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精神科医 益田の言いたい放題! 第5回「医師はなぜ、感謝されることがうれしいのか?」

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僕らは「やりがい」に恵まれている

「病気が良くなること、助けてくれた人に感謝することは自分のためではなく、相手のためにあるのだと気づきました」。先日、ある患者さんからこんなことを言われた。自分たちが弱者であり、救われるべき存在でいることは、強者に救う役割を与えてあげている。つまり、助けられる側も同時に他の人を助けているのだ、と。

人文系の学問に精通した、なんともインテリな発言だ。まあ、確かにその通りだと僕も思う。エッセンシャルワーカー(医療や保育、介護など人の命や暮らしを支える職業)はやりがいや生きがいを仕事から得られやすく、その分、給料は低く抑えられている――というのが米国の人類学者デヴィット・グレーバーが唱えるブルシット・ジョブ理論だ。そんな理論がまかり通るほど、世の中にはやりがいのある仕事が枯渇しているのも、また事実だろう。ありがたいことに、僕らはやりがいに恵まれている。

精神科の診察室の独特な空気

しかし、精神科医の仕事は常に感謝されるわけではもちろんない。通常、診察室は独特な緊張感と不安感に包まれ、それらは治療者にも感情的な負担や疲労を生じさせる。

僕らは患者に「社会とはこういうものである。あなたの能力や実力、現状はこれぐらいであり、あなたの願望は妥協せざるを得ない。それが社会や世界のルールなのだ」と伝え、自分の感情や欲望を抑えて、常識に従えと強要する。患者は自由を奪われ、父親や教師から抑圧された子どものように感じるだろう。

また障害を告知し、受容を強要する。米国の精神科医エリザベス・キューブラー・ロスが示した「死の受容モデル」のように、受容に至る前には「否定、怒り、悲しみ、取り引き」の段階があり、すんなりと受け入れられることはなく、反発や緊張が起きる。

緊張状態が続くと、ささいな言い間違いから、患者は陰性転移(治療者に対してネガティブな感情を向けること)や投影同一視(自分が持っている嫌な感情を他人が持っているものだと思い込み、その人を攻撃することで自分を癒すこと)を引き起こす。無意識に支配され、こちらに陰性感情(マイナスの感情)を向け、言動もコントロールできなくなる。

「人助け」が病みつきになる理由

感謝される瞬間は、この緊張状態から精神科医らを解放することも意味する。それらが理想化(ある人を「欠点は何もない人」というぐらい理想的な人物だと思い込むこと)という陽性転移(治療者に対してポジティブな感情を向けること)ではなく、純粋な感謝の気持ちであると分かった時、ほっと胸をなで下ろす。そんな事態が何度も繰り返されている。

緊張から緩和に転じた瞬間こそ感動が生まれる。その落差が大きいほど感動は大きい。医師らはそれを体験できるので、人助けという仕事が病みつきになってしまうのだと思う。

僕らはやりがいに恵まれているからこそ、お金や地位の欲望から解放されているのだろう。また、そのメカニズムに気付いたために、冒頭の患者は相手のために感謝をするという「仕事」が受け入れやすかったのかもしれない。

益田裕介プロフィール画像

益田裕介(ますだ・ゆうすけ)

1984年生まれ。岡山らへん出身。精神保健指定医、精神科専門医・指導医。防衛医科大学校卒業、陸上自衛隊勤務後、民間病院を経て、2018年4月より東京都内の早稲田大学横で個人開業医をしている。19年12月からYouTubeもやっている変な人。酒が好きすぎて、心身を壊しそうだったので20年6月から断酒中。そのことを自慢に思っている。週6~7勤務も疲れてきたので、勤務日を減らしたいけれど、貧乏性なので減らせない。こんなに頑張って働いているお父さんなのに、8歳になる娘からは「変態おじさん」なるあだ名を拝命しました。

月曜のマミンカプロフィール画像
イラスト

月曜のマミンカ

神奈川県川崎市在住のイラストレーター、絵本作家、グラフィックデザイナー。 2022年、絵本「カモンダメダメモンスター」を出版後、こどもと楽しめるワークショップを不定期で開催。 4匹の保護猫とヒーロー好きな息子、自由奔放な娘の子育てに奮闘中。

HP: https://mondaymom.official.ec/

Instagram: https://www.instagram.com/mondaymaminka/