あらすじ
童話作家、新美南吉(1913~43)が35年に書いた作品。ある日一匹のでんでんむしが、自分が背負っている殻の中には悲しみがいっぱい詰まっていることに気づく。どうしたらよいか分からなくなったでんでんむしは、友達を訪ねて回ることにした。
紹介者:オオカミ兎
診療科:精神科
医学部卒業年:2019年
高校2年生頃。夏休みの宿題として、本作品著者の新美南吉さんについて調べた時に出会いました。
私がこの作品から学び、今、精神科医としての仕事に活かせていることは、「待つ」ことです。
このお話では、主人公の"でんでんむし"がある悩み事を解決するために小さな旅をします。
実は、悩み事の答えは最初から目の前にあるのですが、旅で出会う者たちは決して「なんで君は答えが分からないんだ」と責めたり、解決策を断言したりすることはありません。主人公自身が答えを見つけるまで「待つ」のです。
日々の診療の中で悩み多き患者さんと接していると、「こういう考え方にしたら解決できるのでは?」「つまりこういうことだよね」と結論を伝えたくなることがあります。こちらがあたかも患者さんの心を把握しているような気になって、早く結論を与えたくなってしまうのです。しかし、患者さんにとって大切なことは、他人から与えられた答えの中で生きることではなく、患者さん自身が自分の人生について考えること、自分なりの答えを探していく過程であり、それが真の意味での心の回復に繋がると思います。
私もこの物語の登場人物のように、患者さんお一人おひとりの人生の歩みを「待つ」ことができる医師になりたいと考えています。
絵本にもなっているので、お子さまと一緒に読むのも良いと思います。その他、
・お忙しく、読書に短時間しか割けない方
・なんだか人生つらいなと感じている方
にお薦めできると思います。
私の場合、高校生で読んだ時と、精神科医になってからと、このお話から感じられることが違っています。何度読んでも楽しめる作品です。
岩本あかり
東京を中心に、イラストレーター・UIデザイナーとして活動。 シンプルな線に、軽快な色面。 どこにでもありそうな景色に、ひとつまみのユーモアを。 見た人がクスッと楽しくなる絵を描く。
HP: https://akariiwamoto.com
Instagram: https://www.instagram.com/akari.iwamoto