病理医ヤンデルの言いたい放題！ 第5回「青なんとかさんのせい」

地方会の運営。

字面的にはだいぶ牧歌的だが、実はなかなか面倒くさい。日本病理学会北海道支部の学術集会で、10年ぶりにうちの病院が当番施設となった。年に４回、北海道中の専門医や研修医、学生が当院の大講義室に集まって、発表したり、他の医者の演題発表や講師の講演を聞いたりする。

北海道の病理医たちのために、粛々と場を整備すること。それが、世話人を仰せつかった私の役目だ。

案内のメールを作り、演題を募集し、抄録を集め、事前アンケートをGoogleフォームで作成する。時に学会の総会や施設の代表者会議を共催し、遠方の専門家に特別講演を依頼する。会議室を事前に押さえ、託児スペースを確保して託児担当者にお願いをする。当日の会場用のお茶やお菓子を購入して領収書を控える。マイク、カメラ、ハイブリッド配信の準備。プログラムの作成、バーチャルスライドの用意――。

これらを私がやってます、と言うと、褒められる。

「偉いね」「忙しいのに」「立派だな」

しかし、これらを私が独りでやってます、と言うと、途端に沸き起こるブーイング。非難の声。シュプレヒコール。みんな手のひらを返したように説教してくる。

「主任部長たるもの、仕事を独りで抱えてはだめだ。人を使えるようにならないと」「お前が病欠したらどうするんだよ」「ノウハウを若い人に伝えろよ」

いや……うん。まあ……はい。そうだよな。

給料が発生するわけではない。時間ばかりがかかり、ストレスは強い。医業に直接貢献するものでなく、キャリアアップに役立つということもない。冷静に、独りで抱えていいことなどない。分かっている。しかし気がつくと、査定とも関係がなく、勉強になるわけでもない「作業」を、独りコツコツ引き受けてしまう。これは体質、もしくは病気だ。

小学校5年生の時。「児童会長」の青なんとかさんの顔を好きになり、自分も児童会に入ることにした。そこには「やらなくていい作業」がたくさんあった。私は青なんとかさんの顔をチラチラ見ながら、「小学生でもできる程度の児童会作業」をコツコツこなした。

楽しかったが、誰の役にも立たなかった。

味をしめた私は、中学校では生徒会長に立候補した。文化祭の閉会式のセレモニーで使う「中学生でも作れるしょぼい電飾」を、コツコツ作った。

楽しかったが、誰を感動させたわけでもなかった。

私は、「独りで何かコツコツやるのが好きなぼんず※」の頃から、ちっとも成長できていない。

まあ、それでもいいじゃないの、となぐさめてくれる人もいるだろう。コツコツやって悪いことなんかないんじゃないの、と。しかし、ここには残酷な現実がある。私は臨床を17年経験してきて、自分のこの「独りでコツコツ」が、患者の役に立ったと感じたことが正直あまりない。

エエーッ！？　こういうのって、「いらんことばかりしてきたけど、ひょんなことから大成功のきっかけとなった」ってオチなんじゃないの！？

「独りでコツコツ」って、利己的な達成感はあるけど利他的な結果を出すためには少々不足しているのかもなと思う。どこかでチームとして勝負しないと、他者を満足させるための仕事までたどり着かない。

今月も「利己的な原稿」を独りでコツコツ書き終えた。これを編集部に投げると、なんかいろいろいじってくれて、ちゃんとした原稿になる。最初に書いたものとはそこそこ変わる。独りでコツコツやっても商品にならない。だったら最初から協力してやればいいのだが、染み付いてしまったクセは直らない。

元はといえば青なんとかさんのせいだ。

病理医ヤンデル：本名 市原 真（いちはら・しん）

1978年、札幌市生まれ。2003年、北海道大学医学部卒。医学博士、病理専門医。史上空前の平安舞台大河ドラマをリアルタイムで視聴してSNSで盛り上がりたかったのだが、家族内国会で万年野党のため、多数決に勝てずイッテQを毎週見ていた。