2022.09.09
専業主夫の夫と暮らす筆者の女性医師は「仕事と家事は適材適所」と語ります。今でこそ、その生活スタイルがなじんでいますが、仕事を辞めたいという夫の申し出を、初めからすんなりと受け入れられたわけではありませんでした。三部作の最終回です。
「同性婚」や「選択的夫婦別姓」の実現を望む声が年々大きくなるなど、性別にまつわる価値観は時代と共に変化しています。「夫が稼ぎ、妻が家事をする」というかつて一般的だった考え方は古くなり、現在は共働き世帯が大多数を占めているというデータもあります。
そんな中、このコラムを執筆している湊しおり医師は、自分が生活費を稼ぎ、専業主夫の夫が家事を担当する生活スタイルを取っています。そんな二人の暮らし方は、周囲の人たちから興味を持たれることが多いといいます。
多様な価値観を知ってもらうため、「専業主夫と暮らす」をテーマに、湊医師が今に至る経緯や「夫婦観」について、上中下の3回にわたって紹介します。今回はその第三弾です。(マイナビRESIDENT編集部)
文:湊しおり<藤田医科大学 総合診療プログラム(藤田総診)>
結婚は私に、今までの人生の中で一番の自由と気楽さをもたらしました。私は本当に能力の凸凹が激しくて、郵便物を開けて大事な書類を保管するとか、書類の正しい欄に誤字脱字なく記入するとか、どこの証券会社に口座を作ったか覚えておく(本当に分からなくなり、10社くらいに「私の口座ありますか?」と問い合わせた過去あり)とかいったことがめちゃくちゃ苦手で、ものすごい集中力を要します。
そういった生活に必要な事務作業は私を消耗させるのですが、夫は苦手でも嫌いでもないようなので全面的に任せています。それから片付けも不得意で、同棲前はいろいろなものに埋もれた「汚部屋」で過ごしていました。今も私の部屋は片づけてもすぐに空き巣が入った後のようになりますが、他の部屋はいつも奇麗に保たれています。

夫にいろんな苦手業務を任せるようになって、実は知らないうちに私自身が「日本古来の男女についての価値観」にズブズブに染まっていたことに気づきました。
「女性は身ぎれいで清潔に、お部屋も奇麗で、料理上手じゃないとお嫁に行けないのよ」的な価値観って、令和の現代でもまだまだ根強いですよね。学生時代とか暇な頃の恋愛では、部屋を奇麗に取り繕ったり、料理はいつもササッと作ってますという顔をしたりしていました。それが女性としてあるべき姿で、女子力ってこういうことだと思っていました。
仕事を始めて、日々に追われるようになったら、アッという間にそんなメッキははがれてしまったけど。夫と出会い、メッキがはがれた私でも受け入れてくれる人がいて、メッキがなくても恋愛ができるということはものすごい発見と感動でした。
男性はしっかり仕事をして大黒柱として家族を養って……という価値観も同様です。これも、実は私の中にもあったんですね。私がへき地に行く前に今後の夫の仕事について話し合い、夫から「もう働きたくないんだよね」と聞いた時は、最初はびっくりしたし、ちょっとだけ「ダメな人」だとも思ってしまいましたもの。それまでの生活でも、何かと私の方が金銭的な負担が大きく、そのことが気になったことも実はありました。
当時は夫も午後10時過ぎに帰宅することもざらにあったし、朝は私より早く出ていく時もあって、そんな中でほとんどの家事をしてくれていたし、私はそれを周囲に自慢げに吹聴していたのに、です。
さらに、ツイッター上で、「夫が家族の分まで稼いでいるんだから、妻も家事をしっかりやってほしい」「家事しかやらなくていいなら余裕じゃないの」などの意見を持っている人を見ると、「はあ? 心の狭いやつだな」とか「家事だって貴重な労働だし」とか思っている私がいたんです。ダブルスタンダードにも程がありますよね。

客観的になって初めて、男女のおかしな役割分担の固定観念に毒されていることや自分の中の矛盾に気づかされました。そういう気づきの積み重ねで、私が好き勝手に仕事をする一方で、夫が家のことをしてくれるのなら悪くないかなと、頭で分かるだけじゃなく心から実感できるようになりました。私が苦手な事務作業を夫が苦痛なくできるように、夫が苦手な働くことを私は嫌いじゃないので、適材適所で分担すればいいと思っています。
なんだか脱線しましたが、結局、結婚がどうこうというより、「夫との暮らしは私にとても合っていました」というのが結論です。
子どもに関しては、今はもう考えていません。元々欲しかったのかどうかも定かではないです。ようやく結婚したと思った途端に、周囲から「子どもはいつ?」「そんなに忙しくしていたら子どもはできないよ」「子どもっていいものだよ」「犬じゃ子どもの代わりにはならないよ」「子どもを持って一人前」と言われ、めちゃくちゃ混乱しました。私って幸せじゃないのかな?と悩みもしました。
結婚したことで、やっと「まとものスタンプ」を押してもらえると思ったのに、子どもがいないとまっとうな大人じゃないのか……と落ち込みもしました。ごく短期間、妊活をした時期もあるけど、できなくてがっかりということもなかったし、次のステップに進もうという気も起きませんでした。
同じような思いをしている人はきっとたくさんいますよね。「あなたのためを思って」と言えば何でも許されると考えている無責任な外野は世の中にたくさんいます。でも外野が私のことを幸せにしてくれるわけもなく、私の一生を見届けてくれるわけでもないんですよね。私のことを幸せにできるのも、私の機嫌を取れるのも結局私だけなので、結婚だって出産だって自分のしたいようにすればいいんです。
結婚だ、パートナーシップだとなると、自分の親どころか相手の親のことまで考えてしまって混乱しがちですけど、主役は自分です。外野のざわめきで心が乱れてしまいそうな方がいれば伝えたいです。「外野なんていつだってざわざわしているものだから、『聞かない耳』を持って!」

あと、一応言っておきますが、私が犬や猫を次々と家族に向かい入れているのは、子どもがいない欲求不満を埋めようとしているわけではないし、犬や猫を子どもだと思っているわけでもありません。ただ、犬や猫が好きなだけ。犬は犬で、猫は猫で、それ以上でもそれ以下でもないんです。犬や猫のかわいさに私のハートが猛烈に鷲づかみにされているだけです。
さて、長々と私自身のことを書きましたが、もしも誰かの参考になればうれしいです。そして、婚活とかここのところを詳細に知りたいみたいな希望があって、ご要望いただけましたら、またどこかで。
ではでは、明日からの毎日がちょっとでもハッピーなものになりますように。

藤田医科大学 総合診療プログラム(藤田総診)医師。
1984年生まれ。広島大学出身。整形外科専門医、抗加齢学会専門医。
気が多く、衝動性が強いため、壁にぶつかることも多々。いつも思いのままに、勢いで何とかしている。素敵な人と出会う運だけは日本一良いとの自負がある。自分を持て余しつつ、専業主夫の夫とペット(犬4匹、猫2匹)に支えられながら、「何とか生きています」。

イラストレーター。
茨城県つくば市出身。筑波大学比較文化学類・桑沢デザイン研究所デザイン専攻科(プロダクトデザイン科)卒業。
2009年よりフリーランスのイラストレーターとして活動し、書籍・WEB・広告などを中心にイラストを提供している。著書に『赤子しぐさ』など。
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