2026.06.09
「尾久守侑のシン・言いたい放題!」などという題を見ると子どもの頃(平成初期)の日曜の朝、テレビで見ていた偉そうなおじさんのコメンテーターが司会を遮り極論を述べているような、そんな懐かしい雰囲気すら感じるのだが、今の時代は、空気を読んで仲良し感を出しつつも、言葉にされない微妙なニュアンスから「ああこの人は私に否定的な意見を本当は持っているのだな」などと認識し合うようなテレパシー的コミュニケーションが主である。
「そんなものクソ食らえだ。いくぞっ、尾久守侑のシン・言いたい放題!」と国会議事堂の方角に向かって場にそぐわない大声で叫び、この原稿を書き始めたいところだったが、私はむしろテレパシー的コミュニケーションの権化のようなところがあって、言いたい放題言って空気を悪くしたりすることをまったく望んでいない。しかし、それではこの連載が成立し得ないので、最初から詰んでいる。
とはいえ、医療に関することを書くはずの、少ない紙幅をこのような無内容な往還に費やしている時点で既に言いたい放題的な雰囲気は出ているのではないかと思ったので自信を持って始めたい。
突然だが、私は「初期研修15年制」という世界線で生きている。
初期研修といえば2年である。2年間、いろいろな診療科を回りながら診療に従事し勉強をする。それが終わると後期(専門)研修が3~5年間あり、専門医を取得し、一人前になるという仕組みである。初期研修の2年間のうちは謙虚でいられるのが普通だろう。なぜならば知識も経験も少なく、教わる立場でしかないからである。
しかし、後期研修医(専攻医)になるとそうではない。あんなに謙虚で優しかった先輩が、なんでも素直に話を聞いてくれ丁寧だった先輩が、いきなり尊大な態度になり、他科のずっと上の先生に偉そうに講釈を垂れたり、我々初期研修医に「CHADS₂スコアくらいすぐ言えないなんて担当医失格でしょ」「今のプレゼンじゃ何言ってるか分かんないから」「じゃあ腹水穿刺(ふくすいせんし)の手順全部頭から言ってみて。1個でも間違えたらやらせないから」「なんでこんな時間に電話かけてきてんだよ!!!!!!」と叫ぶなど、急な性格変化が起きることがある。
そう、これが後期研修医になった瞬間に天下を取ったかのように偉そうになる「レジ様現象」と呼ばれるもので、現在はさすがにド・パワハラに当たるため見かけることはないが、少なくとも私が初期研修医だった12年前には、しばしば病棟で散見された光景だった。
私は初期研修医ながらに、レジ様という化け物になった先輩を見て、こうはなるまいと強く思った。と同時に、いかにも自分はレジ様になりそうだとも思った。
それで、かどうかはもはや忘れてしまったが、私が当時研修の指導医だった國松淳和先生と相談して始めた工夫は「初期研修15年制」の導入である。つまり、15年たつまでは自分を初期研修医だと信じ込むことで、偉そうな態度を取ることが避けられるのではないか、いつまでも謙虚に勉強できるのではないかと思ったのである。
実際にやってみて、今自分は初期研修13年目なのだが、たまに気を引き締めるのに役立っている。年次的にやむを得ず指導医をやっているのだが、これも「指導医の初期研修」と思い込むことで、おかしなことにならずに済んでいるような気がする。
しかし心配なのは医師16年目になった瞬間から今度は「後期研修15年制」が始まるので、今度こそレジ様になってしまうのではないかということである。そうならないように初期研修を30年制に延長するかどうか、今迷いに迷っている。
尾久守侑(おぎゅう・かみゆ)
1989年、東京生まれ。精神科医/詩人。博士(医学)。 慶應義塾大学医学部 精神・神経科学教室 助教。詩集『Uncovered Therapy』(思潮社)で第74回H氏賞。詩集『悪意Q47』(思潮社)ほかで第9回エルスール財団新人賞。著書に『倫理的なサイコパス』(晶文社)、『病気であって病気じゃない』『偽者論』(いずれも金原出版)、『器質か心因か』(中外医学社)ほか。
X:@camillecamus
月曜のマミンカ
神奈川県川崎市在住のイラストレーター、絵本作家、グラフィックデザイナー。 2022年、絵本「カモンダメダメモンスター」を出版後、こどもと楽しめるワークショップを不定期で開催。 4匹の保護猫とヒーロー好きな息子、自由奔放な娘の子育てに奮闘中。
HP: https://mondaymom.official.ec/
Instagram: https://www.instagram.com/mondaymaminka/