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2023.07.25

子どもはいらない、欲しくないと思うことはいけないこと?【Case7】

「子どもはどうする予定?」「子育てをして一人前だよ」というような言葉を周囲から掛けられ悩まされたことがあると、このコラムの執筆者の湊しおり医師は言います。ところで、子どもが欲しくないと思うのは、いけないことなのでしょうか。

最近、この連載の読者だという何人かの方とお目にかかる機会がありました。中には隅々まで熟読してくださる方もいて、うれし恥ずかしありがたしという感じです。 さて、Case6「大切な人との結婚を家族から反対されているあなたへ」で「結婚」について書いたので、その流れで今回のテーマは「子ども」についてです。私は、子どもを持たない人生を選んでいます。そんな私が何を考えてきたのか、世の中の出産・子育て観についてどう考えているのかを、言葉にしてみようと思いました。あらかじめお断りしておくと、「子どもが欲しい」「出産を経験したい」と思っている人や、子どもがいる人たちを否定するわけでは決してありません。また、何かが「良い」「悪い」ということを伝えたいのではないことをご理解いただければと思います。「どちらかしか選べない人生だけど、どっちを選んでも悩みは尽きないよね」という気持ちで読んでもらえるとうれしいです。

文:湊しおり<藤田医科大学 総合診療プログラム(藤田総診)>

10代の頃から「恋愛」にはめちゃくちゃ興味がありました。大学生になって、ようやく大手を振って恋愛に集中できると思って意気込んでいたところ(相手はほとんどいませんでしたが)、同じようにほれた腫れたで騒いでいる女性たちが、いつか母になることを当たり前のように視野に入れていると気づき、驚きました。皆と違い私は、母になる(子どもを持つ)ということにはあまり興味が持てずにいたのです

「子どもを産んだら、好きに仕事ができないかもよ」。学生の頃に一度、友人にそう言ったことがあります。その人は才能豊かで、新しいことを切り開く力に満ちていて、働き始めたらもっといろいろなことがやりたくなるのではないかと思っていたからです。彼女は「子どもを産んで育てるって、仕事より大切なことだと思うし、理由は考えたこともないけど子どもは欲しいじゃない?」と答えました。

いつからそう思ったの? 何かきっかけはあったの? 誰を見てそう思ったの?」と尋ねてみたい気持ちはあったけど、おそらくそう問いたい私の感覚は理解されないだろうとうすうす感じていたので、それ以上は何も言いませんでした。

その友人に限らず、20代、30代とさまざまなシチュエーションでいろいろな職種の女性たちと話をすると、「考えるまでもなく子どもが欲しい」という人がたくさんいて、それが「スタンダード」であるということをしみじみと感じてきました。一方で、子どもが「欲しくない」または「欲しい」と言い切れない女性は「今はまだ」「分からない」「今は仕事が優先」という言葉を使ってその場をしのいでいるのだと分かり、私もそれに倣ってきました。

子どもが欲しくなかった理由 女性の「成功モデル」について

私は子どもが嫌いなわけではありません。ただ、自分が子どもを持つイメージが湧かなかったし、その時々の興味のままにいろいろな物事に飛びつくことができなくなるのが嫌だなと感じていたのです。今となっては、子どもを持ちながらうまく自己実現している人がたくさんいることを知っていますが、かつては、妊娠してから子どもがある程度大きくなるまでは、「自己犠牲の期間」という印象が強くありました。

以前、「あした、ハッピーになぁれ!」の番外編「女医、専業主婦と暮らす<中>」にも書いたように、結婚したら「まともな大人」の証しがもらえるものだと思っていました。だから結婚後に、「次は子どもだね」「親になって一人前」とあちこちから言われるようになって、まともな大人とまだ認めてもらえていないことにショックを受けました。 医師に限らず、結婚して出産して、仕事もバリバリしてという女性をテレビやSNSでたくさん目にします。女性の「成功モデル」として取り上げられていることが多く、世の中の女性たちの励みになっている一方で、プレッシャーにもなっているのではないかと思います。

実は過去に「妊活」をしたことも…

実は私も周囲の声に踊らされて、「次は出産!!!」と前のめりになった時期があります。子どもを「産まねばならぬ」という思いにとらわれ、「妊活」に片足を突っ込んでいましたが、正直にいうと、その時ですら子どもが「欲しい」とは思っていませんでした。

