人科医、手術室をその地域に維持することが困難になります。日本でも分娩施設の集約化が進んでいますが、妊婦さんが住み慣れない土地で待機する精神的負担や、離れて生活しなくてはならない家族のケアなど、課題は山積みです。

助産師の「職能の発揮」が地域を救う

今回の学会で私が特に注目したのは、ニュージーランドの助産師(Rural Midwife:へき地助産師)の在り方です。

日本では「分娩件数が減り、混合病棟で他科の対応に追われる中で、助産師としてのやりがいを維持するのが難しい」という声をよく聞きます。

しかし、ニュージーランドの助産師は驚くほど広範な役割を担っていることを知りました。プレコンセプションケア(将来の妊娠や性に関する正しい知識を身に付け、健康管理を行うためのケア)や妊娠前の性感染症のチェック・治療はもちろん、エコーを用いた妊婦健診、産後ケア、そして驚くべきことにミレーナ(子宮内避妊具)の挿入まで行っているというのです。

Rural Midwife(へき地助産師)のセッション=2026年4月

ニュージーランドの助産師は、「助産」という枠を超え、女性の生涯に寄り添う一人の医療専門職として自立しているのです。日本でも、助産師の職能を最大限に発揮できる環境を整えることが、地域のお産を守る鍵になるのではないかと強く感じました。

初心を思い出し、決意を新たに

私は6年前、オーストラリアやノルウェーへ「へき地医療の旅」に出たことがあります。今回の学会では、その時にお世話になった医師の方々と再会することができました。久しぶりにお話しし、あの頃の「純粋な情熱」を思い出しました。

オーストラリアのレジェンド的存在である産科総合診療医のEwen先生(写真右)と再会=2026年4月

ノルウェーのトロムス島で離島医療に従事するGry先生(写真右)と再会=2026年4月

学会の会場では、クラ・カウパパ・マオリ(Kura kaupapa Māori)というマオリ文化を尊重した学校の子どもたちが、ハカやニュージーランドの踊りを披露してくれました。

「Rural Medicine is a minority for minorities(へき地医療は、マイノリティーのためのマイノリティーによる医療です)」

これは、クラ・カウパパ・マオリの教師が、学会に参加したへき地医療従事者に向けて語った言葉です。その教師は続けて、「へき地にはそれぞれの文化を持つ民族やコミュニティーがあります。その方たちの医療を良くしてくれるこの学会に感謝申し上げます」とコメントしました。

地域医療やへき地医療は、日本はもちろん、世界でもまだまだメジャーな医療ではありません。しかし、世界中に「へき地」といわれる場所に住んでいる人がたくさんいます。クラ・カウパパ・マオリの教師の言葉を聞いて、我々へき地医療従事者は、それぞれの民族やコミュニティーの代弁者として、彼らの文化を尊重した医療を提供することが使命であると、改めて感じさせられました。

「世界基準のへき地医療を奄美から発信したい」。この思いを実現させるために、さまざまな活動も研究も英語の勉強も、さらに努力していこうと決意を新たにしました。

ウェリントンは港町で、魚介もおいしくとても素敵な場所でした=2026年4月

小徳羅漢プロフィール画像

小徳羅漢(ことく・らかん)

写真、右。奄美大島の龍郷町にある「みんなの診療所」にて総合診療医として修行中。左は「みんなの診療所」所長の原純医師。

1991年、茨城県生まれ。小学校高学年の時から神奈川県で暮らす。2016年、東京医科歯科大学卒業。鹿児島市医師会病院で初期臨床研修後、18年に長崎県上五島病院で、19年には離島へき地医療の最先端といわれるオーストラリア・クイーンズランド州で研修。20年から県立大島病院に勤務。街中で医師らに無料相談ができる「暮らしの保健室」を開催している。趣味は温泉巡りと映画鑑賞、そして島巡り。18年に結婚し、20年に夫婦で鹿児島県奄美市に移住。2人の子どもを育てている。

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