2025.04.03
アルツハイマー病治療薬の効果が判明! 自立して生活できる期間が無治療の人より1年前後延びる▽トランプ米政権の影響でHIVプログラムが壊滅状態?▽新型コロナ感染後の小児の炎症性疾患、ヘルペスウイルスが原因か▽40代から低下する認知機能
世界の医学誌や科学誌に掲載された論文、大手メディアや医療メディアが配信している医療・医学ニュースから「見逃し厳禁」の数本を選び、ランキング形式で毎週紹介します。トップには医療ニュース編集部の記者のコラム付き。なお、『What You Missed』は日本語版しか存在しません。今回は3月20日~26日にDOCTORの『サクッと1分!世界の医療ニュース』に掲載した記事の中から最も注目の集まったニュース4本を紹介します。
まとめ:医療ニュース編集部
Alzheimer’s & Dementia: Translational Research & Clinical Interventions:Assessing the clinical meaningfulness of slowing CDR-SB progression with disease-modifying therapies for Alzheimer’s disease

2025-03-25
アルツハイマー病(AD)の進行を抑える新しい治療薬は、実質的に患者にどのような効果をもたらすのでしょうか。米国の研究チームが、近年承認された「レカネマブ」と「ドナネマブ」についての研究結果を医学誌Alzheimer’s & Dementia: Translational Research & Clinical Interventionsに発表しました。
チームは、軽度のAD型認知症を患う60歳以上の282人(男性159人、女性123人)を対象に平均2.9年間の追跡調査を行ったそうです。請求書の支払い、車の運転、服薬や予約の管理、食事の準備など日常生活に必要な自立の度合いを評価したといいます。
その結果、非常に軽度のADで、日にちや服薬を忘れてしまう可能性のある人が治療を受けなかった場合、その後自立して生活できる期間は平均29カ月と推定されたそうです。一方、同じレベルのADを持つ患者がレカネマブを使用すると10カ月、ドナネマブを使用すると13カ月、自立して生活できる期間がそれぞれ延びることが示されたといいます。
レカネマブとドナネマブは、ADに関連するとされるタンパク質アミロイドβの塊を脳から取り除く薬です。脳の腫れや脳出血のリスクがあるほか、効果について疑問を呈する専門家もいます。
80歳を目前にした母が、今後の生活について話していた時に言いました。「アルツハイマー病も薬で治るというから、頭の方は心配しなくていいので、問題は体がどこまで動くかね」。そして、ある外科医は「薬が開発されてアルツハイマー病が治る病気になったので、高齢者に対する医療・介護の形が大きく変わるよ」と言いました。
二人とも、アルツハイマー病(AD)治療薬についての認識が間違っています。
日本で承認されているAD治療薬は二つあります。一つは厚生労働省が2023年9月25日に承認した「レカネマブ(商品名レケンビ)」で、日本のエーザイと米バイオジェンが共同開発しました。もう一つは米イーライリリーが開発した「ドナネマブ(商品名ケサンラ)」で、厚労省には24年9月24日に承認されました。
その効果については、投薬開始から1年半後の時点で、認知症の進行をレカネマブは27%、ドナネマブは35%それぞれ抑制するとされています。認知症の専門家によると、この数字は「自分や周囲の人が気づかない程度の改善」だそうです。ただ、数字を見ただけでは実際にどのような効果があるのか分からない人がほとんどでしょうから、母や外科医が誤った理解をしたのも仕方のないことです。
米国の研究チームが、レカネマブとドナネマブの実質的な効果に関する研究成果を発表しました。非常に軽度のAD患者が治療を受けなかった場合、自立して生活できるのは平均29カ月。レカネマブを使用するとそれが10カ月延び、ドナネマブを使うと13カ月延長するそうです。これまで明らかになっていた数値よりも、だいぶイメージしやすいと思います。
アルツハイマー病は、現状では治ることもなければ進行を止めることもできません。薬に過剰な期待はせず、病気や治療について正しく理解することが重要です。【藤野基文】
WHO(世界保健機関):WHO Director-General’s opening remarks at the media briefing – 17 March 2025
英BBC:Nigeria and Kenya among nations running out of HIV drugs – WHO

