異常事態にもほどがある 韓国・研修医スト問題
編集部セレクト 世界の医療News マイシュー
2024年3月14日
世界各国の大手メディアや医療メディアなどが配信しているニュースの中から、皆さんにぜひ知ってほしいものをマイシュー(毎週)選んでお届けします。今回は、「韓国の研修医ストライキ問題」についてのニュース4本を取り上げます。
まとめ:医療ニュース編集部
編集部コメント
韓国で研修医がストライキを起こし、医療現場が大混乱しているというニュースが、2月中旬から報じられています。ストライキの理由は、韓国政府が示した医学部定員の拡大計画への反対です。
各報道によると、韓国は人口規模に対する医師数が先進国の中では最低レベルで、特に賃金が低いという小児科や救急科などは慢性的な医師不足に陥っているといいます。この対策として政府が2月、現在3508人の医学部入学者数を来年度から2000人増やすことを発表したそうです。
この計画に、「ビッグ5」と呼ばれるソウルの5大病院(ソウル大、セブランス、サムスンソウル、ソウル峨山<アサン>、ソウル聖母)に所属する研修医らが反対して職場から離脱。同様のことが全国的に起きているというのです。ストライキを起こしている研修医の数は約9000人で、全国に約1万3000人いる研修医の7割近くになるとのことです。
韓国の研修医が一斉に退職届 政府の医学部増員方針に反発
AP通信が2月19日、韓国ソウルの5大病院に勤務する研修医らが19日に一斉に退職届を提出し、20日から各自の持ち場を離れる予定だと報じました。韓国政府による医学部増員計画への反対が理由で、「医療の質の低下につながる」として大反発しているそうです。他の病院でも数百人の研修医が退職届を提出しており、この時すでに手術や治療に遅れが生じ始めていたといいます。政府は研修医に勤務の継続を要求すると共に、急患に対応するため状況に応じて軍医を投入する用意をしているとのことでした。なお、韓国の成人1002人を対象にした世論調査では、回答者の76%が政府の計画に賛成で、反対したのは16%だったそうです。
編集部コメント
このストライキによって、手術や治療を中止される患者が多数出ただけでなく、急患が死亡する事例も発生したといいます。
韓国の文化や事情をよく知っているわけではありませんし、今回の状況も海外メディアの報道で把握したものでしかありません。限られた情報の中で、認識が間違っているところがあるかもしれませんが、このニュースに触れていくつか思ったことがあります。
まず、このストライキは誰のために行っているのかということです。医療は患者のためにあるのですから、ストライキは「患者の利益にならない」という理由で実施されなくてはなりません。それなのに、自分たちが職場を離れたせいで患者が犠牲になっているのです。このことに対して、医師として何を思うのでしょう。
そして、ストライキというのは、まず影響の小さいところから始めて、だんだん影響を大きくしつつ、双方が話し合って妥協点(合意点)を見つけていくものではないのかということです。医療をまひさせるという、とてつもなく大きな影響を与えるストライキという手段を、なぜ最初から取ったのでしょうか。
韓国の研修医スト、復職しなければ医師免許停止と政府が警告
AP通信が2月26日、韓国政府が、医学部増員計画に反発して研修医約9000人が起こしているストライキについて、4日以内に復職しなければ医師免許停止などの法的措置を講じると警告したと報じました。政府は、29日までに復職すれば処分は求めない方針を示しているとのことです。ストライキの影響で、手術や治療の中止が多発しているそうです。政府は公立医療施設の診療時間を延長するなどして医療の安定化を図っているといいます。しかし、ストライキの影響で、80代の急患の女性がたらい回しの末に死亡したり、55歳の喉頭がんの男性患者が抗がん剤治療を受けられずに退院させられたりしたという事例も報じられています。ストライキ参加者は「計画している数の新入生を大学は受け入れられない」「この政府計画では慢性的な医師不足を解消できない」「医師が増えることで競争が激化し、過剰な治療を行う医師が出てきて公的医療費の負担になる」と主張しているとのことです。
編集部コメント
医学部の定員を拡大し、医師の数を増やすという政府の計画に反対するのに、なぜ研修医だけがストライキを行っているのかも、今回の問題で理解できないことの一つです。研修医が自分たちの境遇改善のためにストライキを起こしているわけではないのです。しかも、研修医が先輩医師を差し置いて、ストライキを起こすなんてことがあるのでしょうか。
韓国・研修医ストで医師らが支持のデモ 政府の「法的措置」に反対
