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病理医ヤンデルの言いたい放題! 第4回「銀河GU伝説」

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いい加減、おしゃれに目覚めたい。

ちょっと良さげな洋服屋に足を運んでみた。二回りくらい年の若い店員さんに、なるべく圧をかけないようにさりげない笑顔を作る。「ごめんね、おじさんちょっと分かんないから選んでいただけますか。マジすんません」と「土下寝」で懇願。お任せくださいと彼は店内を音速で行き来し、いかにも良さげな服の数々を、山のように手にしてやって来た。

「これだと今日着てらっしゃるそのパンツに合うと思うし、他にもアレコレいろんなスタイルにも合うと思うんですよォ~」

いいじゃないか。さすがプロだ。感心した。購入!

「おしゃれの歴史がまた1ページ」。脳内の屋良有作がナレーションを響かせる。

しかしその後、私は手に入れたそのシャツを、「買った日にはいていたパンツ」としか着ることができていない。他のパンツと合わせると印象がだいぶ変わってしまう。お店では、あんなにビシッとオーセンティックでメロウでアンニュイだったはずなのに、他の手持ちと合わせると、「何だかうるせえな」とか「どうも邪魔だな」と感じてしまう。

同じ組み合わせじゃないと着られないトップス……。毎回、上から下まで同じ見た目だ。必然、その服を着て一度会った人とは会いづらい。「その服、よく着ていますね。お好きなんですね」とか言われたら恥ずか死(意味:恥ずかしくて命を落とすこと)してしまう。そこそこいい値段だったのに、あまり着なくなってしまった。

おしゃれな研修医に、この話をした。すると、彼は少し考えて、こんなことを言った。

「ご飯の献立を考えるときには、どれが主たるおかずでどれが副菜で、どれがお酒に合うつまみか、くらいのことを考えますよね。でも、服は全部メインディッシュのつもりで買ってないですか。それじゃ駄目ですよ」

腑(ふ)に落ちすぎて腑が穿孔(せんこう)した。

ああ、その話、25年早く聞きたかったよ。たしかに私のクローゼットには「メインディッシュ」として買われた服ばかりがぶら下がっている。サーロインステーキにフォアグラ、北京ダックを食卓に並べているようなものだ。「最後の晩餐(ばんさん)かよ」と家族にツッコまれるレベル。「副菜」は一切ない。インナーやベルト、靴のバリエーションが極めて貧弱だ。だから着回しに苦労する。茫然自失し、言葉を失う私に向けて、研修医はとどめの一言を放った。

「先生って、似た色の服ばかり集めちゃうタイプですよね。何となく黒系が多いとか。それって“毎日カレー食っとけば問題ない”ってのと一緒ですからね。セットアップで考えるクセ、付けるといいですよ」

うっ……うるせえ。なんだこの若造。ちきしょう、ちょっとインスタのフォロワーが多いからって、人の本質的なウィークポイントを鋭く突きやがって。

頭をフル回転させて、「なるほどなあ。これは他の話題にも応用できるね。例えば医学の勉強でも、単発で知識を積み上げるより、セットアップで学んだ方がはるかに使い勝手がいいもんね。『セットアップで考える』。私たちの共通の目標だね! ハッハハ」とその場でズバッと言えたら指導医としての面目躍如だったのですが、この切り返しを思いつくのに1カ月以上かかりました。

「コラムのネタがまた1ページ」


==もう一言==

冬はコートさえ着てしまえばいいので、楽ですよね。中はGUでOKです。

ヤンデルプロフィール画像

病理医ヤンデル:本名 市原 真(いちはら・しん)

1978年、札幌市生まれ。2003年、北海道大学医学部卒。医学博士、病理専門医。病理に興味がある医学生に親身になってアドバイスをし、研修医の学会発表や論文指導などにも熱心なことで有名。教えた若手が初期研修終了後、ことごとく病理以外の道に進むことや、万が一病理専攻医になってもアプリ開発を始めたり、年単位の新婚旅行に出かけたり、インドをさまよったりといった理由で、一向に病理医になってくれないことで世界的に有名。

月曜のマミンカプロフィール画像
イラスト

月曜のマミンカ

神奈川県川崎市在住のイラストレーター、絵本作家、グラフィックデザイナー。 2022年、絵本「カモンダメダメモンスター」を出版後、こどもと楽しめるワークショップを不定期で開催。 4匹の保護猫とヒーロー好きな息子、自由奔放な娘の子育てに奮闘中。

HP: https://mondaymom.official.ec/

Instagram: https://www.instagram.com/mondaymaminka/