放射線科の専攻医マサキ(ハンドルネーム)と初期研修医フミヤ(同)の対談の最終話をお届けする。
フミヤ医師は放射線科の志望度が高く、今のうちから準備できることはないかと、前のめりだ。マサキ医師は、研修医のうちから読めて、専攻医になってからも使える本などを教えた。それから、一風変わった学会の慣習や、AIと放射線科の仕事の未来にまで話題が及んだ。
初期研修医フミヤ
放射線科を考えている研修医が備えておくべきこと、できることはありますか。
専攻医マサキ
今は何かしていますか?
初期研修医フミヤ
研修医向けに書かれたCT読影の本を読んで、救急の当直の合間に勉強しています。
専攻医マサキ
研修医だったらそのくらいでいい気がしますが、「画像診断」(Gakken)という雑誌の増刊号が面白いので読んでみるといいと思います。例えば「似て非なる画像"The mimickers"の鑑別診断(2020年)」。あとは、「ビギナーのための腹部画像診断―Q&Aアプローチ―(2021年)」「画像でみかける偶発的所見のマネジメント2022-あなたならどう書く?(2022年)」。これは研修医から専攻医まで使えますし、読みやすいです。小黒草太先生(東北大学放射線診断科分野講師)の「CT読影レポート、この画像どう書く?」(羊土社)もお勧めです。放射線科に完全に決めたなら、「画像診断の勘ドコロ」(メジカルビュー社)シリーズを読むといいですね。
初期研修医フミヤ
全部メモったので、読んでみようと思います。
専攻医マサキ
あと、興味があるなら放射線科は何カ月か回ると思うんですけど、その後、病理を回った方がいいですよ。
初期研修医フミヤ
へええ。どうしてですか?
専攻医マサキ
放射線科で診ていた内容が、病理ではこう映るんだというのが分かるんです。そうすると、たとえば放射線科でこういうふうに信号変化が起きているのは、病理ではこう見えるんだろうなと、イメージできます。病理組織の画像は放射線科の学会でも絶対に扱うので、病理を知っていると、何となくここが悪くてこういう感じなんだと分かります。学会発表するときも、病理の組織を説明しないといけない場面があるので、ある程度知っておくといいでしょう。
初期研修医フミヤ
予定になかったですが、ぜひ病理も回ってみようかなと思います。
初期研修医フミヤ
IVR(画像下治療。画像診断装置で体の中を見ながら、カテーテルなどを用いて行う治療)は大変という話もありましたが、放射線科として働く中で大変なこととか、大変だったエピソードがあれば教えてください。
専攻医マサキ
IVR以外であるかな……(笑)。
初期研修医フミヤ
質問を変えます(笑)。仕事をしている中で「ヒヤリハット」はありますか?
専攻医マサキ
自分の経験ではないですけど、例えばIVRの時に、NBCAという(血管をふさぐ)接着剤とカテーテルが合体して抜けなくなっちゃって、緊急オペになったというのを聞いたことがあります。
初期研修医フミヤ
それはヒヤッとしますね。
専攻医マサキ
ただ、画像診断に関しては、結局専攻医の段階では上の先生に診てもらえるので、ひどい見逃しは絶対にありません。
初期研修医フミヤ
そうですか。
専攻医マサキ
放射線科医になった時に調べたんですけど、画像診断で訴えられるような案件はほぼないみたいです。放射線科で訴えられていた事例が2例出てきて、それは造影剤のアレルギーでアドレナリンを打つのが遅かったという事案でした。
専攻医マサキ
僕から聞いてみたいんですけど、学会に興味はありますか?
初期研修医フミヤ
興味はあります。希望診療科がはっきりしている同期は、病院が出張費を補助してくれる仕組みを使って、遠出しています。自分はまだです。行けるなら行った方がいいですか?
専攻医マサキ
行ったら、面白いと思いますね。僕も一度行くまで、「どうせ自分は学会が嫌いだろう」と思っていたんです(笑)。でも、放射線科の学会は、クイズ大会があって変わっています。
初期研修医フミヤ
クイズ大会ですか!? どんな感じなんですか。
専攻医マサキ
画像と病歴を見て、診断名を答える形式です。横浜市で4、5月あたりに開かれる一番大きい学会(日本医学放射線学会の学術総会)があって、研修医、専攻医、画像診断専門医、全員を対象にしたクイズで、トップ3が表彰されます。X(旧Twitter)のフォロワーが何万人もいて、本を書いている人とかがライバルなので、研修医だと上位に食い込むのはかなり難しいんですけど。地方で夏にやってる学会だと若手枠の表彰があるので、雰囲気を見がてら挑戦しに行ってみるといいと思います。
初期研修医フミヤ
チャレンジしてみたいです!
専攻医マサキ
入賞すると割といいものがもらえますよ。3位の人でも、数万円分のカタログギフト券をもらっていました。
初期研修医フミヤ
しっかり、実力を付けていこうと心に決めました(笑)。
初期研修医フミヤ
将来的にAIがどの程度、放射線科の臨床に食い込んでくるのか気になります。マサキ先生はどう思いますか?
専攻医マサキ
放射線科の学会で耳にする意見としては、まだまだAIは放射線科医の足元にも及ばないので、「どう利用するか」を考える方針だということです。
初期研修医フミヤ
学会で言われているんですね。
専攻医マサキ
病院によってはレントゲンのAIや、肺結節や脳動脈瘤を検出するAIとかを使っています。仕組みとしては、画像を撮ってサーバーに送ると、AIの検出結果が返ってくるというものです。CTは結果が返ってくるまでに30分かかります。例えば肺を診るだけなら、仕事に慣れてきたら5分もいりません。
初期研修医フミヤ
現状、あまり仕事の効率化にはつながっていないんですね。
専攻医マサキ
個人的な意見としては、画像のAIだけじゃなくて、チャットGPT(対話型AI)などを使えるようになったら、放射線科医としては強いと思います。発表のスライドを作る時なんかは、チャットGPTに投げると、ある程度エクセルの中で使うマクロを組んでくれるので、手間を省くことができます。そういう方向でAIを使えるようになるといいなと思って、僕は勉強しています。
初期研修医フミヤ
あくまでツールの一つとして、AIを使うということですね。
専攻医マサキ
そうですそうです。放射線学会(日本医学放射線学会)は特に、いろんなAIツールの使い方の講習が組まれていますよ。
初期研修医フミヤ
将来、放射線科の仕事がなくなることがあるのか不安だったので、かなり詳しく聞けてよかったです。
専攻医マサキ
もう一つ。AIに放射線科医が負けるということは近い未来にはないと思うんですが、もしAIが導入されていった場合に、バイトの読影に関して懸念されることがあります。AIが導入されたら、自分でろくに読影せずAIに頼って稼ぐ不届き者が現れるんじゃないかということです。考え過ぎですかね(笑)。
おわり
tica ishibashi
イラストレーター、ファッションクリエイター。
アパレル商社のデザイナー職を経てフリーランスに。見た瞬間に「ずきゅん」と一目ぼれするような胸に響くクリエーションをモットーに、ファッションに特化したクリエイティブワークを展開する。イラストレーション、ファッションデザイン、アートディレクションと幅広く活動。広告グラフィックやブランドイメージビジュアルなどのさまざまなファッションイラストの制作と、アパレル企画や衣装などのファッションデザインを手がけている。2023年度JIAイラストレーターオブザイヤー最優秀商品イラスト賞受賞。
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