今回は、外国人を診察することで知った文化の違いの中で、特に印象に残っていることをいくつかお話しします。
冷え対策で驚かれた、日本でおなじみの「あれ」
1月上旬、足の冷えを主訴に、ブラジル出身の女性が来院しました。
ブラジルでは冬でも気温が10度を下回ることはあまりなく、「日本の冬はとにかく寒い」そうです。足先の冷えは日本に来て初めて経験したといいます。検査で特に異常はなかったので、日本流の「足を冷やさない工夫」を三つ伝えました。
まず紹介したのは、使い捨てカイロです。日本ではおなじみですが、彼女には珍しいものだったらしく、靴下に貼ったり靴の中に入れたりするタイプがあることを教えると、「ぜひ試してみたい」と目を輝かせていました。
二つ目はお風呂です。日本では温浴は一般的です。しかしブラジルではシャワーが中心で、湯船に漬かる習慣はほとんどないそうです。湯船に漬かることで体は芯から温まり、血の巡りが良くなります。冷えだけでなく、日々の疲れや痛みも和らぎ、何より気持ちがふっと緩む時間になります。
「この時期は、ゆっくり湯船に漬かって体の中から温めてくださいね」と伝えると、「今夜から試してみます」と笑顔になってくれました。
そして、三つめが漢方薬です。同席していた通訳者さんに伝えてもらおうとしたのですが、なかなかぴったりな表現がないようで、うまく伝わりません。ポルトガル語の辞書で「漢方薬」を引いてみると“ O medicamento chinês ”という表現を見つけました。
しかし、冷えの改善にO medicamento chinês(漢方薬)が一つの手であることを説明すると、ちょっと驚いた顔をします。聞くと、ブラジルで漢方薬は「高品質・高価で、専門店でしか購入できない特別な薬」なのだそうです。日本では保険適用で安価だということを教え、処方しました。
再診で、「足がぽかぽかになった」と言ってくれるといいなと思っています。
実は世界では珍しい日本の健診制度
次は健康診断についてのお話です。日本では、事業者は労働者に対して医師による健康診断を実施することが労働安全衛生法で定められています。そして、その費用も事業者が負担することが定められています。ですので、働いている皆さんにとって毎年の無料の健康診断は当たり前のことですよね。
でも、日本に来て、職場から健診を受けるように言われた外国人の方は、「健康なのに医療機関に行く必要があるの?」「検査は必要になった時に受けるんじゃないの?」と戸惑うそうです。
なんでこんな反応になるかというと、健診が義務付けられている国は意外に少なく、受ける場合には自分でお金を払うのが一般的だからです。
しかも、健診の内容は、身体測定や内科診察、視力・聴力・血圧測定、尿検査、レントゲン、採血、心電図など多岐にわたります。当然、体の一部を露出する必要のある検査もありますが、それを避ける文化で育った人もいます。そういった検査が、日本では効率を考えて流れ作業のように進められるため、「十分な説明がなく、いくつも検査をされた」と思う人もいるようです。
健診は病気を早期に発見するだけでなく、健康に働き続けるための大切なサポートでもあります。丁寧に説明することで、「日本の健診ってありがたいんだ」と実感してもらえるとうれしいですね。
ピアスが当たり前の文化
さて、最後はピアスについてのお話です。
ブラジル人のお母さんと生後2カ月の女の子が受診に訪れました。ブラジルでは、女の子が生まれるとすぐにピアスを着ける習慣があり、ピアス用の穴を開けに来たのです。
赤ちゃんが眠っているうちに、まずはバスタオルで全身をくるりと巻いて動けないようにします(ミノムシのようで、たまらなくかわいい!)。そして、お母さんと一緒に穴を開ける位置を確認し、ファーストピアスの色も選んでもらい、いざ耳の消毒をし始めた時……赤ちゃんは異変に気付いて目を覚ましてしまいました。穴を開けると、顔を真っ赤にして大泣きです。でも、小さな体でよく頑張りました。
生後間もない赤ちゃんにピアスの穴を開ける文化は、ブラジル特有のものではありません。スペインでは「女の子の証」として開けますし、インド、ベトナム、フィリピンなどでは宗教的な理由や魔除け・厄除けといったさまざまな意味合いがあります。
普段はそれほど意識せずに診療していますが、こうやって挙げてみると、大泉町の医師ならではの話がたくさありますね。これからも診察を通して、異文化交流を楽しんでいきたいと思います。
それでは次回をお楽しみに! Muchas gracias!(※)
※読み方は「ムーチャス・グラシアス!」。スペイン語で「どうもありがとう!」の意味です
蜂谷裕之 (はちや・ひろゆき)
消化器外科医、博士(医学)。1983年、群馬県生まれ。2008年、川崎医科大学卒業。栃木県の獨協医科大学病院(下部消化管外科講師)と群馬県の蜂谷病院で勤務している。専門は大腸肛門病、鼠径(そけい)ヘルニア、下肢静脈瘤(りゅう)。1959年開院の蜂谷病院は、人口の約21%が外国人である大泉町唯一の病院として医療を提供している。地元の二つのラジオ番組でパーソナリティーを務め、医学と健康の話題を届けている。2025年の目標は国際学会で活躍すること。最近、親子でバイオリン教室に通い始め、新たな趣味になった。
蜂谷医師のX、蜂谷病院のInstagram
イラスト
平野 カズ希 (ひらの・かずき)
建築を知る視点となんだかちょっと外国風!?の感性で物語を紡ぐイラストレーター。
西宮市在住。関西を拠点に建築画から絵本まで幅広く活動中。猫好き、種好き、着物好き。
2024年より「KiUito(キウイト)」という名でオリジナルイラスト「Nekodarake」を刺繍作品に展開。不定期でイベントに参加中。
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