2025-03-24
米トランプ政権が海外援助を一時凍結したことから、世界の医療プログラムに深刻な影響が及んでいます。数カ月以内にHIV(エイズウイルス)の治療薬がなくなる国もあるそうです。WHO(世界保健機関)が3月17日に発表しました。
米国の海外援助の一時凍結後、HIVについては、50カ国以上で治療や検査、予防に関する事業が即時停止に追い込まれたといいます。英BBCによると、ナイジェリア、ケニア、レソト、南スーダン、ブルキナファソ、マリ、ハイチ、ウクライナの8カ国では、HIVの治療薬(抗レトロウイルス薬)が数カ月以内に底を突く可能性があるそうです。
WHOのテドロス事務局長は、こうした混乱によって20年にわたって積み重ねてきたHIVプログラムの進歩が台無しになりかねないと述べ、このことが1000万人以上のHIV感染者の増加につながり、HIV関連死亡者も昨年の3倍以上の300万人に達する可能性があると警鐘を鳴らしました。 テドロス氏は米国に対し、世界の公衆衛生への支援について再考するよう求めています。
Nature:TGFβ links EBV to multisystem inflammatory syndrome in children

2025-03-25
新型コロナウイルスに感染した数週間後に、「小児多系統炎症性症候群(MIS-C)」と呼ばれる重度の炎症性疾患を発症する子どもがいます。不明とされていたMIS-Cの原因について、ドイツの研究チームが、体内で休眠状態にあるヘルペスウイルスの一種「エプスタイン・バーウイルス(EBV)」の再活性化の可能性があることを突き止めたと、科学誌Natureに発表しました。
MIS-Cは発熱や嘔吐(おうと)、腹痛、下痢、目の痛み・充血などが主な症状です。EBVは90%の人が感染する一般的なウイルスで、多感染後に体内に潜伏し、休眠状態に入ります。
チームは、MIS-Cの治療を受けた2~18歳の145人と新型コロナに感染したもののMIS-Cは発症しなかった子ども105人を比較しました。
その結果、MIS-C群の血液から、EBVの痕跡やEBVに対する高レベルの抗体や免疫細胞が見つかったそうです。この免疫細胞は本来、EBVに感染した細胞を殺傷する能力を有していますが、新型コロナ感染によって産生された、細胞の増殖や分化、細胞死を調節するタンパク質(トランスフォーミング増殖因子β:TGFβ)が原因で、その能力が失われることが分かったとのことです。 チームは、EBVが急速に増殖し、極度の炎症につながる可能性が示されたとしています。
米科学アカデミー紀要(PNAS):Brain aging shows nonlinear transitions, suggesting a midlife “critical window” for metabolic intervention

2025-03-21
脳の認知機能は何歳から衰え始めるのでしょうか。米国の研究チームが1万9300人の脳スキャンを分析したところ、平均43.7歳で神経ネットワークが不安定になり始めることが分かりました。その後、66.7歳で最も急速に不安定化が進み、89.7歳で横ばいになったといいます。
チームの調べで、こうした脳の衰えには、ニューロン(神経細胞)におけるインスリン抵抗性(インスリンの作用に対して反応しにくくなる状態)が関連していることが明らかになりました。脳が老化するにつれて、インスリンがニューロンに及ぼす影響が小さくなり、エネルギーとして取り込まれるグルコース(ブドウ糖)が減少するそうです。その結果、脳のシグナル伝達が破壊されてしまうといいます。
そこでチームは、インスリン抵抗性の影響を受けることなくニューロンに燃料を供給することができる「ケトン」を参加者101人に投与しました。すると、特に40〜59歳の中年層において脳の老化が抑制されることが判明したといいます。つまり、40代から早期介入することで、加齢に伴う認知機能低下を予防できる可能性があります。
チームは研究成果を科学誌「米科学アカデミー紀要(PNAS)」に発表しました。
藤野基文:記者・編集者。2004年から全国紙の記者として勤務し、主に医療・科学分野を担当した。18年にマイナビに移ってからは、グループ会社エクスメディオ社が運営するオンライン臨床支援サービス『ヒポクラ×マイナビ』の編集長を務め、現在は『マイナビRESIDENT』や『マイナビDOCTOR』などの各種コンテンツを制作している。
金子省吾:記者・編集者。2017年から地方紙に勤務し、主に社会部の記者として事件・事故や司法、市政、スポーツ、気象、地域活性化の取り組みなどを取材した。20年にマイナビに移って医療の取材をはじめ、グループ会社が運営するオンライン臨床支援サービス『ヒポクラ×マイナビ』編集部で医療ニュース作成に携わった。現在は『マイナビRESIDENT』や『マイナビDOCTOR』などの各種コンテンツを制作している。
許田葉月:記者・編集者。2021年からウェブメディアに勤務し、文学や音楽などのトレンド、社会課題などを取材した。23年にマイナビに転職して医療の取材を開始。『マイナビRESIDENT』や『マイナビDOCTOR』で各種コンテンツの制作を担当している。
阿部あすか:翻訳家、ライター。東京外国語大学(英語専攻)を卒業後、大手法律事務所の米国人弁護士などの秘書、英会話学校の講師、専門紙の英語版編集者として勤務した。2019年から編集部の一員として医療ニュースの記事を執筆している。