2025.06.26
米国でLGBTQの若者向け「自殺防止ホットライン」廃止▽性別は「男」「女」のみ? トランプ米大統領の考えに基づく新定義とは▽米CDCがウェブサイトからLGBTQやHIVの情報を削除▽トランスジェンダーのうつリスクを下げる「性別適合ホルモン療法」
世界の医学誌や科学誌に掲載された論文、大手メディアや医療メディアが配信している医療・医学ニュースの中から「見逃し厳禁」のものを選び、医療ニュース編集部の記者のコラムを付けて毎週お届けします。今回は5月21日~6月18日にマイナビDOCTORの『サクッと1分!世界の医療ニュース』に掲載した記事の中から「トランプ米政権のLGBTQ政策」についてのニュースを取り上げ、過去の関連記事3本を紹介します。なお、『What You Missed』は日本語版しか存在しません。
まとめ:医療ニュース編集部
米NBC News:White House proposes axing 988 suicide hotline services for LGBTQ youth

2025-06-13
米保健福祉省(HHS)は6日、LGBTQ(性的少数者)の青少年や若年成人に特化した自殺防止相談サービスの予算を廃止すると発表しました。米NBC Newsが報じました。
HHSの2026年度予算案では、自殺防止ホットライン「988」の予算のうち、LGBTQの若者に対して専門のカウンセラーにつなげるサービスを取りやめる方針が示されています。
ホワイトハウスの行政管理予算局の広報官はLGBTQ向けサービスの予算廃止について、「親の同意や認識がないまま、カウンセラーによって子どもたちが過激なジェンダー・イデオロギーを受け入れるよう懐柔されるチャットサービスに対して税金を使うことはできない」と述べたといいます。
「過激なジェンダー・イデオロギー」とは、「性別は男性と女性だけ」とするトランプ政権が採用した政治的な用語です。政権が「子どもたちにとって有害」としているトランスジェンダーの存在やその権利運動を指します。
一方で、カウンセリングを請け負っていた団体の一つはNBC Newsに対し、「トランプ政権や議会に対し、予算廃止を再考し、若者の自殺という公衆衛生上の危機に終止符を打つために最善を尽くすよう強く求める」とコメントしたといいます。
この1年間に「自殺を考えたことがある」と答えたLGBTQ当事者の割合は、10代で53.9%、20代で40.5%、30代前半で30.3%――。これは、認定NPO法人「ReBit(リビット)」が6月2日に発表した、日本国内の12〜34歳のLGBTQ当事者4733人を対象としたアンケート調査の結果です。ReBitは学校や行政、企業などにLGBTQへの理解を促す活動を行う団体です。
調査ではさらに、この1年間に、10代の19.6%、20代の9.9%、30代前半の6.4%が自殺未遂をし、自傷行為については10代で42.2%、20代で24.5%、30代前半で12.4%が経験していると、深刻な実態が明らかになっています。
米国ではトランプ政権が、LGBTQの青少年や若年成人向けの自殺防止相談サービスの予算を廃止することを決めたそうです。ReBitの調査では、相談できる人や場所の有無が自殺や自傷行為に大きく関係していることも示されており、支援の場があることで自殺念慮や自傷行為の割合が大きく低下する傾向が見られました。
国が違っても、相談できる場所の存在が命を守るという事実は変わりません。
さらに、ホワイトハウスの行政管理予算局の広報官は、予算廃止の理由として「親の同意や認識がないまま、カウンセラーによって子どもたちが過激なジェンダー・イデオロギーを受け入れるよう懐柔されるチャットサービスに対して税金を使うことはできない」と説明しています。耳を疑うような発言です。
こうした政策が現実に行われていることに、深い憤りと悲しみを覚えます。【許田葉月】
米CNN:HHS issues new definitions of terms like ‘sex,’ ‘man’ and ‘woman’ that critics say ignore science

