いつか海外で手術をしてみたい――。そんな夢を持っています。しかし、ライセンスの問題など高い壁があるので、そう簡単に実現できないことは分かっています。そこで、自分の置かれている環境を見直し、少し考え方を変えてみたら、ちょっと夢がかなった気持ちになっています(笑)。
手術を行う患者の15%が外国人という環境
私が勤める蜂谷病院は、人口の約22%を外国人が占める群馬県大泉町にあります。当然、日常の診療でも多くの外国人の患者さんと接しています。びっくりするかもしれませんが、私が手術する患者さんの約15%は外国の方なのです。
そこで、ふと思いました。この環境は「International Hospital」で働いているのと同じなのではないかと。
海外に出なくても、異なる文化や背景を持つ患者さんと向き合いながら手術を行う日々は、「海外で手術をする」という夢にかなり近づいているのかもしれません。そう考えると、一例一例の手術がどこか特別なものに感じられるのです。
だから今、手術をする患者さんと、こんなふうに接しています。
手術当日、枕元に置く“お守り”
手術当日に、入院手続きを終えて病室にやってくる患者さんはとても緊張しています。そこで、少しでも気持ちを和らげたいという思いから、枕元に小さなメッセージカードを置くことにしています。その患者さんの母国の言葉で、「手術、一緒に頑張りましょうね」と書くのです。
実物のメッセージカード。ポルトガル語で「Vamos enfrentar a cirurgia juntos!(一緒に手術を乗り越えましょう!)」
手術後の再診の時に、そのカードを大事そうに持ってきてくれた患者さんもいます。手術がうまくいくようにというお守りになっているのかもしれないと思うと、うれしくなります。
患者さんの顔を思い浮かべながら、今日もそっと、枕元にメッセージを置いています。
手術室でリラックスしてもらうための“おまじない”
もちろん、手術室に入る時も患者さんは緊張しています。その緊張を和らげるための、ちょっとした“おまじない”があります。
患者さんの国の音楽を流すのです。手術室に入った瞬間、ふっと流れてくる母国の曲を聞いて、こわばっていた表情が和らぎ、思わず口ずさむ方もいます。
もちろん日本人の患者さんでも、診察の中で好きなアーティストをさりげなく聞いておき、手術中に流すことがあります。手術中は鎮静薬でぐっすり眠っているはずなのですが、「ライブに行っている夢を見ていました」と教えてくれることもあります。
リラックスして手術を受けてもらいたいと思いながら、今日も曲を選んでいます。
患者さんを囲む“応援団”
ブラジルやペルーなどの患者さんは、手術当日にたくさんの家族が一緒に来院することがあります。待合室が“応援団”の皆さんでにぎやかになるほどです。皆で声をかけ合って手術の無事を願う様子は、とても印象的です。
南米では家族のつながりが強く、「大事な時はみんなで支える」という考え方が根付いているようです。手術は一大イベントですから、「来られる人はみんな来る」というスタイルになるのでしょう。
にぎやかさの中にも温かさがあり、まるで患者さんを中心に家族みんなで手術に向き合っているような、そんな光景に出会うことがあります。
“応援団”の気持ちを背負って、今日も手術に臨みます。
こんなふうにして私は、ちょっと自分の夢がかなった気分で、多国籍の患者さんと日々向き合っています。
さあ、手術を始めよう。bisturi!(※)
※読み方は「ビストゥリ!」。ポルトガル語で「メス!」という意味です
蜂谷裕之 (はちや・ひろゆき)
消化器外科医、博士(医学)。1983年、群馬県生まれ。2008年、川崎医科大学卒業。栃木県の獨協医科大学病院(下部消化管外科講師)と群馬県の蜂谷病院で勤務している。専門は大腸肛門病、鼠径(そけい)ヘルニア、下肢静脈瘤(りゅう)。1959年開院の蜂谷病院は、人口の約21%が外国人である大泉町唯一の病院として医療を提供している。地元の二つのラジオ番組でパーソナリティーを務め、医学と健康の話題を届けている。2025年の目標は国際学会で活躍すること。最近、親子でバイオリン教室に通い始め、新たな趣味になった。
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イラスト
平野 カズ希 (ひらの・かずき)
建築を知る視点となんだかちょっと外国風!?の感性で物語を紡ぐイラストレーター。
西宮市在住。関西を拠点に建築画から絵本まで幅広く活動中。猫好き、種好き、着物好き。
2024年より「KiUito(キウイト)」という名でオリジナルイラスト「Nekodarake」を刺繍作品に展開。不定期でイベントに参加中。
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