初診の「最初の質問」に込めた思い
「ご出身はどちらですか?」。初診で訪れた外国人の患者さんに、診察に入る前に私が必ずしている質問です。
初めて受診する医療機関であれば、誰でも少なからず緊張します。ましてや、それが母国語の通じない国でのことであればなおさらです。だから、この質問をきっかけに少しでも心をほぐしてほしい、そんな思いを込めているのです。
先日いらした初診の患者さんはトルコ出身の方でした。10年前に旅行で日本を訪れ、日本人の優しさに感動し、気に入り過ぎてそのまま住むことになったのだとか。日本語はとても流ちょうでしたが、やはり緊張の面持ちでした。でも、私が「いつか(トルコ最大の都市)イスタンブールに行ってみたいんです」と話した時、表情がふわりと和らぎ、笑顔になってくれました。
その後も、私が大阪・関西万博でトルコ館を訪れた話や、トルコアイスの店「どんどるまん」のテーマソングが好きだという話題で盛り上がり、診察はスムーズに進みました。
それで、その患者さんが検査をしている間に、スマートフォンでトルコ語の「ありがとう」を検索しました。帰り際に「Teşekkürler(テシェッキュルレル)」と伝えると、少しぎこちない発音だったにも関わらず、最高の笑顔を返してくれました。
「医師の言葉は薬よりも効果がある」ということを実感した瞬間でした。
診療に欠かせない通訳者という存在
外国の方が日本の医療機関を受診した時に、まずぶつかるのが言葉の壁です。
日本で暮らしているうちに、片言の日本語で日常会話ができるようになる方はたくさんいます。日々の生活の中なら、相手の言っていることの全部が理解できなくても大きな問題にはならないでしょう。
しかし、診療の場ではそれでは困ります。当院では手術も行っているため、検査結果の説明や手術内容、合併症の可能性、術後経過、入院に関するお話など、詳細な説明を全てちゃんと理解してもらう必要があります。こうした重要な情報を正確に伝えるため、日本語でのコミュニケーションが難しい患者さんは、通訳者の同伴がほぼ必須です。患者さんを最善の医療につなげる通訳という仕事の重要性を日々感じています。
ただ、通訳者の中にもいろいろなタイプの人がいるようです。当院には、ポルトガル語とスペイン語が話せるペルー生まれ・日本育ちのスタッフがおり、患者さんに同伴した通訳者の翻訳が正しいかどうかを確認してくれます。そのスタッフによると、医師の言葉をそのまま正確に伝える通訳者もいれば、微妙にニュアンスが変わる通訳者もいるみたいです。
通訳時に抜けてしまった内容がある場合には、そのスタッフが追加で患者さんに伝えてくれています。もう、感謝しかありません。
同じ文章でも倍の長さに!? 通訳者の話で気づいたこと
通訳者から教わったことで、私自身も変わったことがあります。
それは、スペイン出身の患者さんに同伴してきた通訳者さんとの会話がきっかけでした。診察中、どうも私の話より通訳者さんがスペイン語で話している時間の方が随分長い気がするのです。「私の言葉をより丁寧に説明してくれているのだろうか。ありがたいな」と思って、スペイン語が分かるスタッフにそう伝えたところ、返ってきた答えは意外なものでした。
実は、日本語では短くても、スペイン語やポルトガル語になると単語が長くなることが多々あるのだそうです。
例えば「頭痛」は日本語ならわずか3音ですが、スペイン語では「dolor de cabeza(ドロル・デ・カベサ)」。「心電図」に至っては、「electrocardiograma(エレクトロカルディオグラマ)」。「薬」は 「medicina(メディシーナ)」、そして日本では「CT」と短く呼ぶ検査も、スペイン語では「Tomografía Computarizadaトモグラフィア・コンプタリサァダ)」と、なんとも長い単語に変身してしまいます。
単語が長いということは、当然、文章全体ではさらに長くなるということです。通訳者さんによると、同時通訳ではその長さの差がかなり負担になるそうで、「先生がところどころで会話を区切ってくださると、とても助かります」と教えてもらいました。
この話を聞いてから、私自身も通訳者がスムーズに訳せるよう、できるだけ短い文章で区切ることはもちろん、なるべく簡潔で伝わりやすい医学用語を選ぶように心がけています。最近は、だいぶ通訳者にとって訳しやすい医師に変わってきたと思います……たぶん(笑)。
それでは次回をお楽しみに! Nos vemos!(※)
※読み方は「ノス・べモス!」。スペイン語で「またね!」の意味です