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21. デキる研修医の病状説明
初期研修医として身に付けてほしい病状説明のポイントと、初期研修後の予習として初回病状説明チェックリストをご紹介します。
日々の診療コミュニケーション全てを病状説明の機会と考えよう!
病状説明は、医師が病気の症状、検査、治療、予後などをよく説明し、患者や家族の理解と治療に対する合意を得るための面談の場です。
日本の医療界では昔から慣習的にムンテラ(口での治療)と呼ばれ、今ではインフォームドコンセント(充分な説明を受けた上での同意)と言われることが多くなっています。
皆さんも医学生時代のBSL(臨床実習)中に、指導医の先生から「今からムンテラするぞ!」とか「これからインフォームドコンセントとるよ!」と言われて、患者さんへの病状説明の場に同席した経験があると思います。
病棟の入院患者さんの場合は、病状説明といえば術前や侵襲的検査(造影CTやカテなど)、輸血時などに同意書などの書類を用意して、個室で行われるというイメージが強いと思いますが、本来は同意書をとらなくても個室でなくても医師側から患者側への「病状」の説明は全て病状説明です。
外来診療などでは、診察・検査所見の結果から治療法・副作用の説明まで、患者さんとの口頭でのコミュニケーションはある意味全て病状説明です。
入院患者さんの場合も席を設けて改まって面談をすることだけが病状説明ではありません。
必要があればその都度患者さんやご家族の疑問に答え情報を共有する、患者と医療者が一丸となって治療に取り組むために必要なプロセスが病状説明です。
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患者が「よくわかる」病状説明の基本を身に付けよう!
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自分が患者となって入院した経験のある人には実感としてよくわかると思いますが、患者にとって「わからない」という心境は不安や恐怖の大きな種になる要素です。
- 「自分の病気の病名がよくわからない」
- 「この病気が治るのか治らないのかわからない」
- 「どんな合併症や後遺症があるのかわからない」
- 「治療に何カ月、何年かかるのかわからない」
「わからない」ことをきっかけに患者さんやご家族は不安になり、最悪医療者や病院に対する不信感につながりかねません。
そういった患者さんやご家族の「わからない」を早期発見し不安の芽を摘める機会は、改まった個室面談ではなく日常診療におけるコミュニケーションです。
日々の回診などで丁寧に「よくわかる」病状説明を行うことで、患者さんを安心させ主治医としての信頼を積み重ねていきましょう。
【どんなに基本的な専門用語でも一から丁寧に説明しよう】
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患者・家族への病状説明で最初に心がけておくべき基本中の基本は、医学的な専門用語は可能な限り少なくして、使うときはその専門用語が自分にどれだけ基本的な用語に思えても丁寧に一から説明するということです。
私たち医師にとって臓器の名称は当たり前過ぎて特に意識せずに使ってしまいます。
しかし、臓器の名称というのはそれだけで立派な専門用語です。
患者さんやご家族にとって腎臓や肝臓と言った臓器の名前自体は聞いたことがあっても、どのような臓器なのかをイメージできる人は意外と少ないものです。
「うちのおばあちゃん、前の先生に肝臓がちょっと悪いって言われたことがあります」と言った家族が肝臓と腎臓を勘違いしていて実は腎不全だったなんて話はよくある話です。
前医の先生がしっかり説明していても、患者さんが理解していなければ「腎臓が悪いなんて初めて聞いた!」と言われることもあります。
皆さんが患者さんやご家族に病状説明をする際には、自分が当然のように使っている単語を相手がどの程度理解しているのか(たとえば臓器であれば、どういう臓器なのかというレベルから)確認して、できるだけ基本から丁寧に説明するように心がけてください。
【話すスピードは少しゆっくり過ぎるぐらいがちょうど良い】
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自分には「少しゆっくり過ぎるかな?」と感じるぐらいのスピードで、一言一言はっきり、ゆっくり話すということも病状説明には大切なことです。
頭でわかって自分ではゆっくり話しているつもりでも、患者さんやご家族には「説明が早くて理解がついていけない」と思われることがよくあります。
どの病状説明でも話さなければならない内容は多く、医師は得てして早口になりがちです。
特に仕事に追われて忙しい研修医の場合、細かい検査値の数値を矢継ぎ早にまくしたててしまうことも珍しくありません。
ゆったりと余裕を持った話し方はそれだけで患者さんを安心させる材料になりますので、大切な病状説明の時ほど意識してゆっくり丁寧に話しましょう。
話の途中で時折「ここまでで何か気になることやご不明な点はありますか?」と質問できるぐらいの余裕が出て来れば完璧です。
【キーワードと模式図は必ず紙に書いて説明しよう】
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病状説明時には、話の鍵となるワード(診断名や治療名)や理解を助ける模式図(臓器構造などを示す図式など)を効果的に使って話すことが重要です。
皆さんが指導医の病状説明に同席していれば、何かしら「紙」を用意して、指導医が説明していたところを見ているのではないでしょうか?
