2026.05.01
言いたいことを(比較的)そのまま言っているこの連載も3回目になりました。読んでいただいている方々に感謝です。今回も自由気ままに書いていきたいと思います。
渡米して2年が経過しようとしています。さらに2年延長することが決まり、そろそろビザの更新をしなければいけません。米国に来てからは、人生で初めて研究に没頭できる環境に身を置くことができ、たくさん研究することができて毎日が充実しています。
私の医師歴は現在20年ほどです。長らく新生児医療にどっぷり浸かっていましたが、2年前、渡米して子どもの医療政策学の研究の道に進むという大きなキャリアチェンジをしました。「チェンジ」というと大げさで、別に小児医療や新生児医療と縁を切ったわけではありません。むしろ、それまでとは違う形で小児・新生児医療に貢献できる力をつけたいという思いからの選択でした。
40年といわれる医師人生の半分が経過したわけですが、そんな中でも自分がキャリアの分岐点のように感じたことが二つあります。
まずは、「タレント医師」になったことです。医師6年目あたりからSNSで医療に関する啓発をしたり、書籍を書いたり、漫画やドラマのお手伝いをしたり、必要なときはメディアに出演したりしてきました。どちらかといえば「やりたい!」というよりも、世間から求められる役割と思えたから、「してきた」という感覚が強いです。
そんな中、数年前、公衆衛生学の博士学位を取得したくらいの時期に、あるテレビ局から「コメンテーターのレギュラー出演はどうか?」と誘われたことがありました。コメント力はこれまで鍛えてきたつもりでしたが、自分としては論文や研究を咀嚼(そしゃく)する力がまだまだ甘く、そして研究力も足りないということを、メディアに出演する中で痛感していたところでした。
そのため、「“専門家”と胸を張って言えないほどの洞察力や研究力でメディアに出続けることが世間のためになるのだろうか」と疑問に思い、丁重にお断りしました。もちろんテレビのコメンテーター全員にそんな力が必要とは思いませんが、大した業績のない自分がメディア露出することに大きな疑問を抱いていたこともあり、当時は「もっと研究したい、業績を作りたい」との思いが強かったのです。オファーを断り、研究に没頭できる環境に身を置いたことに悔いはありません。
もう一つは美容医療に触れたことです。近年、日本の医療界では「直美」が問題化しています。医療関係者以外の人に一度「なぜナオミさんが問題視されているのですか?」と言われたことがありましたが、直美はナオミではなく「ちょくび」と読みます。初期研修後に保険診療を行わずに「直接美容医療へ進むこと」です。
よく、直美をした若い医師をSNSでさらしあげて炎上させている同業者を見かけますが、個人的に、直美問題の根源は保険診療の劣悪な環境にあると感じています。部長やセンター長が専攻医より低い給与で働かされていたり、50歳前後になって寝られない当直を月に何回も課されていたりと、若い医師が将来に希望を持てない環境が現実にあります。
実は渡米前の1年間だけ、どうしても米国での生活費を稼ぐ必要があったので、大学院の最終学年に美容医療クリニックでバイトをしていました。バイトの休憩時間に、派手なつけ爪をした医療事務の女性がスマホでゲームをしている横で、必死に論文を書いていたのはいい思い出です(笑)。
その際に、保険診療とは全く異なる営利目的の商売には、華やかさだけでなく、さまざまな問題点があることを身をもって感じることができました(詳細はここでは言えませんが)。長い医師人生の中でとても良い経験になりましたが、子どもの病気を治すために医師になった自分としては、この業界は合わないなと痛感したことを覚えています。
けれど、美容医療のスタッフさんたちは皆いい人で仲良くなり、渡米直前には週1のバイト医のために盛大な送別会をしてくれました。良い繋がりを持てたことに感謝しています。
こういった経験を振り返ると、人生の分岐路に立ったときに「これをしたくないから(別の方を)」選択するというよりも「これをしたいから」選択するという方がうまくいっている気がします。
自分の中では「日本の子どもたちの未来のために尽力したい」という強い思いがあるので、「タレント医師」や「美容医療」の分岐点でもブレませんでした。直美を選択した若い医師たちも、美容医療の中で医師としてやりたいことが見つかるのならそれで良いと思います。でも、「保険診療をしたくないから」直美を選択するのは、せっかくの医師人生なのでもったいない気がします。
長いようで短い人生の中で、何か「自分が本当にしたいこと」を見つけることができるのならば、それが本当の幸せではないでしょうか。
今西洋介(いまにし・ようすけ)
小児科医、新生児科医。日本小児科学会専門医、日本周産期新生児専門医、医学博士(公衆衛生学)、小児医療ジャーナリスト。Xアカウントで公衆衛生学の視点から周産期医療や小児医療に関する社会問題について発信中。漫画『コウノドリ(講談社)』、同名ドラマ(TBS)に登場する「今橋先生」のモデルとして取材協力を務める。「ふらいと先生のニュースレター」でエビデンスに基づく育児情報を配信している。
月曜のマミンカ
神奈川県川崎市在住のイラストレーター、絵本作家、グラフィックデザイナー。 2022年、絵本「カモンダメダメモンスター」を出版後、こどもと楽しめるワークショップを不定期で開催。 4匹の保護猫とヒーロー好きな息子、自由奔放な娘の子育てに奮闘中。
HP: https://mondaymom.official.ec/
Instagram: https://www.instagram.com/mondaymaminka/