病理の専攻医スバル(ハンドルネーム)と初期研修医フミヤ(同)の対談をお届けする。
「大変優秀で、かつ誠実な方です」。スバル医師をよく知っている病理の専門医が、彼のことをこう話していた。その言葉の通り、スバル医師は見た目も話し方も「誠実」という言葉がぴったりで、話す内容は明確かつ簡潔で優秀さを感じさせる。そして、病理医という仕事に真剣に向き合っている様子がうかがえた。初期研修医のフミヤ医師は聡明な上に高いコミュニケーション能力を持っている印象があり、インタビュアーとしての役割をしっかりと務め、スバル医師から本音を引き出してくれた。
病理は自分の患者を持たない診療科だ。スバル医師は、ちょっと変わっているその仕事のどこに引かれ、いつ進路を決めたのだろうか。
初期研修医フミヤ
病理医は特殊な診療科で、みんなが頭に思い描くいわゆる「お医者さん」とは違いますよね。病理の魅力はどのようなところにあるのでしょうか。
専攻医スバル
画像の美しさ、ですかね。僕が病理に入った一番の理由が、実はそれなんです。こう言うと、ちょっと気持ち悪いですか(笑)。
初期研修医フミヤ
いいえ。全然(笑)。
専攻医スバル
たぶん、放射線科もかなり診断のプロセスは近いと思うんです。でも、放射線科と大きく違うのは画像の鮮やかさ、美しさで、それが大きな魅力なんじゃないかと個人的には考えています。
初期研修医フミヤ
ああ、確かに。放射線科の画像はガビガビしたものが多いですよね。病理は国試の問題も難しかったので敬遠していたんですけど、思い返してみると、すごくきれいな画像がたくさんありました。あれを勉強するというのは面白そうです。
専攻医スバル
どのテキストを見ても、すごくきれいな画像がたくさん載っていて、それを見るのが好きだという人はとことんハマると思うんです。小さい頃に図鑑を見て「こんなのあるんだ、すげぇな」と思っていた人や、旅行に行ってその景色に感動するような人にはお勧めです。
初期研修医フミヤ
スバル先生は、いつごろ病理医になろうと思ったんですか?
専攻医スバル
実は、大学2年生で病理の講義を受けるまでは、そもそも病理の存在も知らなかったんですよ(笑)。でも、病理の実習の時に担当の先生から声をかけてもらって、臨床医と病理医が症例検討を行うCPC(Clinico-Pathological Conference:臨床病理検討会)の発表を一緒にやるという経験をしたんです。そこから少しずつ病理に興味を持ち始めました。
初期研修医フミヤ
学生の時にCPCの発表をしたというのは、すごい経験ですね。
専攻医スバル
それで、大学の講座にある病理診断の勉強会に参加するようになったんですよ。そんなことをしているうちに、画像を見ながら診断するプロセス自体が面白くなってきて、自分には合っていると思いました。
初期研修医フミヤ
学生の時に、もう進路を決めていたんですね。初期研修医1年目の今の僕と同じくらいの時期には、大学の医局に意思を伝えていたんですか?
専攻医スバル
学生の頃に、既に「入りたいです」と言っていました。
初期研修医フミヤ
え!? そんなに早く。
初期研修医フミヤ
学生の頃にほぼ進路を決めていたということは、初期研修の時は病理医として将来働くことを前提として過ごしたんですか?
専攻医スバル
はい。そうです。ローテーションも病理を前提に。病理は精神科以外の診療科から検体が来ますから、病理医になるためには基本的に全科を学んでおかなくてはなりません。なので、そういう視点で各科を回りました。
初期研修医フミヤ
特に中心的に回った科はあるのでしょうか。
専攻医スバル
外科をメインに回りました。一番検体が多く出てくるのが外科ですからね。臓器を切って標本にする「切り出し」を行う際は、検体の解剖学的な位置関係だとか構造を把握しながらやらなくてはなりません。なので、外科からの検体の提出の仕方とか、体の中での臓器の位置関係とかをしっかりと学んでおきたいと思ったわけです。
初期研修医フミヤ
スバル先生はかなり早い段階で進路を決めていますが、学生や初期研修医の時代に戻れたとしたら、病理医になるために何をやりますか。
専攻医スバル
面白い質問ですね。そうですね。研修医の時に外科をメインに回ったことで、内科的な知識が薄くなってしまったんです。病理医は病理解剖(死因を正確に把握し、治療の適切性について検討するために行う解剖。死亡した患者の臓器や組織、細胞を観察して医学的に検討する)をします。病理解剖を依頼するのは、内科や救急科です。その治療判断の知識を身に付けるために、もっと力を入れればよかったと思います。
初期研修医フミヤ
学生の頃に戻れたら、どうですか?
専攻医スバル
僕は今、大学院生でもあるんです。その立場からお話しすると、院生は統計学や数学的な知識が必要なんです。学生の頃は、運動部に入って一生懸命になっていたし、勉強も病理の診断のことばかりやっていたので、統計学や数学の勉強をしっかりやりたいですね。
初期研修医フミヤ
スバル先生は大学院生でもあるんですね。
専攻医スバル
そうなんです。臨床研修の2年目に大学院に入りました。
初期研修医フミヤ
え? 初期研修が終わったら医局に入って数年働いて、その後に大学院に行く人は行くというイメージなのですが、病理は特殊なんですね。
専攻医スバル
病理は2パターンあるんですよ。臨床科と同じように、専攻医として働いて専門医を取ってから、次の4年間で博士号を取るパターン。それから、研修医の2年目から大学院に入って、そのまま専攻医と大学院生を同時にやる短縮パターンですね。
初期研修医フミヤ
そういうパターンが病理にはあるんですね。知りませんでした。
初期研修医フミヤ
病理には、どんな人が向いていると思いますか?
専攻医スバル
病理にはかなりいろいろな人がいるので、一概には言えないのですが……。慎重でいて、それなりに処理能力のある人が向いていますかね。
初期研修医フミヤ
では逆に、こういう人は病理医としてやっていくのは難しいんじゃないかというのはありますか?
専攻医スバル
病理医は実はコミュニケーション能力がかなり求められる科なんです。なので、それがないと、かなり厳しいと思います。
初期研修医フミヤ
なるほど。全ての科の先生とコミュニケーションを取りますものね。
専攻医スバル
そうなんです。絶妙なニュアンスで話をする必要があるし、同時に上司への報告と相談を繰り返さないといけないですから。臨床科と違って患者さんとの関りはありませんが、コミュニケーションが非常に重要なんです。
つづく
5/19公開!
tica ishibashi
イラストレーター、ファッションクリエイター。
アパレル商社のデザイナー職を経てフリーランスに。見た瞬間に「ずきゅん」と一目ぼれするような胸に響くクリエーションをモットーに、ファッションに特化したクリエイティブワークを展開する。イラストレーション、ファッションデザイン、アートディレクションと幅広く活動。広告グラフィックやブランドイメージビジュアルなどのさまざまなファッションイラストの制作と、アパレル企画や衣装などのファッションデザインを手がけている。2023年度JIAイラストレーターオブザイヤー最優秀商品イラスト賞受賞。
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