外科医が減っているといわれて久しくなりました。これを読んでいる初期研修医の中には、「外科に進もうか。それとも別の診療科にしようか」と悩んでいる人がいるかもしれません。また、医学生の中には、実際に外科医から話を聞く機会がないまま、「外科は忙そう」「大変そう」「自分には向いていないかもしれない」と感じている方もいるでしょう。確かに外科の仕事は決して楽ではありません。長時間の手術や緊急対応が必要になることもあります。しかし、努力した分だけ成長を実感できる素晴らしい仕事です。今回は、外科医という仕事の魅力について、私自身の経験を通してお話ししたいと思います。
手術の腕は、才能ではなく積み重ね
皆さんは、熟練した外科医の手術を見たことがあるでしょうか。一つ一つの動きに無駄がありません。初めて見る人は、「こんなことは、自分にはとても無理だ」と感じるかもしれません。しかし、どんな名医も最初から手術が上手だったわけではないのです。
手術はいくつもの工程を積み重ねて完成させるものです。まずは上手な医師の手術を見て、その動きをまねることから始まります。なぜこの操作をするのか、なぜこの順番なのか。そう考えながら経験を重ねることで、少しずつ自分の技術になっていきます。
外科は、特別な才能を持った人だけがいる世界ではありません。一歩一歩努力を積み重ねることで、多くの人が活躍できる分野だと思います。
成長のヒントは動画とイメージの中にある
最近は鏡視下手術が主流となり、多くの手術が動画として記録されています。私は手術後に自分の動画を見返すことを大切にしています。うまくいかなかったときも、うまくいったときも、「何が原因でそうなったのか」は動画を見れば分かるからです。
自分では気づかなかった癖や想定外の改善点が見つかることもありますし、うまくできた操作を再確認することで、自信につながることもあります。小さな反省と発見の積み重ねが、次の手術につながり、確実に自分を成長させてくれるのです。
富士山を望む旅先のホテルで手術の振り返りをしました。いつもと違う雰囲気だと集中できます。
また、私にはもう一つ大切にしている習慣があります。手術前のイメージトレーニングです。
朝起きた時から、その日に予定されている手術を最初から最後まで頭の中で何度もイメージします。患者さんの画像を見ながら、どこを剥離し、どこで血管が現れ、どの順番で進めるかを確認します。特に消化器がんの手術では、血管やリンパ節の位置関係を正確に把握することが重要だからです。
実際の手術で、頭の中で描いていた通りに血管が現れ、想定した通りに手術が進み、イメージしていた通りの仕上がりにたどり着けたときの、「良い手術ができた」という実感は格別です。
「最新バージョン」の自分を実感し続ける
外科医の魅力は、成長を実感できることです。同じ病気でも、患者さんは一人として同じではありません。年齢、体格、病気の進行度、併存疾患など、それぞれ異なります。そのたびに考え、工夫し、経験を積み重ねることができます。
パソコンやスマートフォンの基本ソフト(OS)にはアップデートがあり、新しいバージョンになるたびに性能が向上します。外科医も同じです。一つ一つの経験が知識や技術のアップデートにつながり、昨日より今日、今日より明日の自分が少しずつ成長していきます。だから私は、今の自分が外科医として人生で最も優れた「最新バージョン」だと感じています。
努力が成長につながり、その成長が患者さんのためになる。それこそが外科医という仕事の大きな魅力です。「生まれ変わったら何になりたいですか?」。そう聞かれたら、私は迷わずこう答えます。「もう一度、外科医になりたい」と。
蜂谷裕之 (はちや・ひろゆき)
消化器外科医、博士(医学)。1983年、群馬県生まれ。2008年、川崎医科大学卒業。栃木県の獨協医科大学病院(下部消化管外科講師)と群馬県の蜂谷病院で勤務している。専門は大腸肛門病、鼠径(そけい)ヘルニア、下肢静脈瘤(りゅう)。1959年開院の蜂谷病院は、人口の約21%が外国人である大泉町唯一の病院として医療を提供している。地元の二つのラジオ番組でパーソナリティーを務め、医学と健康の話題を届けている。2025年の目標は国際学会で活躍すること。最近、親子でバイオリン教室に通い始め、新たな趣味になった。
蜂谷医師のX、蜂谷病院のInstagram
イラスト
平野 カズ希 (ひらの・かずき)
建築を知る視点となんだかちょっと外国風!?の感性で物語を紡ぐイラストレーター。
西宮市在住。関西を拠点に建築画から絵本まで幅広く活動中。猫好き、種好き、着物好き。
2024年より「KiUito(キウイト)」という名でオリジナルイラスト「Nekodarake」を刺繍作品に展開。不定期でイベントに参加中。
Website、Instagram