学校で教えてくれないデキる研修医のつくり方

19. デキる研修医の診察術 バイタルサイン編

バイタルサイン(生命徴候)を診る際に意識してほしいことは、数値の先にある患者さんの病態をイメージすることです。数値そのものより患者さんの身体を診ることのできる研修医になってください。

基本だけどやっぱり大切なバイタルサイン

血圧、脈拍、体温、呼吸数といったバイタルサインは、普段あまり深く考えることなく数値を見てしまう項目です。 誰でも簡単に測定できる基本項目がゆえに、誰かが先に測ってくれていれば自分でわざわざ測り直そうとは思いませんし、バイタルチャート(温度版)を見て「正常範囲か異常値か?」だけをチェックして終わってしまうこともよくあります。

しかし、バイタルサインというのは、意味もなくバイタルサイン(生命兆候=「その人が生きている証」)と呼ばれているわけではありません。
たとえ数値が正常範囲であったとしても、症例ごとのベースラインからの変動を見て病態の変化を推測することもできます。

また、複数のバイタルサイン(たとえば血圧と脈拍数、発熱と脈拍数など)が同時に変化しても、病態を推測することができます。
真面目に考えると案外奥が深く、いろいろと学ばなければならないことも多いバイタルサインですが、今日は時間のない研修医でもすぐに覚えられてベッドサイドで活用できるバイタルサインの診察術を2つご紹介します。

step1SpO2(動脈血酸素飽和度)だけではわからない! 呼吸数で気付く潜在的な低酸素血症

担当患者さんのSpO2がどれぐらいに低下すれば、低酸素血症を疑うでしょうか? 皆さんは電子カルテのバイタルチャートで、看護師さんの測ってくれたSpO2を頻繁にチェックし、毎回SpO2が低下していないか気をつけて見ていると思います。
SpO2はセンサーの接触具合で数値がよく変動しますので、SpO2が95%ぐらいまでであれば多くの研修医は「特に下がったわけではないかな」と解釈するでしょう。

確かに低酸素血症をきたす基礎疾患がない患者さんであれば、ルームエアーでのSpO2 95%に病的意義はほぼありません。
しかし、心不全や肺炎などで酸素投与中の患者さんのSpO2 95%を解釈する際には、呼吸数を踏まえた上で酸素化の程度を考える必要があります。

体内が低酸素に傾けば人体は呼吸数を多くすることでそれを代償しようとします。
同じ95%という数値でも、呼吸数10回/分でのSpO2 95%と、呼吸数20回/分のSpO2 95%では意味が全然違ってきます。
SpO2だけ見ていると頻呼吸で代償された低酸素血症を見逃してしまうことになります。

呼吸数の基準値は12~20回/分と言われていますが、ベッドサイドでよく患者さんを診ていれば安静時に16回/分を超えることはそうそう無いことに気づきます。
普段の呼吸数が10~14回/程度の方が、16~18回/分になったときに「もしかして代償性に呼吸数が増加しているのかな?」と正常範囲の呼吸数でも異常の可能性に気付くことができるのがデキる研修医です。

呼吸数の測定は、患者さんの胸郭の動きを30秒間~1分間は観察して数えるようにしましょう。
10秒間や15秒間しか呼吸数を測らないと1分間に換算した際の誤差が大きくなり過ぎます。

日々ベッドサイドで繰り返し患者さんの呼吸を診て慣れてくると、朝の回診で回ってきた瞬間に「ん?なんか胸の動きが目立つな。呼吸が速くなっているかな?」と患者さんの頻呼吸を疑えるようになります。

SpO2でわかるのは結果としての酸素飽和度ですので、皆さんは呼吸数の変化から潜在的な低酸素血症にも気付くことのできる研修医になってください。

point2心電図の前にわかる! 脈を触れて見つける心房細動

皆さんはベッドサイドで患者さんを診察する際、手首の橈骨動脈に触れて脈を診ているでしょうか?

正直に言えば私も研修医のときは全員の患者さんの脈を診ていたわけではありませんが、「脈に触れる」ということは案外重要な診察術です。
研修医にとって「脈拍数」は主に看護師さんの検温時に測定された値をパソコン上でチェックする項目です。
確かに脈拍数のレートであれば、誰がとった値を後で見ても頻脈か徐脈かを判断することができます。

しかし、実際に自分で患者さんに手を当てて脈を診れば、脈のリズム、左右差、大小、さらには手指の温度や発汗の程度など、実にいろいろなことがわかります。

といっても、忙しい初期研修中に全ての患者さんの脈を丁寧に診ることは現実的に不可能です。デキる研修医を目指す皆さんには、脈のリズムだけで簡単に心房細動を見つけられる方法を覚えておいてください。

研修医に脈の触診で見つけてほしいのは、無症候性の発作性心房細動(いわゆるPAF)です。
入院患者さんの多くは、入院時ルーチンで心電図をとっていますので、慢性の心房細動や明らかな不整脈はすでに発見されていることでしょう。

しかし、高齢者でしばしば見られる発作性心房細動は無症状であることも多く、単回の心電図検査だけではなかなか見つかりません。
心房細動は脳梗塞の原因となりうる不整脈であり、脳梗塞発症のリスク(CHADS2スコア)を評価した上で、抗凝固療法を検討する必要があります。

皆さんが初期研修中に入院患者さんの発作性心房細動を見つけてくれれば、将来の脳梗塞発症を防ぐことができます。 看護師さんの記録してくれたバイタルチャートに脈(不整)と記載があれば狙い目です。

「脈が不整?どうせ期外収縮でしょ?」と安易に考えずに、回診時に患者さんの脈を触れてしばらく脈のリズムをとってみてください。
「トッ、トッ、トッ」という脈のリズムが、「トトッ」と2回連続しその後規則正しいリズムになれば期外収縮。 「トトッ、トッ、トトット、トットト」と3拍以上の不整なリズムを感じるようなら、その時点でほぼ心房細動と診断できます。
心房細動は絶対性不整脈という名の通り、「全ての脈拍が不整」な不整脈です。早速心電図をとって心房細動を確定診断し、抗凝固療法について循環器内科にコンサルテーションしましょう。

最近では、高齢者に1日2回心電図をとるようにすると2週間で全体の3%の人に心房細動が見つかるという報告もあります。
私自身も、診察時には毎回脈を触れて診ていますが、しばしば無症候性の心房細動を見つけます。

皆さんがいろいろな診療科をローテして受け持つ入院患者さんの中にも、まだ診断されていない無症候性の発作性心房細動が隠れているはずです。
脈の完全な不整=心房細動とわかっていれば、脈を触れただけで心房細動を診断できます。
触れただけで不整脈を見つけられる研修医になって、患者さんも指導医も驚かせてあげましょう。

PROFILE

  • 竹田 陽介 Takeda Yosuke

    心臓病、生活習慣病の診療を専門とする内科医師。チーム医療におけるコミュニケーション技術や患者満足度調査において高く評価されている。独自の医療コミュニケーション理論に基づく病状説明は、わかりやすく安心できると幅広い年代から信頼され、家族を連れて来院する患者も多い。

    現在、循環器内科医師としての診療に加え、Vitaly代表としての講演・研修や企業に対する健康経営コンサルティングも行っている。


     株式会社Vitaly

お役立ち

ご利用ガイド


友人紹介キャンペーン