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2025.02.06

ブタの臓器を移植した全5人の経緯 腎臓移植の女性は最長の生存2カ月を更新

ブタの腎臓を移植の女性が順調に回復 最長記録の「2カ月」経過▽「軽く一杯」では寝つき良くならず…▽超多剤耐性菌に有効なのは、なんと「カキの血」!?▽敗血症のメカニズムが判明!

世界の医学誌や科学誌に掲載された論文、大手メディアや医療メディアが配信している医療・医学ニュースから「見逃し厳禁」の数本を選び、ランキング形式で毎週紹介します。トップ2は医療ニュース編集部の記者のコラム付き。なお、『What You Missed』は日本語版しか存在しません。今回は1月23日~29日にマイナビDOCTORの『サクッと1分!世界の医療ニュース』に掲載した記事の中から最も注目の集まったニュース4本を紹介します。

まとめ:医療ニュース編集部

①ブタの腎臓を移植した女性が順調に回復 節目の「2カ月」経過

AP通信:The only person in the world with a functioning pig organ is thriving after a record 2 months

2025-01-28
米ニューヨーク大学ランゴーン医療センターで昨年11月25日にブタの腎臓移植を受けた53歳の女性が、節目となる「術後2カ月生存」の記録を達成したそうです。米国ではこの女性の前に、2022年と23年にヒトへのブタの心臓移植手術がそれぞれ1件ずつ、24年にヒトへのブタの腎臓移植手術が2件実施されました。しかし、いずれの患者も術後2カ月以内に死亡しています。

AP通信によると、女性に移植されたブタの腎臓は、拒絶反応を防ぐために10個の遺伝子が改変されているそうです。女性は移植手術から11日後に退院したのですが、術後約3週間の時点で拒絶反応が始まるわずかな兆候が確認されたといいます。

女性は血液検査などの綿密な追跡調査を受けていたために、すぐに拒絶反応に対する治療を受けることができたそうです。この治療が成功して以降、女性に新たな拒絶反応の兆候はないといいます。医師によると女性の腎臓は完全に正常に機能しているとのことです。

現在は移植後の検査のためにニューヨーク市に住んでいますが、あと1カ月ほどで自宅のあるアラバマ州に戻れる見込みだといいます。

記者から

ブタの臓器を移植した人は世界に5人います。手術は全て米国で行われました。唯一生存している女性が術後の最長生存記録を達成したと、各メディアが報じました。ただ、最長記録とはいっても、術後2カ月です。異種移植の難しさを感じざるを得ません。ブタの臓器のヒトへの移植について、経緯をまとめます。

世界で初めてブタの臓器の移植を受けたのは、重い心臓病を持つ57歳の男性です。ブタの心臓の移植手術は2022年1月7日、米メリーランド大学で行われました。男性は通常のヒトの心臓移植には適さず、ブタの心臓移植しか方法はなかったそうです。移植には、遺伝子操作によって拒絶反応の原因となる「糖」を除去した心臓が使われたといいます。心臓は数週間、正常に機能したのですが、男性は3月8日に死亡。その後の調査で、移植した心臓から豚サイトメガロウイルスが見つかったとのことです。

2例目の移植手術も米メリーランド大学で行われました。23年9月20日のことです。患者は末期の心臓病を患う58歳の男性で、合併症のために通常の心臓移植はできなかったそうです。拒絶反応を抑えるための遺伝子操作はもちろん、ブタウイルスの有無についても念入りな検査を行った上での移植でした。術後1カ月は正常に心臓が機能したそうですが、その後に拒絶反応が現れ、10月30日に死亡しました。

米マサチューセッツ州ボストンのマサチューセッツ総合病院が24年3月16日に、重い腎臓病の62歳の男性に行った世界初のブタの腎臓の移植手術が、ブタの臓器移植の3例目です。男性は18年にヒトの腎臓移植を受けたのですが、23年に人工透析が必要になったそうです。移植したブタの腎臓は拒絶反応を抑えるために、害のある遺伝子を除去した上で、人体に適合させるためにヒトの遺伝子が加えられたといいます。手術実施後、病院は「腎臓は少なくとも2年間は機能する」と説明していました。しかし5月11日に、病院は男性が死亡したことを発表したのです。

24年4月12日に米ニューヨーク大学が行った手術が4例目です。患者は心不全と末期の腎臓病を患う54歳の女性です。まず補助人工心臓を植え込み、その1週間後にブタの腎臓を移植しました。腎臓は拒絶反応の原因となる糖が作られないように遺伝子を1カ所改変し、さらに免疫細胞が訓練を受ける臓器であるブタの胸腺も一緒に移植したといいます。しかし血流の悪化で、移植した腎臓が機能しなくなり、5月29日に摘出手術を受けたそうです。そして、女性は7月7日に死亡しました。

こうやって見ると、異種移植はまだ「実験段階」の治療であるような気がします。手術後2カ月生存を記録した5例目の女性も、移植を受けた3週間ほどで拒絶反応の兆候が確認されたといいます。綿密な追跡調査を受けていたために、すぐに治療を受けられたとのことです。ブタの腎臓が女性の中で無事に働き続けることを祈るばかりです。【藤野基文】

②少量の酒は寝つきを良くせず、睡眠を乱す

The Conversation:Alcohol may help you fall asleep faster, but it leads to a worse night’s rest overall – here’s why