AP通信:South Korean doctors hold massive anti-government rally over medical school recruitment plan
ストライキを起こしている研修医への支持を表明し、数千人の医師らが3月3日、ソウル市内でデモを実施したと、AP通信が4日に報じました。韓国政府が、ストライキを続ける研修医に対する医師免許の停止措置について言及したことがきっかけだといいます。一方で、医師らの行動は国民の支持を得ておらず、国民の多数が「医学部の定員拡大」に賛成しているそうです。韓国では医師は最も高い給与をもらっている職業の一つだといいます。「医師数の増加による収入の減少を心配しているに過ぎない」との批判も上がっているようです。なお、この問題を巡っては、研修医のストを扇動・教唆したとして、警察が大韓医師協会の幹部5人を捜査しているとのことです。
編集部コメント
何かの課題を解決しようとして改革を行う場合、政府はできる限り多くの関係者と最終的な到達点について合意をしておくべきだと思います。今回であれば、医師が不足しない体制として、将来的にどんな形にしようとしているのか。どうやって診療科による医師の偏在をなくそうとしているのか。どういうステップでそこに到達させるのか。
どのような立場の集団にも「ディベート」が得意な人はいるので、相手が間違っていて自分たちが正しいと周囲に思わせてしまうような批判や反発は当然出てきます。でも、少なくとも政府は、「計画している数の新入生を大学は受け入れられない」「この計画では慢性的な医師不足を解消できない」「医師が増えることで競争が激化し、過剰な治療を行う医師が出てきて公的医療費の負担になる」という主張を即座に論破するぐらいの答えは持っているべきです。
韓国政府はストライキを起こしている研修医の医師免許を停止する措置を取るそうです。強硬手段を取り合うだけでは、問題は解決しません。今回の問題が、ただの政府対医師の争いで終わってしまったら、本来一番考えられてなくはならないはずの患者が損をしただけになってしまいます。とにかく患者第一で、双方が前向きな話し合いに進もうとすることを期待します。
韓国研修医スト 政府が職場離脱続ける医師の免停手続きを開始
韓国政府が3月4日、ストライキ終了を求める命令に従わなかった数千人の医師免許を停止する手続きに入ったと、AP通信が同日に報じました。職場を離脱した約9000人の研修医に対し、政府は繰り返し職場復帰を求めてきました。しかし、それに応じたのはわずかだったそうです。ストライキを続けた研修医には少なくとも3カ月の免許停止処分が科される見通しです。免許の停止が実際に発効するまでには数週間かかるといいます。ストライキに参加した研修医らは、「医学生を増やしても、結局は高収入で人気のある形成外科や皮膚科に進んでしまう」と主張しており、根本的な医師不足の改善にはつながらないと考えているとのことです。
※この記事はマイナビDOCTORの「サクッと1分!世界の医療ニュース」を再編集したものです
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医療ニュース編集部
藤野基文:記者・編集者。2004年から全国紙の記者として勤務し、主に医療・科学分野を担当した。18年にマイナビに移ってからは、グループ会社エクスメディオ社が運営するオンライン臨床支援サービス『ヒポクラ×マイナビ』の編集長を務め、現在は『マイナビRESIDENT』や『マイナビDOCTOR』などの各種コンテンツを制作している。
金子省吾:記者・編集者。2017年から地方紙に勤務し、主に社会部の記者として事件・事故や司法、市政、スポーツ、気象、地域活性化の取り組みなどを取材した。20年にマイナビに移って医療の取材をはじめ、グループ会社が運営するオンライン臨床支援サービス『ヒポクラ×マイナビ』編集部で医療ニュース作成に携わった。現在は『マイナビRESIDENT』や『マイナビDOCTOR』などの各種コンテンツを制作している。
許田葉月:記者・編集者。2021年からウェブメディアに勤務し、文学や音楽などのトレンド、社会課題などを取材した。23年にマイナビに転職して医療の取材を開始。『マイナビRESIDENT』や『マイナビDOCTOR』で各種コンテンツの制作を担当している。
阿部あすか:翻訳家、ライター。東京外国語大学(英語専攻)を卒業後、大手法律事務所の米国人弁護士などの秘書、英会話学校の講師、専門紙の英語版編集者として勤務した。2019年から編集部の一員として医療ニュースの記事を執筆している。