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2025.03.06

頭痛薬や解熱剤として使うアセトアミノフェン、「妊婦にも安全」は間違い!? 赤ちゃんのADHDリスクに影響か

妊婦に伝えたい!アセトアミノフェン使用に関する正反対の研究結果▽蚊やボウフラと現金交換、フィリピンのデング熱対策の効果に疑問▽膵臓がんに個別化mRNAワクチンが有望▽CAR-T細胞、小児の神経芽腫に有効か

世界の医学誌や科学誌に掲載された論文、大手メディアや医療メディアが配信している医療・医学ニュースから「見逃し厳禁」の数本を選び、ランキング形式で毎週紹介します。トップ2は医療ニュース編集部の記者のコラム付き。なお、『What You Missed』は日本語版しか存在しません。今回は2月20日~26日にマイナビDOCTORの『サクッと1分!世界の医療ニュース』に掲載した記事の中から最も注目の集まったニュース4本を紹介します。

まとめ:医療ニュース編集部

①出生前のアセトアミノフェンへの暴露、ADHDリスクに関連

Nature Mental Health:Associations of maternal blood biomarkers of prenatal APAP exposure with placental gene expression and child attention deficit hyperactivity disorder

2025-02-21
妊婦にも広く使われている解熱鎮痛剤「アセトアミノフェン」を母親が妊娠中に使用すると、生まれた子どもの注意欠如・多動症(ADHD)のリスクが高まる可能性があることが分かったそうです。米国の研究チームが科学誌Nature Mental Healthに研究成果を発表しました。

チームは、アフリカ系アメリカ人の母子307組を調査したそうです。その結果、妊娠13~24週のときに採取した母親の血液からアセトアミノフェン代謝物が検出された子どもは、そうでない子どもに比べて8~10歳までにADHDと診断される可能性が3.15倍高いことが明らかになったそうです。こうした関連は、男児より女児に強くみられたといいます。

さらに、チームは307人の母親のうち174人の胎盤組織を分析しました。すると、アセトアミノフェンへの暴露とADHD診断は、胎盤における免疫系やエネルギー代謝に関与する遺伝子発現の変化に関連していることが明らかになったといいます。

アセトアミノフェンによって胎盤における遺伝子発現が変化することで、子どものADHDリスクに影響が及ぶ可能性があるようです。

記者から

「知っていたら飲まなかったのに……」。そんな人を減らしたくて書いています。妊婦になったつもりでシミュレーションしてみました――。

あぁ頭痛い……。全身がズキズキする。薬は極力飲みたくないけど、頭痛薬って飲んでもいいんだっけ。そういえばアセトアミノフェンは大丈夫って聞いたような……。「妊婦 アセトアミノフェン」で検索っと。

(上位に表示された医療機関や製薬企業のホームページには「妊娠中、最も安全に使用できるとされている」「比較的安全に使用できる」などと書いてある)最も~とされている……? 比較的……? なんか歯切れ悪いな……。うぅ、やっぱりやめておこうかな。でも、家にあるか一応探してみるか。(ガサゴソ)あ、あるじゃん。飲んじゃおっかな、どうしよう。

(スマホの画面を少しスクロール。ある産婦人科クリニックの記事の一文が目に留まる)「アセトアミノフェンは使用経験が長く、これまで妊婦さんに投与して、胎児に影響があったという事例は報告されていません」。待っていました力強い言い切り! まともそうなクリニックが太鼓判押しているじゃん!

――錠剤をゴクり。でしょう。

断っておきたいのは、別の研究で、妊娠中のアセトアミノフェンの使用が子のADHDリスクに関連しないという結果も出ているということです。しかしそれでも、(妊婦になったつもりの)私はこの研究のことを知っていたら、飲まなかったと思います。もちろん、知った上でも飲むという人もいると思います。事情は人それぞれでしょうし、個人の自由です。ただ、研究のことを知らないけれど、知っていたら飲まないという人に情報を届けたいと思ったのです。

この記事が「妊婦 アセトアミノフェン」の検索上位に表示され、妊婦の目に留まりますように。

ちなみに、「妊婦 頭痛薬」で検索したら、妊婦のアセトアミノフェンの使用に太鼓判を押す記事がトップに出てきました。【金子省吾】

②フィリピンでデング熱が急増 対応策で蚊と現金を交換する取り組み開始

AP通信:Philippine village battles dengue by offering bounties for mosquitos — dead or alive

2025-02-25
フィリピンでデング熱患者が急増しているそうです。そのような中、デング熱対策として、マニラ首都圏に位置するマンダルヨン市のアディションヒルズ地区で、蚊やボウフラ(蚊の幼虫)5匹ごとに1フィリピンペソ(約2.6円)と交換する取り組みが始まったといいます。

AP通信によると、フィリピンでは今年、2月1日時点で2万8234人のデング熱感染者が確認されており、前年同期比で40%増加しているそうです。マンダルヨン市の近隣のケソン市では、デング熱の流行宣言も出されたとのことです。人口10万人を抱えるアディションヒルズ地区では衛生状態の改善などの感染対策が行われてきましたが、今年に入り感染者が42人に急増し、学生2人が死亡したといいます。