患者さんやご家族にとって普段聞き慣れていない診断名や治療名などの専門用語を口頭だけで説明されても覚えきれません。
要点となるキーワードと模式図をしっかりと書面に残しておけば、患者さんとご家族は後でいくらでも読み返して確認することができます。
署名を求める同意書などの改まった病状説明(術前や輸血時など)の場でなくとも、回診や検査結果の報告時など日常診療のちょっとした場面でも、「紙に書いた病状説明」は患者医師間の情報共有と信頼関係の構築に非常に効果的です。
ベッドサイドで患者さんに何か聞かれた際には、キーワードと模式図を簡単なメモ書きで説明してあげてください。
皆さんが紙に書いて説明すれば、患者さんもご家族も「丁寧に説明してくれた」と感謝してくれるはずです。
達筆である必要も上手い絵である必要もなく、検査値の説明であれば時系列データをプリントアウトした紙に書き込む程度で十分です。
患者さんとの普段のコミュニケーションから、ぜひ「紙に書いた病状説明」を活用してください。
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駆け出し主治医のための初回病状説明チェックリスト
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初期研修が終われば立派な医局員もしくは後期研修医として、病棟や外来で責任ある主治医として病状説明を行うことになります。
主治医としての病状説明で特に大切なのは、入院時に行う初回の病状説明です。
病棟に新しい患者さんが入院した日に、できるだけ早めに患者さんと付き添いのご家族に対して、病気や治療について一通りの説明を行いましょう。
患者さんもご家族も初めて会う入院主治医がどんな人間なのか期待と不安でドキドキしながら待っています。若手医師が主治医としての信頼を得るためにはファーストインプレッションが大切です。
以下のチェックリストを参考に、堂々と筋道立てた病状説明を行い、主治医としての第一歩を踏み出してください。
- ・身だしなみは乱れていないか(特にネームプレートが隠れないように)?
- ・はじめに自分の所属、氏名をしっかり名乗って、頭を下げて挨拶できたか?
- ・メイン疾患、合併症、関連疾患を整理した上で病名(診断名)を説明できたか?
- ・症状、経過から診断に至るプロセス(鑑別診断、診察・検査所見)を説明できたか?
- ・病因、病態、診断基準、重症度評価について客観的な尺度(ガイドラインなど)も踏まえた上で説明できたか?
- ・治療法の選択肢を漏れなく説明し、各治療法を比較(メリット、デメリット、適応基準など)して説明できたか?
- ・治療薬の副作用や検査・治療の合併症を頻度、危険度、対応も含めて説明できたか?
- ・想定される入院(治療)経過を具体的な時間単位(日、週、月)で説明できたか?
- ・社会的背景(家族来院の都合、経済面など)に配慮できたか?
- ・疑問や不明点があれば、いつでも遠慮なくご質問頂くように伝えられたか?(ナースへの言伝も含め)
バックナンバー
- Backnumber01:はじめての入院業務
- Backnumber02:はじめてのカルテ作成
- Backnumber03:はじめての他科コンサルテーション
- Backnumber04:はじめての朝回診
- Backnumber05:はじめての夕回診
- Backnumber06:はじめての紹介状作成
- Backnumber07:はじめての退院業務
- Backnumber08:研修病院の選び方(1)-基本編-
- Backnumber09:研修病院の選び方(2)-初期研修プログラム編-
- Backnumber10:研修病院の選び方(3)-専門診療編-
- Backnumber11:研修病院の選び方(4)-病院見学編-
- Backnumber12:はじめての当直
- Backnumber13:はじめての回診プレゼン
- Backnumber14:はじめてのカンファレンス
- Backnumber15:デキる研修医のコミュニケーション 内科ローテ編
- Backnumber16:デキる研修医のコミュニケーション 外科ローテ編
- Backnumber17:デキる研修医のコミュニケーション はじめての飲みニケーション
- Backnumber18:デキる研修医の診察術 身体所見編
- Backnumber19:デキる研修医の診察術 バイタルサイン編
- Backnumber20:デキる研修医の診察術 検査所見編
- Backnumber21:デキる研修医の病状説明
- Backnumber22:デキる研修医の論文抄読会
PROFILE
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竹田 陽介 Takeda Yosuke
心臓病、生活習慣病の診療を専門とする内科医師。チーム医療におけるコミュニケーション技術や患者満足度調査において高く評価されている。独自の医療コミュニケーション理論に基づく病状説明は、わかりやすく安心できると幅広い年代から信頼され、家族を連れて来院する患者も多い。
現在、循環器内科医師としての診療に加え、Vitaly代表としての講演・研修や企業に対する健康経営コンサルティングも行っている。