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病理医ヤンデルの言いたい放題! 第2回「たしかに“理屈”整然とは言わないんだよな」

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理路整然としゃべりたい。

ずっと、そう思っている。「とうとうと語る」みたいなのに憧れる。「難しい医学のことも、あの人にしゃべってもらうとすごく分かりやすいよね」と言われたい。言われたくてたまらない。

しかし、私はいつも言葉数が多い。普通にしゃべりすぎである。

たくさんしゃべるのと、相手に伝わるようにしゃべるのは、まったく別のこと。それくらいは知っているのだけれど。

それでも私は、言葉をあえて削って相手に何かを伝えるということの意味が、よく分からない。伝えるためには、どうしたってある程度の「量」が必要ではないか。「Aを知らずにBを知るのは無理」というものではないか。

「たくさんしゃべる」と「理路整然」の共存は不可能なのだろうか。私は、世の中の「しゃべり上手」たちが講演する動画を見て研究した。すると気づいた。

世で人気を博しているセンセイ方は、案の定あまりしゃべらないのである。

「達人」のスライドは要約だらけ。フォントは大きく、キーワードは短く、「今日はこれだけ覚えて帰ってください」。情報を絞り込むことが勝ち筋。再生数が伸びる。アンケートの評価が高くなる。

まあ、それはそうなんだろう。

しかし、私は、削ってほしくなかった。もっと理屈とか構造の話を聞きたい。背景から展望まで語ってほしい。俯瞰(ふかん)して網羅しつつ、接写して深掘りしてほしい。「時間も限られていますので今日は話題を絞ります」なんて言うな。「ビジーなスライドですみません」なんて謝るな。

――とある落語家に尋ねた。

あなたは、リズムよく流ちょうにしゃべって、聞く人に情景を思い浮かべさせますよね。文字に起こしたらすごい字数だと思うんですけど、聞いていると全然苦痛じゃない。本当にすごいです。どうやったらそんなふうにしゃべれますか。訓練するしかないですか。

落語家は、まるで慣性で動いているような相づちのうなずきを、うんうんとしばらくと続けた後に、こう言った。

市原さんそりゃあね。私たちが話しているものは結局のところ物語だからね。頑張って練習すれば語れるよ。でも、あなたが語りたいのは科学でしょう。複雑系ってやつですよ。あっちにもこっちにも、理屈がやたらといっぱいあるやつ。そこに、因果の矢印を一本スーッと、起承転結、立板に水で語り切れるものですか。理路整然ってのはつまり、理路っていう路(みち)があるから整然とするわけです。でも理屈ってのは路じゃなくて「屈」っていうくらいだから、グニャグニャ曲がってんじゃないですか。あなたの語りたいのは、路は路でも寄り路のほうじゃないですか。それは、うまくしゃべったらいけないもんでしょう。

私はそれを聞いて、ああかっこいいなあ、スーッと語ってるなあ、とうらやましくて、どうやったらこんなに分かりやすく、とうとうと語れるんだろうと、やはり嫉妬ばかりしていた。

うーん、理路整然への道のりはグニャグニャどころか、迷路である。

==もう一言==

患者さんや先輩医師に何かを説明するときは、端的に。私のようにしゃべりすぎると、うんざりされてしまうかもしれませんよ。

ヤンデルプロフィール画像

病理医ヤンデル:本名 市原 真(いちはら・しん)

1978年、札幌市生まれ。2003年、北海道大学医学部卒。医学博士、病理専門医。某社の編集者に「原稿依頼の翌日にあっさり原稿を出されると、雑に手癖で書かれたような気になって傷つく」と言われたことをきっかけに、あらゆる原稿を締め切りぎりぎりまで書かずに放っておくスタイルに挑戦中。各方面からハラハラされている。最近、3泊4日の出張で仙台→横浜→福岡と移動したところ、東京で1人、福岡で1人、それぞれ異なるストーカーに出くわしたのでもう出張をやめようと思っている。

月曜のマミンカプロフィール画像
イラスト

月曜のマミンカ

神奈川県川崎市在住のイラストレーター、絵本作家、グラフィックデザイナー。 2022年、絵本「カモンダメダメモンスター」を出版後、こどもと楽しめるワークショップを不定期で開催。 4匹の保護猫とヒーロー好きな息子、自由奔放な娘の子育てに奮闘中。

HP: https://mondaymom.official.ec/

Instagram: https://www.instagram.com/mondaymaminka/