2025-01-28
寝つきをよくするために少量の酒を飲む人は少なからずいるのではないでしょうか。しかし、かなりの量のアルコールを摂取しないと入眠には影響しないそうです。そして、アルコールは少量でも睡眠の質を下げてしまうといいます。英国の睡眠の専門家による記事がThe Conversationに掲載されています。

記事ではアルコール摂取量と睡眠の関係を分析したオーストラリアの研究チームの報告を紹介しています。その研究によると、寝酒による鎮静効果で入眠までの時間が短縮されるのは、寝る前の3時間以内に高用量(グラスワインで3~6杯相当)のアルコールを摂取した場合のみだそうです。

また、アルコール摂取は、記憶や感情調整に重要な役割を果たす「レム睡眠」が最初に出現するタイミングを遅らせる上に、一晩の総レム睡眠時間を減少させてしまうといいます。こうしたレム睡眠の乱れは、低用量(標準的なアルコール飲料2杯相当)のアルコールを飲んだ後にも発生するとのことです。

別の研究では、夜の飲酒を繰り返すと、飲酒を控えた夜にも睡眠が乱れる可能性が示されたといいます。専門家は、禁酒や減酒の重要性を訴えています。

記者から

ビール1杯でも、飲んだ日は寝つきが良いという実感があったので、意外でした。最近は、だいたい二日に1回のペースで晩酌しています。寝つきを良くするために飲んでいるわけではありませんが、早く眠れる気がしていたので一石二鳥だな、という感覚でした。

実際に、自分の寝つきが良くなっているのかどうかを知りたくて、飲酒した日はしていない日に比べて寝息を立てるのが早いか、妻に尋ねました。「飲んでない日も一瞬で寝てるよ」。検証は失敗に終わりました。

一旦、「寝つき」に関することは置いておきましょう。飲酒による「睡眠の質の低下」は、これまでにも耳にしたことがあり、改めて考えものだと思いました。ビール1、2杯ほどで睡眠が乱れる実感はありません。でも、知らず知らずのうちに睡眠の質が下がり、脳のパフォーマンスが悪くなっているかもしれないと考えたら、少しだけ、愉快な気分ではなくなります。

そうはいっても、ビールやウイスキーに対する愛は、ちょっとやそっとのことで影響を受けるほど小さくはないので、「よく眠れていないような気がする」と感じるその日までは、この研究のことは頭の片隅に置いておくにとどめようと思います。まあ、少量の飲酒だとしても「記憶の定着」に重要なレム睡眠の時間が減るそうなので、すっかり忘れてしまうかもしれませんけどね。【金子省吾】

③「カキの血」が超多剤耐性菌に有効な可能性

PLOS ONE:Antimicrobial proteins from oyster hemolymph improve the efficacy of conventional antibiotics

2025-01-24
シドニー周辺に生息する岩ガキの一種「シドニーロックオイスター」の血リンパ(人間の血液に相当)から分離した「抗菌タンパク質」が、細菌が身を守るために形成するバイオフィルムを通過できることが明らかになったそうです。多剤耐性菌が問題になっている肺炎や咽頭・扁桃炎を引き起こすレンサ球菌属の細菌、黄色ブドウ球菌や緑膿菌に有効とのことです。

④新発見! 細胞の生き残り戦略が敗血症を引き起こす

Cell:Transplantation of gasdermin pores by extracellular vesicles propagates pyroptosis to bystander cells

2025-01- 29
感染によって全身で炎症が起こり、結果として臓器障害が生じる「敗血症」について、メカニズムが新たに明らかになったそうです。米国の研究チームが、科学誌Cellに論文を発表しました。チームは、炎症の悪循環を引き起こすのは、感染そのものではなく、感染細胞が放出する致命的なタンパク質が原因であることを突き止めたそうです。

PROFILE

医療ニュース編集部

藤野基文:記者・編集者。2004年から全国紙の記者として勤務し、主に医療・科学分野を担当した。18年にマイナビに移ってからは、グループ会社エクスメディオ社が運営するオンライン臨床支援サービス『ヒポクラ×マイナビ』の編集長を務め、現在は『マイナビRESIDENT』や『マイナビDOCTOR』などの各種コンテンツを制作している。

金子省吾:記者・編集者。2017年から地方紙に勤務し、主に社会部の記者として事件・事故や司法、市政、スポーツ、気象、地域活性化の取り組みなどを取材した。20年にマイナビに移って医療の取材をはじめ、グループ会社が運営するオンライン臨床支援サービス『ヒポクラ×マイナビ』編集部で医療ニュース作成に携わった。現在は『マイナビRESIDENT』や『マイナビDOCTOR』などの各種コンテンツを制作している。

許田葉月:記者・編集者。2021年からウェブメディアに勤務し、文学や音楽などのトレンド、社会課題などを取材した。23年にマイナビに転職して医療の取材を開始。『マイナビRESIDENT』や『マイナビDOCTOR』で各種コンテンツの制作を担当している。

阿部あすか:翻訳家、ライター。東京外国語大学(英語専攻)を卒業後、大手法律事務所の米国人弁護士などの秘書、英会話学校の講師、専門紙の英語版編集者として勤務した。2019年から編集部の一員として医療ニュースの記事を執筆している。