こうした状況を受け、アディションヒルズの地区長は、デング熱を媒介する蚊に「懸賞金」をかける異例の試みを開始したそうです。捕獲した蚊やボウフラを住民が役場に持ち込むと、現金と交換される仕組みとのことです。蚊やボウフラの生死は問わないといいます。 しかし、換金目的で蚊を養殖する人が出てくる可能性があるとして、懸念の声も上がっているとのことです。

記者から

小学生の頃、土曜日の朝に学校から持ち帰った上履きを庭で洗うのが習慣でした。庭にはそのために使う桶が置いてありました。一つ嫌なこと思い出します。雨の降った週は桶に水が溜まり、その中で大量のボウフラがウヨウヨと動いているのです。その姿は本当に気持ちが悪いものでした。もちろん毎回、その水は捨てるのですが、翌週雨が降ると必ずボウフラが発生するのです。

蚊は空き缶や水たまりなど、少しでも水がたまっている場所があれば卵を産み付けるといいます。その数は一度に数百個。卵からかえるのに2~3日しかかからないそうなので、上履き洗いに使っていた桶のことも納得がいきます。そして、2週間もあれば成虫になるのだそうです。

さて、フィリピンの取り組みはどれほどの効果が期待できるのでしょうか。AFP通信もこのニュースを報じており、その中でフィリピン保健省の報道官を務める医師が「早急に周囲を清掃し、よどんだ水がたまる可能性のある場所を一掃すれば、デング熱とより効果的に闘うことができる」と話しています。

「早急に」「可能性のある場所を一掃」。ボウフラの繁殖力を考えると……。【許田葉月】

③膵臓がんの個別化mRNAワクチン、第1相試験で有望な結果

Nature:RNA neoantigen vaccines prime long-lived CD8+ T cells in pancreatic cancer

2025-02-25
米国の研究チームが、膵臓(すいぞう)がんの患者個人に合わせたmRNAワクチンの治験を行い、治療に有効な可能性があると、科学誌Natureに発表しました。チームは、手術可能な膵管腺がん(PDAC)と診断された患者16人を対象に第1相試験を実施したそうです。

治療の結果、16人のうち8人がワクチンに応答し、腫瘍を標的とする免疫細胞のT細胞が誘導されたそうです。チームの推計によると、このT細胞は平均8年近く生き残るといいます。さらにこれらのT細胞のうち20%は数十年にわたり機能する可能性があるとのことです。

④CAR-T細胞療法は小児がん「神経芽腫」にも有効か 患者が18年間寛解状態を維持

Nature Medicine:Long-term outcomes of GD2-directed CAR-T cell therapy in patients with neuroblastoma

2025-02-21
米国の研究チームが、2004~09年に神経芽腫の小児患者19人を対象に行ったCAR-T細胞療法の第1相試験の結果を医学誌Nature Medicineに発表しました。

この試験でCAR-T細胞療法の安全性は確認されたものの、治療から2カ月~7年の間に12人が神経芽腫の再発が原因で死亡したといいます。残りの7人のうち5人は、治療から13年以上経過観察が続けられました。

そしてこのうちの1人は、18年以上にわたり他の治療を受けることなく寛解状態が続いていることが分かったそうです。さらに、この患者は健康な赤ちゃんを2人出産したことも明らかになりました。

PROFILE

医療ニュース編集部

藤野基文:記者・編集者。2004年から全国紙の記者として勤務し、主に医療・科学分野を担当した。18年にマイナビに移ってからは、グループ会社エクスメディオ社が運営するオンライン臨床支援サービス『ヒポクラ×マイナビ』の編集長を務め、現在は『マイナビRESIDENT』や『マイナビDOCTOR』などの各種コンテンツを制作している。

金子省吾:記者・編集者。2017年から地方紙に勤務し、主に社会部の記者として事件・事故や司法、市政、スポーツ、気象、地域活性化の取り組みなどを取材した。20年にマイナビに移って医療の取材をはじめ、グループ会社が運営するオンライン臨床支援サービス『ヒポクラ×マイナビ』編集部で医療ニュース作成に携わった。現在は『マイナビRESIDENT』や『マイナビDOCTOR』などの各種コンテンツを制作している。

許田葉月:記者・編集者。2021年からウェブメディアに勤務し、文学や音楽などのトレンド、社会課題などを取材した。23年にマイナビに転職して医療の取材を開始。『マイナビRESIDENT』や『マイナビDOCTOR』で各種コンテンツの制作を担当している。

阿部あすか:翻訳家、ライター。東京外国語大学(英語専攻)を卒業後、大手法律事務所の米国人弁護士などの秘書、英会話学校の講師、専門紙の英語版編集者として勤務した。2019年から編集部の一員として医療ニュースの記事を執筆している。