それにもかかわらず、私が出産を選択しようとしたのは、「まともな成功のレールに乗りたかったから」の一言に尽きます。そもそも、私たち夫婦は子どもに関しては、「いなくていいよね」というスタンスで結婚しました。だから一層のこと、子どもを作ろうという私の提案を聞いた夫が「話が違う!」と、ものすごく反対してくれたら……とも思っていました。

しかし、実際は私のしどろもどろな妊活の提案を聞いた夫が「やるならちゃんとやろう」と基礎体温計を買ってきたため、逃げ場がなくなりました。自分の発言の責任を取らされていると強く感じたのを覚えています。いざ妊活を始めてみると、それまで面倒で仕方なかった生理なのに毎月来るたびにホッとして、「私は妊娠したくないんだな」と心底気付かされてしまいました。

妊娠や出産で、体が自分でコントロールできない状況になったり、自分の感情が想像の範疇(はんちゅう)を超えてしまったりすることに、ものすごく不安があります。妊娠について考えるとき、ポジティブなことは一つ二つしか思い浮かばないけれど、できなくなること、今と比べて悪い方向に変わってしまうことの想像はどんどん膨らみます。結局、産みたくない私が何をどう考えても、産まない決意が固まっていくだけなのです。

ちなみに夫は、妊活をやめる時も何も言いませんでした。役割分担的に、子どもができたら子育てを担うのは夫だという覚悟はしていたようでしたが、私にしかできない部分は私が決めたらいいというスタンスを貫いています。後々、子どもが欲しかったのかどうか聞いてみると、私が欲しいならいてもいいかなくらいの気持ちだったようです。教育方針だけは自分がハンドルを握ろうと思っていたということでした。子どもができなかったことに、落胆と安心のどちらもなかったと言っています。

産まない選択をした人にも居場所を

今年で39歳。ここ最近も産みたくない気持ちは変わらないのですが、夫と子育てはしてみたい気もしていて、考えはまとまりません。まだまだ外野からの「子どもがいないと老後寂しいよ」「まだ全然産めるでしょ、私なんか〇歳で産んだのよー」「出産して子どもを育ててようやく一人前の女」という声はやみません。聞くたびに、まともな大人だと思ってもらえない自分に落ち込みながらも、毎日幸せで、今の幸せに変化がいらないと感じている私もいます。「産んだらもっと幸せよ」もたくさん聞きますが(笑)。

子どもを産みたくないと思うことはいけないことなのでしょうか。

私は、子どもを産みたい女性を否定するつもりは全くありません。子どもを産むこと、育てることはきっと素晴らしいのだろうと思います。でも、どうしてその反対にある“産みたくない”という気持ちはこんなにも世の中で否定されるのでしょう。私の体、私の卵子、私の子宮――「好きにさせて!」と思います。

産みたくない私にも居場所があっていいはず。産みたくない女性だって、「まともじゃない感」をこれほどまでに押し付けられることなく生きたっていいでしょう。私は高額納税をして、選挙に行って、十二分に勤労しているのです。出産して子育てをしないと一人前じゃないのなら、それで結構。

まあ、人の気持ちは変わりやすいので、もしかしたらある日突然、雷に打たれたように子どもが欲しくなるのかもしれないし、はたまたこのまま閉経を待つのかもしれない。10年後の私がどうなっているのかは分かりません。でも、もし自分が子どもを産んだとしても、このままだったとしても、女性の“産みたくない”を否定する社会には異を唱え続けたいと思っています。

ではでは、明日からの毎日が、もっとハッピーなものになりますように。

PROFILE

湊医師のプロフィールイラスト

湊 しおり(みなと・しおり)

藤田医科大学 総合診療プログラム(藤田総診)医師。
1984年生まれ。広島大学出身。整形外科専門医、抗加齢学会専門医。
気が多く、衝動性が強いため、壁にぶつかることも多々。いつも思いのままに、勢いで何とかしている。素敵な人と出会う運だけは日本一良いとの自負がある。自分を持て余しつつ、専業主夫の夫とペット(犬4匹、猫2匹)に支えられながら、「何とか生きています」。

栗生 ゑゐこ(くりう・えいこ)

栗生えいこさんのプロフィールイラスト

イラストレーター。
茨城県つくば市出身。筑波大学比較文化学類・桑沢デザイン研究所デザイン専攻科(プロダクトデザイン科)卒業。
2009年よりフリーランスのイラストレーターとして活動し、書籍・WEB・広告などを中心にイラストを提供している。著書に『赤子しぐさ』『きみはいつも想定外-おさなご日記-』など。

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