2025-02-26
ロバート・ケネディ・ジュニア氏が長官に就任したばかりの米保健福祉省(HHS)は19日、性別に関する定義について新たな指針を明らかにしました。米国の各メディアが報じました。
新指針は、トランプ大統領が1月20日に署名した「ジェンダー・イデオロギーの過激主義から女性を守り、連邦政府に生物学的な真実を取り戻す」と題する大統領令に基づくものです。トランプ氏は「性別は男女の二つのみ」と主張しており、多様性などを重視したバイデン前政権の立場を否定する姿勢を明確にしています。
米CNNによると、HHSが公表した指針では、sex(性別)を「人の不変の生物学的分類で、男または女のいずれか」とした上で、「female(女):卵子を作るという生物学的機能の生殖器系を特徴とする性別の人」と「male(男):精子を作るという生物学的機能の生殖器系を特徴とする性別の人」に分けています。そして、femaleについては成人を「woman(女性)」、未成年を「girl(女子)」と定義。maleの成人を「man(男性)」、未成年を「boy(男子)」とするとしています。
この新たな定義について一部の専門家からは、「科学に基づいていない」などとして厳しい批判の声が上がっているそうです。
米CNN:US health websites, datasets taken down as agencies comply with Trump executive orders

2025-02-04
米疾病対策センター(CDC)のウェブサイトから、HIV(エイズウイルス)やLGBTQ(性的少数者)に関連するページが削除されたそうです。米国の各メディアが報じています。
米CNNによると、削除されたページの中には、HIVの検査やLGBTの子どもの自殺リスクに関するページをはじめ、高校生の健康上のリスク行動を長期間追跡したデータシステムなどもあるといいます。さらに、HIVなどの感染症に関するCDCのデータにもアクセスできなくなっているそうです。
トランプ大統領は「DEI(多様性・公平性・包括性)推進プログラムの廃止」を指示する大統領令や「性別は男女二つだけ」とする大統領令に署名しています。これを受け、米連邦政府の人事管理局(OPM)は先月29日、「ジェンダー・イデオロギーを植え付ける外部向けのすべての情報」を1月31日午後5時までに削除するよう指示する文書を各政府機関に通知しました。今回のCDCの対応は、この通知に従ったものです。
CDCの関係者は、違反した職員は厳しい処分を受ける可能性があると伝えられたと話しているそうです。そこで、通知が指摘している文言の修正には時間がかかるため、関係する情報を削除したとのことです。
JAMA Network Open:Gender-Affirming Hormone Therapy and Depressive Symptoms Among Transgender Adults

2025-03-26
トランスジェンダーなど、出生時に割り当てられた性別を強いられることに苦痛を感じるTGD(Transgender and gender diverse individuals)の人々が「性別適合ホルモン療法」を受けると、体だけでなく心の健康にも好影響があるようです。米国の研究チームが、医学誌JAMA Network Openに論文を発表しました。
チームは、平均年齢28歳のTGD成人3592人を対象に、4年間にわたる追跡調査を行いました。調査を開始した時点で、対象者の15.3%が中等~重度のうつ症状を呈していたといいます。
そして調査の結果、性別適合ホルモン療法を受けた人は、そうでない人に比べて追跡期間中に中等~重度のうつ症状を報告するリスクが15%低くなることが分かったそうです。
米CNNによると、米国の成人の8.3%が大うつ病を少なくとも1回経験していると米国立衛生研究所(NIH)が推計しているといいます。一方で、TGDの人は、約33%がうつ病の兆候を示すことが明らかになっているとのことです。
なお、トランプ大統領は就任直後、19歳未満への性別適合の治療や手術を行うことを制限する大統領令に署名しています。
藤野基文:記者・編集者。2004年から全国紙の記者として勤務し、主に医療・科学分野を担当した。18年にマイナビに移ってからは、グループ会社エクスメディオ社が運営するオンライン臨床支援サービス『ヒポクラ×マイナビ』の編集長を務め、現在は『マイナビRESIDENT』や『マイナビDOCTOR』などの各種コンテンツを制作している。
金子省吾:記者・編集者。2017年から地方紙に勤務し、主に社会部の記者として事件・事故や司法、市政、スポーツ、気象、地域活性化の取り組みなどを取材した。20年にマイナビに移って医療の取材をはじめ、グループ会社が運営するオンライン臨床支援サービス『ヒポクラ×マイナビ』編集部で医療ニュース作成に携わった。現在は『マイナビRESIDENT』や『マイナビDOCTOR』などの各種コンテンツを制作している。
許田葉月:記者・編集者。2021年からウェブメディアに勤務し、文学や音楽などのトレンド、社会課題などを取材した。23年にマイナビに転職して医療の取材を開始。『マイナビRESIDENT』や『マイナビDOCTOR』で各種コンテンツの制作を担当している。
阿部あすか:翻訳家、ライター。東京外国語大学(英語専攻)を卒業後、大手法律事務所の米国人弁護士などの秘書、英会話学校の講師、専門紙の英語版編集者として勤務した。2019年から編集部の一員として医療ニュースの記事を執筆している。